競合サイト分析ツールを提供するイスラエル発のWebマーケティング支援会社シミラーウェブが、2つの手立てで日本市場に攻勢をかける。まず顧客の信頼獲得のため、非開示だったデータの収集・分析の仕組みを一部開示。併せて2019年4月から、特定業種向けに機能を特化したスイーツ製品(業種向け分析ツール)の提供を開始した。

シミラーウェブ(SimilarWeb)のキャリー・ラゾルチャクCRO(チーフ・レベニュー・オフィサー)
シミラーウェブ(SimilarWeb)のキャリー・ラゾルチャクCRO(チーフ・レベニュー・オフィサー)

 シミラーウェブは3年前から、競合サイト分析ツール「SimilarWeb」を、代理店を通じて日本市場に提供してきた。競合サイトがどんなユーザーにどのように利用されているかを、いわば“丸裸”にするツールの分析精度は高く、キャリー・ラゾルチャクCRO(チーフ・レベニュー・オフィサー)が、「日本市場では3年で1000%の成長を達成した」というほど、売り上げを順調に伸ばしてきた。

 一方で、大量のWebサイトの情報を収集しているにもかかわらず、そのデータ収集手法や分析技法を非開示としてきたため、「イスラエルで開発された、合法とは言い難いデータ収集手段を用いているのではないか」という顧客の懸念を払しょくし切れていなかった。世界中でデータの無断収集・活用を厳しく断ずる最近の傾向もあり、長い目で見た場合、顧客の離反を招く恐れがあった。

 そこで、顧客の懸念を払しょくするため、2019年に入ってデータの収集・分析について一部を開示した。

SimilarWebのデータ収集とデータ推計の概念
SimilarWebのデータ収集とデータ推計の概念

 まずデータの収集については、データパネルとして登録した端末から、その端末を使うユーザーのネット上の行動データを把握・取得することを基本としている。収集するのはあくまでネット上の動きのみで、個人情報は取得せず、IPアドレスやCookieは利用しない。ユーザーのWebサイト内の行動を把握できる仕組みをSimilarWebが用意し、提携先のアプリに組み込む。ユーザーが自分の利用する端末に、ブラウザーの拡張機能を用いて提携先のアプリをアドオンすると、その端末がパネルに登録されたことになるわけだ。ただし、どのアプリが提携先か、どのくらいの数の端末がパネルとして登録されているかは、非開示のままだ。

 また、シミラーウェブは提携先と、「データ取得方法が各国の個人情報に関する法律に準拠していること」「シミラーウェブにいかなる個人情報も渡らないこと」を明示した契約を締結。ユーザーがアドオンを追加する際に、シミラーウェブにデータが渡っていることをユーザーに明示するかどうかは、提携先に事実上、判断を任せている。従って、提携先アプリがシミラーウェブにデータが渡っていることを明示していなければ、ユーザーはその事実を知らないこともあり得ることになる。

 またシミラーウェブは、パネルから収集したデータを分析する際の推計アルゴリズムを補完するため、ユーザーのネット上の行動データを、ISPやこうしたデータを持つ他の企業から購入している。さらに、インターネットの中をクローリングしてWebサイトやアプリストアの公開情報を収集したり、多数のサイトやアプリから、管理者が利用する直接計測データ(管理者が米グーグルや米アドビ、アップルストアなどの計測サービスから取得)の提供を受けたりして、データ分析に用いる推計アルゴリズムの見直しや精度向上に役立てているという。こうした手法でデータの収集・分析を進めることで、シミラーウェブは、特定のサイトの利用のされ方を、高い精度で分析できるというわけだ。

4つの特定業種向けツールを投入

 こうした競合サイト分析ツールに加え、シミラーウェブは19年4月から、特定業種向けに機能を特化した分析ツールを複数束ねたスイーツ製品(業種向け分析ツール)も、世界5カ国で発売して収益増を図る。日本はそのうちの1カ国という位置付けで、同社が日本市場を重視していることが見て取れる。

 具体的には4つの新しい分析ツールをまず投入する。1つは、スタートアップやベンチャーなどに出資する投資会社や、一般企業内の投資部門向けの「Investors Solution(インベスターズ・ソリューション)」だ。投資の候補となるスタートアップやベンチャー、それに上場企業のWebサイトを分析して、企業のパフォーマンスや将来性、健全性を評価し、投資に値するかを判定するのに役立てることを狙っている。

 もう1つは、営業担当者向けの「Sales Solutions(セールス・ソリューション)」だ。営業先候補の企業のWebサイトやアプリから得た情報、実際に接触した営業担当者からの評価などを、1つのプラットフォームに集約・分析してリードリストを作成し、各企業に営業した場合の成功確率などを算出。営業担当者に的確なタイミングで営業のための行動を促す。

 3つ目は、主に社内リサーチャー向けの「Research Solution(リサーチ・ソリューション)」だ。消費者向けブランドやEC事業者などの社内リサーチ部門が、同業のトッププレーヤーの動向や戦略などを、当該企業のWebサイトの分析からあぶり出す際に用いる。

 そして最後が、マーケター向けの「Marketing Solution(マーケティング・ソリューション)」だ。他社がどんなデジタルマーケティング戦略で成功しているかを、データを収集・分析することで明らかにしたり、最近のトレンドはどんなものかを、大量のWebサイトやアプリへの流入トラフィックを分析して示したりする。

 代理店が3年間、日本市場で順調に収益を稼いだ結果、シミラーウェブの世界の売り上げに占める日本市場の割合は10%に達するまでになった。ラゾルチャクCROは成功の理由を、「日本市場では、流通・小売り、エンターテインメント、人材育成といったビジネス領域に大企業が存在し、これらの大企業が、データ、それも正確なデータを重視している。こうした日本のビジネス環境が、シミラーウェブの競合サイト分析ツールの普及を後押しした」と話す。

 今後も、特定業種向けツールの新たな投入で、過去3年と同じくらいの成長率を見込むという。その後押しをするため、18年3月に日本オフィスを開設した(法人設立は17年2月)。代理店と共に新たな顧客を開拓しながら、代理店が開拓した顧客のサポートも日本オフィスが直接担える体制を構築して、顧客満足度を引き上げながら市場開拓を進めていく考えだ。

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