イオンは2019年4月8日、“時短”と“脱・手抜き”を両立するミールキット「トップバリュ CooKitシリーズ」の新商品、フローズンタイプの「トップバリュ フローズンCooKit」を発売。他社はチルドタイプのミールキットのみを提供する中、同社はなぜフローズンタイプを発売するのか。
顧客アンケートで見えた課題と市場開拓の可能性
イオンの「トップバリュ CooKitシリーズ(以下、クッキット)」は、忙しい共働き世帯を狙った簡単に調理できるミールキット。材料は下準備されているためカットや味付けがいらず、10分程度で料理が完成する。同社は2018年3月に同シリーズのチルドタイプを発売し、イオングループ300店舗で販売。19年2月までで2億5000万円を売り上げた。
ミールキットといえば、凍る手前の温度で冷蔵したチルドタイプが主流だが、新商品は日本初のフローズンタイプ。イオントップバリュ取締役マーケティング本部本部長の和田浩二氏は開発の狙いを「どちらかというと市場を作っていく商品」と話す。
「すでに需要があれば各メーカーも(フローズンタイプの)商品開発に取り組むと思うが、メーカーの商品として流通できていない。私たちはそこに挑戦し、需要があるのではないかと考え、テストしていく」(和田氏)
発売に先立ち、イオンはチルドタイプ購入者に対してアンケートを実施。「リニューアルされたら購入したい」と回答した30.3%の中で、「賞味期限が短いので、延びたら(買う)」という人の割合が16.7%を占めた。この結果を踏まえ、「フローズンタイプの需要はある」と同社は見ている。
チルドタイプの消費期限は購入から2~3日以内。土日に平日分の材料をまとめ買いする人にとって、チルド食品の買い置きはしにくい。しかし和田氏は、「今日使いたいというわけでなく、“時間も気力も無い日に備えたい”という方も多い」と予測する。「買い置きができるなら買う」という新しい市場を狙い、フローズンタイプを開発したというわけだ。
イオンが日本に展開する2500店舗(総合スーパー・スーパーマーケット含む)のうち、現在約300店舗でクッキットのチルドタイプを取り扱っており、今後も増やしていく予定だ。同社はクッキットシリーズ全体の19年度(19年3月~20年2月)の年間売り上げ目標を10億円とし、フローズンタイプ・チルドタイプともに年間5億円の売り上げを目指す。
手抜き料理への“罪悪感”に注目
そもそもクッキット開発の背景には、共働き世帯の増加と夕飯作りの短時間化がある。内閣府男女共同参画局の「男女共同参画白書」によると、18年には共働き世帯は全体の63%(残り37%は専業主婦世帯)を占める。さらにNHKによる「食生活に関する世論調査」では、夕飯作りにかける時間を1時間未満とする世帯も増加している。
その他、キユーピーによる「食生活総合調査(2013年度実施)」では、既婚女性に対して「手作りだと思う料理」と「手抜きの罪悪感がある料理」について質問したところ、「パスタ麺をゆでて市販のパスタソースをかけた」という項目で、“罪悪感がある人”の割合が“手作りと感じる人”を上回った。
これらの調査結果から、イオンは「フライパンなどでの加熱調理」が手作り感を醸し出す大きな要素だと判断。簡便でも手作り感を出せるクッキットの開発につながった。
流通や顧客データの収集にも貢献
フローズンタイプは流通面でもメリットがある。チルドタイプは長期保存ができないため取扱店舗が限られていたが、フローズンタイプは賞味期限が1年程度あるため全国展開できる。取扱店舗が増えればより多くの顧客データを集計できるため、ターゲットのさらなる絞り込みも可能だ。
「(フローズンタイプは)どういう人が買っているのか、チルドも買っているのか、新しいお客様なのか、新しいお客様といっても今まで何を買っていたのか、といったこともデータで見えるので、顧客ターゲティングの精度をさらに上げていきたい」(和田氏)
データの収集を通して、同社は今後どのような商品開発を検討しているのだろうか。
「商品開発を拡大して、卵を入れる商品を開発する可能性もある。ただ、“卵1個”や“牛乳200ミリリットル”といった材料は案外切らしている場合が多い。レシピを見たら牛乳200ミリリットルが必要、でも『牛乳を買っていないじゃん』となってしまう。そうした状況をなくしていかなくてはならない。水くらいはあると思うが、逆にそれ(水も油も不要というコンセプト)を縛りにしてしまうとできないことが多くなるので、今後の動向を見ながら考えていきたい」(和田氏)
フローズンタイプのミールキットによる市場開拓の試みは成功するのか。今後の売れ行きや商品開発、チルドタイプとの売れ行きの違いなどにも注目したい。
(写真/荒井 貴彦)