“中東のシリコンバレー”と称されるほど、スタートアップ大国として知られるようになった、イスラエル。中でもスマート・モビリティ(次世代自動車)関連のスタートアップは、2013年の87社から19年には644社まで7倍以上に拡大、世界からの投資総額も56億ドル(約6235億円)に膨らんでいる。次なる注目企業はどこか。

イスラエル発のモビリティ系スタートアップの展示会「エコモーション(ECOMOTION)」
イスラエル発のモビリティ系スタートアップの展示会「エコモーション(ECOMOTION)」
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 イスラエル発のモビリティ系スタートアップとしては、自動運転車両の“目”となる画像処理チップを手掛けるモービルアイ(Mobileye)が代表例だろう。同社は2017年に米インテルが巨額資金を投じて買収。2022年には、独フォルクスワーゲンとの合弁会社を通じ、イスラエル国内で完全自動運転車を使った配車サービスを始める計画がある。

 その他、相乗りサービスで急成長しているヴィア(Via)や、世界7000以上の公共交通機関のデータを扱う交通ナビゲーションアプリ提供会社ムービット(Moovit)など、モビリティ革命「MaaS(モビリティ・アズ・ア・サービス)」の重要なカギを握る先進分野でイスラエル企業の存在感が加速度的に増している。

 では、なぜイスラエルから優秀なスタートアップが輩出されるのか。そのカギを握るのは、イスラエル政府が主導して海外からの投資を呼び込み、大企業とのビジネスマッチングを仕掛ける先進モビリティの展示会「エコモーション(ECOMOTION)」にある。テルアビブでの開催(19年6月10日~13日)を前に来日した、エグゼクティブディレクターのオルリー・ダーハン(Orlie Dahan)氏に話を聞いた。

世界最大のアクセラレーター、プラグ・アンド・プレイ(Plug and Play)の日本事務所で参加を呼び掛ける、エコモーションの責任者、オルリー・ダーハン(Orlie Dahan)氏
世界最大のアクセラレーター、プラグ・アンド・プレイ(Plug and Play)の日本事務所で参加を呼び掛ける、エコモーションの責任者、オルリー・ダーハン(Orlie Dahan)氏
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まずエコモーションはどんな取り組みか。

オルリー・ダーハン氏 エコモーションは12年から開催しており、自動運転とコネクテッド技術、アーバンモビリティ、電動化とエネルギー、シェアモビリティ、ドローンと航空といった注力カテゴリーに、最近は新たに海運を加えました。

 運営は、イスラエル国経済産業省、イスラエルの研究開発推進を目的としたNPO(Israel Innovation Institute)、イスラエル国首相直下のプロジェクト(Fuel Choices and Smart Mobility Initiative)の3組織によるジョイントベンチャーが担っています。設立の目的は、自動運転などのスマートトランスポーテーション産業におけるイノベーションの中心拠点にイスラエルを引き上げること。そのためにコミュニティープラットフォームと、イノベーションを起こすためのツールキットを提供しています。

 まず、エコモーションのコミュニティーには、600社以上のスタートアップ、8000人以上のメンバーが参加しています。メンバーには起業家、投資家、大企業、行政、研究者などが参画しており、ネットワーキング、ビジネスマッチング、知識共有などを通してスタートアップを支援しています。

イスラエルのスマート・モビリティ(次世代自動車)関連のスタートアップは、19年で644社を数える規模に成長
イスラエルのスマート・モビリティ(次世代自動車)関連のスタートアップは、19年で644社を数える規模に成長
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 大手企業や注目のモビリティ企業に対して提供しているツールキットとしては、例えばハッカソン、チャレンジコンペティション、アダプタソン(Adaptathon)というイベントがあります。最後のアダプタソンとは、私たちが独自に創造した仕組みでハッカソンの進化形。大手企業とスタートアップをマッチングさせて、通常スタートアップが独自で行うと約8カ月かかるビジネス交渉を2週間で進めてしまおうというものです。

 アダプタソンの第1の事例がフランス国鉄(SNCF)と共に行った「旅に関するアダプタソン(La Voyage Adaptathon)」で、17年4月22日~5月3日にスタートアップを募集したところ、3Dイメージセンサーの「ヴァイヤ(Vayyar)」が選ばれました。その他にも、イスラエルの高速道路会社のアヤロン(AYALON)と共に「道路に関するアダプタソン(Adapt the Ways Adapthathon)」を実施しました。こちらは、街路灯にカメラやWi-Fi、センサーなどを搭載して都市のIoTインフラに変えるスタートアップ「アシスト(ACiiST)」とのコラボが生まれています。また、夏ごろにはエネルギー関連の企業とともに、人とモノをどのようにつなげるのか、新しい都市の物流網についてチャレンジコンペティションを実施予定。そして、そこで生まれたイノベーションが社会実装できるようにイスラエルの自治体との連携や調整を行います。

日本における大企業とスタートアップの連携の重要性は?

 エコモーションは、日本とイスラエル、大企業とスタートアップをつなぐ懸け橋になれると思っています。日本には世界的な自動車産業があることが強みです。それに対して、イスラエルは先端テクノロジーに強みを持っています。これまでと違って、自動運転などの車両製造はテクノロジーの活用が必須です。そのため日本の自動車製造技術とイスラエルのテクノロジーの統合や懸け橋が非常に重要だと考え、そこには大きな可能性を感じています。

 日本の大手自動車メーカーは、すでにイスラエル企業との連携を模索していますが、部品メーカーなどその他の日本企業とイスラエルのスタートアップとのコラボレーションも必要です。これからは、有名企業かどうかでイノベーションが起こるのではなく、人と人が出会い、知見を交換するなど、リアルな交流を行うことで新しいビジネスが生まれると考えています。

なぜイスラエルで優秀なスタートアップが育つのか。

 ポイントは3つあります。まず1つ目の理由は、イスラエルは砂漠や沼地など地形的に多くの課題を抱えており、それに対して解決しようとするチャレンジ精神が育っています。イスラエルを繁栄させるためにも、テクノロジー大国となることが必要でした。例えば、砂漠の中で農業をするためにはどうすればよいのか、水の確保はどうするかといった課題と向き合う中で、先端テクノロジーが養われてきた背景があります。その証拠に、70年前は沼地だったイスラエルの中心街も、今は東京のように都市化が進んでいます。

テルアビブは巨大なビル群が立ち並ぶ先進的な都市に(写真/Shutterstock)
テルアビブは巨大なビル群が立ち並ぶ先進的な都市に(写真/Shutterstock)
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 2つ目は、イスラエルの人口は約868万人、面積は2万2000平方キロメートル(日本の四国と同程度)であり、企業活動の基本として常にグローバル展開が視野にあります。そして3つ目は、政府の支援です。イスラエル政府はスマートトランスポーテーション国家戦略を17年7月に策定しており、15億シェケル(約470億円)を投資して自動運転の実証実験などを支援しています。最後のポイントとしては、オープンカルチャーでかつ失敗を恐れず、失敗から学ぼうというマインドが理由として挙げられるでしょう。

 過去挑戦した経緯もありますが、結局、イスラエルでは自動車産業が育つことはありませんでした。しかしデジタル時代を迎えたことで、イスラエルが得意とするセンサー、ライダーなどのデジタルテクノロジーが、自動車産業をはじめとしたモビリティ分野で活躍できる機会が生まれたのです。

知られざる注目スタートアップ6選

イスラエル国内での新たなモビリティサービスの取り組みは?

 イスラエル国内では、自動運転の実証実験がちょうど始まりました。エルサレムでは、ライトレールの建設なども進んでいます。イスラエルは公共交通が東京のように発達していないので、電動キックスクーター、フル電動アシスト自転車などの小型モビリティが非常に重宝されていて、あらゆる交通手段を統合するMaaSの中でも重要な役割を担っています。

 さらに、イスラエル政府は「マイカーを運転するドライバーにコストを認識させる」というユニークな実証実験、「Going Greenパイロット事業」を13年から行っていて、現在は第3期になります。具体的にはまず実証実験の参加者に対して、最初に年間1000ドル(約11万2000円)の概念予算が割り振られます。この概念予算は、参加者が混雑時間帯に1人でマイカーを使った移動をすると減少します。一方、公共交通や他の乗客と同乗する相乗りサービスを利用すると、概念予算を"稼げる”という仕組みです。この実証実験にはヴィアも参画しており、対象者は当初1000人でしたが、今は10万人にまで拡大しています。

 行動経済学の研究者によると、人間は最初にお金を配られると、「失いたくない」という気持ちが芽生えるのだそうです。これがもし、公共交通や自転車による移動など環境にやさしい行動に対する報償を「後で受け取る」という方式だけでは、モチベーションが下がってしまうといいます。

これから注目されそうな最新スタートアップは?

 モービルアイ、ヴィアの他、配車アプリのゲット(Gett)や、米グーグルが買収したリアルタイムの渋滞や道路情報をコミュニティー間でシェアできるカーナビアプリ、ウェイズ(Waze)なども注目されています。

 そして公共交通を含めた経路検索サービスを行うムービットは、ビッグデータを活用して自動的にどこからどこへ人が移動するのか予測・分析できるようになってきました。これは、自治体や交通事業者が、あるエリアでどれくらいバス車両が必要なのか、交通サービスを最適化する際に活用できます。

ムービットは16年に米ウーバーテクノロジーズと業務提携。ウーバーのアプリ上で公共交通の経路検索ができるMaaSに向けたサービスの実証実験をデンバーで始めている
ムービットは16年に米ウーバーテクノロジーズと業務提携。ウーバーのアプリ上で公共交通の経路検索ができるMaaSに向けたサービスの実証実験をデンバーで始めている
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 また、自動車メーカーから自動車関連情報を収集して第三者に販売する「オートノモ(otonomo)」、電気自動車(EV)の状況をリアルタイムで把握して、ドライバーと整備会社などをエンドツーエンドで結び、価格やメンテナンスの質などを比較する「エンジー(engie)」、車車間や車両とインフラ間の通信を可能にする技術を持つ「オートトークス(Autotalks)」も、すでに有名です。

 では、これから注目されそうなイスラエル発のスタートアップは、どんな特徴を持っているか。いくつか挙げてみましょう。これらの企業は、6月にイスラエルで開催するエコモーションに参加します。

フリートノミー(Fleetonomy)
 17年設立で、アルゴリズムとデータサイエンスの専門家チームを組み、スマートモビリティサービスの計画、運用、最適化などを支援する企業です。モビリティサービスの運行にかかる経費削減、自動運転の普及に備えた検討、既存の交通事業者に対して新しいモビリティサービスへの参入を手助けするサービスを展開しています。

アディオニクス(ADDIONICS)
 こちらも17年設立で、特許出願中の3Dエレクトロプリンティング技術を駆使して、顕微鏡レベルでバッテリーの構造を再設計しています。それにより、電池性能や安全性、充電時間を向上させながら、コスト低減も図っています。顧客のニーズに合わせて改良を進め、EV業界を変革する期待があります。18年には欧州スタートアップ賞を受賞しました。

アドナイト(AD KNIGHT)
 18年に設立されたばかりの“生まれたて”のスタートアップです。予期せぬ危険な状況に際して、ハードウエア、アルゴリズム、ソフトウエアを使ってユーザーを守る先進運転支援システムと、自動運転の安全ソリューションを提供しています。設立者でCEOのジョナハン・アビア(Jonathan Abir)氏は、10年以上に渡って医療端末のスタートアップで研究開発を率いてきた実績があります。

メイクマイデイ(Make My Day)
 17年設立。ユーザーのスケジュール、カレンダー、ToDoリストに接続して、1日の移動ルートを最適化するユニークな経路検索機能を提供しています。スマートに意思決定できるアルゴリズムを開発していることが強み。メイクマイデイの目指していることは、毎日の通勤とその日に突発的に発生した予定を統合して、移動を最適化することです。

パーカン(ParKam)
 14年設立。大規模な複合商業施設や繁華街では、駐車場の空きがないことがしばしばあります。これを解決するため、防犯カメラのリアルタイム映像を活用し、ドライバーが到着するまでにどの駐車場が利用可能かを識別する独自の革新的なソリューションを提供しています。これは、正確なリアルタイムの駐車場満空情報、マッピング技術、カメラからのデータと機械学習アルゴリズムによって実現していることです。

アイ・インキューブ(Ai Incube)
 15年設立。同社がつくった路上駐車検索アプリ「パークナヴ(Parknav)」は、独BMWやドイツテレコムに採用された実績があり、欧米の240以上の都市でサービスを展開しています。日本と異なって、欧州などでは駐車場が路上にあります。同社には約5年間で10万人以上のユーザーから駐車場データが集まっており、また機械学習などによってリアルタイムの満空情報を収集できるのが強みです。

最後に、日本の自動車関連企業へのメッセージを。

 6月10日~13日に開催されるエコモーションWEEK 2019には、約4000人、130ものスタートアップが集まる予定です。イスラエルのスタートアップのスピード感、クオリティーの高さ、チャレンジ精神に驚くはず。世界中から数多くの投資家、大企業が集まっていますが、日本からの参加者はまだ少ないのが現状です。過去のエコモーションでも、その場でビジネス交渉をすることで、いち早く具体的なイノベーションにつながった事例が多くありますので、ぜひ注目してもらえればと思います。

■修正履歴
記事掲載当初、イスラエルの国土面積に誤りがありました。本文は修正済です [2019/05/15 18:00]