「意志ある踊り場を迎えるということだ」――。セブン&アイ・ホールディングスの井阪隆一社長は4月4日の決算会見でこう繰り返した。新規に出店することで成長してきたセブン&アイ。同社が量の経営から質の経営へと大きく戦略を転換する。支えるのは、省人化などを進めるデジタル技術の導入だ。

 決算会見に先立って急きょセットされた社長交代の記者会見。傘下のセブン―イレブン・ジャパン社長の古屋一樹氏が代表権のない会長となり、副社長の永松文彦氏が8日付で社長となると発表した。

 交代の背景には、セブンイレブンの社内外で起こっていた情報の滞留がある。「意思疎通、コミュニケーションが目詰まりを起こしていた」。経営のバトンを受け取る永松氏が最近の社内の雰囲気をこう分析すれば、隣で聞いていた井阪氏もこれに深くうなずいた。

 24時間営業を勝手にやめてしまうトラブルや労働基準監督署とのやりとりなど、フランチャイズチェーン(FC)加盟店の様子が経営の肌感覚としてまったく伝わってこない。グループ売り上げ7兆円弱の巨艦を仕切る井阪氏は危機感をつのらせていた。中でも加盟店の動きは、その根幹だ。社長交代を決断したのも自然な流れだったのかもしれない。

社長交代の会見に登壇したセブン&アイ・ホールディングスの井阪隆一社長(右)とセブン―イレブン・ジャパン次期社長の永松文彦氏
社長交代の会見に登壇したセブン&アイ・ホールディングスの井阪隆一社長(右)とセブン―イレブン・ジャパン次期社長の永松文彦氏

既存店を重視する姿勢へ

 社長交代会見では4つの事業構造改革のプランを発表した。

 まず、新規出店数を抑える戦略に切り替え既存店へのケアを重視する。新規出店から閉店を差し引いた2019年度(20年2月期)の国内の店舗数の伸びを150店にとどめる計画とした。これらを指して井阪氏は、意志のある踊り場と表現する。

 16年度が850店、17年度が838店、18年度が616店だったのと比べると、明らかに目減りする。設備投資額も18年度は新規出店に6割を振り分けた。が、今後は逆に6割程度を既存店へ充当する。

 肝の1つ、24時間営業については、実証実験を進めて、非24時間営業の功罪を見極める。今年3月から直営の10店舗で、4月からはFCの2店舗で、24時間営業ではない形態の実験を進める。「個別の事情を把握しながら丁寧に。拙速に24時間営業をやめるとかいった判断はしない」(井阪氏)という。

 3つ目が加盟店とのコミュニケーション機会の拡充だ。本部の役員が全国の加盟店オーナーと対話する機会を増やしていく。

 最後の1つは、店舗の省人化プロジェクトの核となる新たなデジタル戦略の推進だ。少し詳しくみていこう。

セルフレジの全店導入とAI発注

 加盟店を襲う深刻な人手不足を緩和する一手になり得るのが、テクノロジーの活用だ。今回の会見でセブン&アイは、現在5店舗で先行テストをしているセルフレジを19年中にセブンイレブン全店に導入する方針を打ち出した。「まだ最終的なスペックは決まっていないが、店員が介在しないフルセルフレジ、支払いだけ顧客がやるセミセルフレジのどちらの運用もできるタイプを導入していきたい」(セブン&アイの後藤克弘副社長)という。

 新しい検品システムも北海道でテストしている。これまでは店員が1品ずつスキャンしていた検品作業を、納品されたケース単位でスキャンするだけでできるようにした。AI(人工知能)を活用した発注システムも直営136店で検証している。従来は、加盟店の経営者や店員が大量の商品情報を1品1品確認して発注していた。その作業負担を軽減するため、過去の販売実績や天気予報などを基にAIが発注商品を推奨する仕組みだ。いずれも検証後、導入エリアを拡大する方針だ。「複数のテクノロジーを活用しながら、24時間すべての時間帯で省人化・負担軽減につながるようにしていく」と後藤氏は話す。

 加盟店の求心力を高めるという意味では、グループで推進しているCRM(顧客関係管理)戦略も成果を上げている。同社は16年10月の中期経営計画で、それまでのeコマース中心だったオムニチャネル戦略の見直しを宣言。グループで1日2200万人もの来客数を誇るリアル店舗を含めて顧客との関係性強化を図ろうと、18年6月にセブンイレブンおよびイトーヨーカドーのスマホアプリをリニューアルした。グループ共通のマイルがたまる「セブンマイルプログラム」を始め、顧客IDを「7iD」に統一すると共に、割引クーポンの発行、ボーナスマイル付与などで来店・購買を促してきた。

 現在、アプリはそごう・西武、ロフト、アカチャンホンポなどが展開しており、その総ダウンロード数はマイルプログラム開始から9カ月で1200万以上へ急拡大している(19年3月末時点)。7iD移行会員と既存のnanaco会員を比べると、月平均の購買金額は1535円、購買回数は3.2回もアップしているという。

 7月からはバーコード決済サービスの「7pay(セブンペイ)」をセブン―イレブンアプリに先行導入する予定。18年12月時点で店頭においてセブンアプリを提示する人の割合は6.6%だったが、支払いがスムーズになることにより、これが大幅にアップすることは確実だ。そうなれば、高頻度・高単価の優良顧客を育成していくCRM戦略をさらに機能させやすくなる。

「7pay」の展開スケジュールも発表した。セブン―イレブンアプリの決済機能は7月から実装される
「7pay」の展開スケジュールも発表した。セブン―イレブンアプリの決済機能は7月から実装される

 人件費の上昇などにより、ここ数年鈍化している加盟店利益の伸びが、再び勢いを取り戻せるか否か――。省人化テクノロジーやデジタル活用をどれだけ大胆に進められるかが、一つのカギを握る。

特集「セブン&アイ デジタル起点の店舗戦略」を4月15日から掲載します

(写真/新関雅士)

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