フランス発スポーツ用品専門店「デカトロン」の日本1号店が、2019年3月29日にオープン。世界51カ国に1500店舗を展開し、売上高は約1兆4000億円。企画開発から販売まで手がけ、低価格で高機能なオリジナル商品を提供する。スポーツ用品のガリバー企業は、日本で受け入れられるのか。
340円のバックパックに3590円のテント、とにかく格安
兵庫県西宮市にあるショッピングモール、阪急西宮ガーデンズが開店する午前10時。シャッターが開くと同時に、数人の客が一目散に駆け出した。お目当ては本館3階東モールに出店したスポーツ用品店「デカトロン」。店舗の入り口では全スタッフが列になり、拍手と歓声で客を出迎える。お祭り騒ぎのようなオープニングは、外資ならではの光景だ。

すぐに人だかりができたのは、キャンプ売り場前に置かれたワゴン。中にはエメラルドグリーンやパーブルなどの、カラフルな携帯用バックパックが積まれている。価格は税込みで340円だが、超軽量かつコンパクトで、ちょっとしたハイキングにも十分使えるという。
ハイキングコーナーでは、ずらり並ぶバックパックの中に「ベストプライス390円」というPOPを発見。容量は10リットルと小ぶりだが、10年間の保証付きだ。
子供用に2色購入したという西宮市内の親子は、「以前オンラインショップで購入したが、軽くて重宝しているので同じものを買いにきた。子供が汚したり、破れたりしても気にならない安さがいい。フランスのブランドらしく色使いもかわいい」と、コストパフォーマンスの高さに満足している様子。バックパックをまとめ買いする客は多く、300円台のバックパックは同ブランドのロスリーダー(採算度外視の戦略商品)として、高い集客力を発揮していた。
キャンプ用品売り場で戦略商品と位置付けられるのが、3590円の2人用キャンプテント。展示されたテント内には、2390円のエアーマットレスや690円のランタンライト、1690円の寝袋などもあり、「トータルで1万円以内でそろう」(キャンプ用品担当)という。破格の安さはデカトロンの最大の強みになっている。
商品を試せる体験ゾーンが充実
デカトロン西宮店は売り場面積約1800平方メートルに約1万8000種類、約7万点の商品をそろえる。海外には1万平方メートルの超大型店も存在するが、阪急西宮ガーデンズ内の店舗としては、ユニクロやロフトと並んで規模が大きい。
広大な売り場は、スポーツのジャンル別に分かりやすく構成されている。入り口を抜けて手前から、キャンプ、ハイキング、登山などのアウトドア用品と、ランニング、ウオーキング用品を配置。日本市場でニーズが高いとされるスポーツだ。次にヨガ、フィットネス用品とスイミング用品、そして球技、ラケットスポーツ、一番奥にゴルフと自転車といった配置になっている。
各売り場に、商品を試せる体験ゾーンを設けているのも大きな特徴だ。フィットネス売り場には、けんすいができる用具が置いてあり、子供たちがチューブ(ゴムバンド)を使っをたトレーニングを教わっていた。ラケットスポーツ売り場には、手軽にバドミントンを楽しめる「イージーネット」を設置。簡単に組み立てと分解ができ、軽くて運びやすいこともその場で確認できる。
入り口近くのコミュニティーエリアでは、バーチャルの自転車レースに接続可能なインドア用トレーニング機器が試せる。実際に商品に触れ、使用感を確かめたり、新しいスポーツを発見したりできるのが、デカトロンの一番の魅力といえるだろう。取材が平日午前だったこともあり、小さな子供連れが多く、自転車売り場では子供たちが試乗を楽しんでいた。
西宮店で取り扱うスポーツの種類は35種類で、オンラインショップは約50種類。グローバルでは約100種類を展開しており、そのうち日本のユーザーに合ったスポーツをセレクトした。商品はすべてオリジナルで、ブランド名はスポーツごとに異なる。登山やキャンプ、ハイキング向けブランドは「ケシュア」、ランニングブランドは「カレンジ」、ヨガやフィットネス向けブランドは「ドミオス」。ブランド名だけで、40種類以上あるというのもユニークだ。
客の評判は上々だが、品ぞろえに課題も
店内を見て感じたのは、意外と価格帯が幅広いこと。低価格とコスパの高さがデカトロンの魅力だが、安価な商品だけを販売しているわけではない。例えば1万3900円のランニングシューズや、1万8900円のテニスラケットも店頭に並ぶ。
「来店客の中には『安すぎて心配』という声もあったが、初心者から上級者まで、レベルに合った機能を備えた商品をそろえている」(ランニングシューズ担当者)。そのため、同店ではスポーツに対する情熱と専門知識を有するスタッフを60人採用。お客からのさまざまな相談に応じていた。
登山用のショートパンツとグローブを購入した男性は、「ワークマンプラスよりおしゃれかなと思い、先にこちらに来た。パンツは1190円で他ブランドの半値くらい。グローブも他では5000円はするが、1000円ほどでいいのが買えたので、知り合いにも薦めるつもり」と話す。ほかにも「安いので試しに使ってみて、よければネットでも買いたい」「ランニング用品が必要になれば来たい」「デザイン性がいい」「売り場が分かりやすい」など来店客の評判は総じて上々だ。

ただ、「オンラインで見つけた登山用防水パンツが店頭になかった。登山用品は微妙」「レース用水着を探したがない」など、スポーツによっては品ぞろえに課題が残る意見も聞かれた。デカトロンジャパンのギナール・エリック社長は「要求が厳しい日本のスポーツユーザーを満足させることに注力したい」と話す。世界最大のスポーツ用品店といえど、慎重かつきめ細かな対応が日本市場を制するカギになりそうだ。