アパレル小売りのストライプインターナショナルが展開するグローバル戦略ブランド「koe(コエ)」は、2019年3月21日、工場併設のドーナツ店「コエ ドーナツ」の1号店を京都に開業した。高カロリーなドーナツを再定義し、健康的で環境に配慮した独自開発商品で、世界市場を狙う。

新京極通りに面した京都松竹阪井座ビルの1階に、全面ガラス張りの「コエ ドーナツ」1号店がある
新京極通りに面した京都松竹阪井座ビルの1階に、全面ガラス張りの「コエ ドーナツ」1号店がある

オープンキッチン併設で製造工程が丸見え

 国内外の観光客が数多く行き交う京都の新京極通り。四条通りから入って数十メートルの立地に「koe donuts(コエドーナツ)」1号店がある。店舗はワンフロアで延べ床面積439平方メートル。内装デザインは、国立競技場の設計などで有名な建築家・隈研吾氏が手がけた。

 京都嵐山の竹を使った、伝統的な六ツ目編みで作られた竹かごが約572個。竹かごが天井一面と壁を覆った、ドーム状のユニークなインテリアが印象的だ。竹かごの網目から照明の光が漏れ、その陰影が店内にぬくもりをもたらしている。

 「和の繊細さを感じさせながらも、ドーナツらしい楽しさとカジュアルさを表現するために、竹かごをベースにした。ファストフードの店舗デザインは初めて」と隈氏は話す。

内装のテーマは“奥へと導く竹かごの空間”。六ツ目編みのかごを572個用いて和の繊細さと楽しさを表現したぬくもりのある空間
内装のテーマは“奥へと導く竹かごの空間”。六ツ目編みのかごを572個用いて和の繊細さと楽しさを表現したぬくもりのある空間
テークアウトは、タピオカ入りのふわもちドーナツなど6種類の食感で約37種類を展開。彩りもきれいなドーナツが並ぶ
テークアウトは、タピオカ入りのふわもちドーナツなど6種類の食感で約37種類を展開。彩りもきれいなドーナツが並ぶ

 ストライプインターナショナルの石川康晴社長は「隈さんは日本で最もグローバルにリーチできる建築家。『松竹の発祥地でイノベーションを起こしてほしい』という依頼が(出店するビルのオーナーである)松竹からあり、銀座の歌舞伎座タワーの設計で縁のある隈さんに依頼した」と明かす。

 一番の特徴は、店内にオープンキッチンを併設している点だ。石臼でひいた自家製有機小麦粉を練ってドーナツの形にし、オリジナルのベルトコンベヤー式フライヤーで揚げた後、トッピングする。その全製造工程を見学しながら、出来たてのドーナツが味わえる。カウンターとの仕切りがなく、すし屋のように作り手に話しかけることができるのも面白い。

 イートインコーナーはスタンディングを含めて全80席。「製造工程の音を聴き、目で見て確認できるのは安心安全につながる。イートインにはWi-Fiと電源を完備し、滞在時間を長くする工夫をした」(koe事業部クリエイティブディレクターの篠永奈緒美氏)。SNSが日常的な世代や外国人観光客にとって、ストレスなく投稿できる環境は、店を選ぶ大きな要因になるだろう。

カウンターをはさんで客の目の前で仕上げていく
カウンターをはさんで客の目の前で仕上げていく
ドーナツづくりの全製造工程を見学できるよう、イートインコーナーの脇にはオープンキッチンが広がる
ドーナツづくりの全製造工程を見学できるよう、イートインコーナーの脇にはオープンキッチンが広がる
大きなフライヤーで揚げた後、トッビングする
大きなフライヤーで揚げた後、トッビングする

「ドーナツ」はエシカル戦略の一環

 コエは14年9月、エシカル(倫理的。環境や社会に配慮した行動)をキーワードにスタートしたライフスタイルブランド。18年にはホテル事業にも進出。渋谷のホテルコエは、キャッシュレス対応の店舗とカフェを併設し、店内では音楽ライブなどのイベントも積極的に展開する。飲食事業は、東京自由が丘の大型路面店やホテルコエでも展開しているが、飲食単体の出店は、今回が初めてだ。

 工場併設型のドーナツ店にした理由については「これからの小売りはエンターテインメント性が必要。店内で高揚感を味わえることが、ネット通販との差別化になる」(石川社長)と説明する。

 ではアパレル企業がなぜ、ドーナツ店なのか。カギはコエブランドのキーワードである「エシカル」にある。ファストファッションが台頭した頃から、衣服の大量廃棄が世界的に問題視された。ユニクロやH&Mのようなグローバルなブランド同様に、同社もコエブランドでこれに取り組み、「19年はエシカルとウエルネスを戦略に掲げている」(石川社長)。コエドーナツはその一環。食材の調達先の開示を行うほか、今後は廃棄率の開示も予定している。

200円(税別、以下同)のプレーンから350円のベイクドーナツ黒豆までバリエーション豊富。オーガニック、天然由来、地産地消をテーマに素材を厳選
200円(税別、以下同)のプレーンから350円のベイクドーナツ黒豆までバリエーション豊富。オーガニック、天然由来、地産地消をテーマに素材を厳選

 ミスタードーナツが日本上陸してから、ドーナツは人気のおやつとして親しまれてきた。しかし油で揚げるため高カロリーで、最近は敬遠される傾向にある。一時、話題を集めたコンビニドーナツも撤退している。

 「おいしくてもカロリーの高いものは緩やかに減少している。そこでエシカルとウエルネスをテーマに再定義した。カロリーが高ければ低カロリーに、ケミカルな素材が入っているなら有機素材に戻して、健康的で環境にも配慮したエシカルなドーナツを開発した」(石川社長)

 原料は「オーガニック」「天然由来」「地産地消」をキーワードに、自家製の有機小麦全粒粉をはじめ、ストレスのない環境で育てられた京都美山産の美山牛乳と美卵、国産玄米油、きび糖、和三盆などを使用する。ドーナツは和を意識した「ほうじ茶」「赤紫蘇(あかじそ)クルーラー」「ヴイーガンドーナツ抹茶」など37種類をラインアップ。イートインでは、ナイフとフォークで食べる新食感の「ドーナツメルト」も用意した。

ナイフとフォークで味わうイートインメニューの1つ、口の中でふわっととろける新食感の「ドーナツメルト」850円。いちごのフレッシュな甘さと和三盆の優しい甘みが、口いっぱいに広がる
ナイフとフォークで味わうイートインメニューの1つ、口の中でふわっととろける新食感の「ドーナツメルト」850円。いちごのフレッシュな甘さと和三盆の優しい甘みが、口いっぱいに広がる

 初年度の売り上げ目標は2億円。京都店が軌道に乗れば、今後は東京はもちろん、高所得層が多いとされる中国の広州、米国のブルックリンなど「エシカルマインドのある都市」への出店も視野に入れている。石川社長は「ドーナツ業界にイノベーションを起こし、グローバルに展開していきたい」と意気込む。

 オーガニックでヘルシーな食べ物は、健康に関心の高い中高年はもちろん、若年層にも広がりつつある。アパレルならではの感性で作られたフォトジェニックなドーナツと空間は、SNSで話題を集めそうだ。

メインキャラクターのドーナツ博士は、人気イラストレーターの長場雄氏がデザイン。ショッパーやナプキンのほか、オーガニックコットンTシャツなどのオリジナルグッズにプリントが施されている
メインキャラクターのドーナツ博士は、人気イラストレーターの長場雄氏がデザイン。ショッパーやナプキンのほか、オーガニックコットンTシャツなどのオリジナルグッズにプリントが施されている

(写真/橋長初代)

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