ソフトバンクとトヨタ自動車の合弁会社、モネ・テクノロジーズが、MaaS(モビリティ・アズ・ア・サービス)戦略の全貌を明かした。同社はホンダや日野自動車と資本・業務提携を行い、JR東日本や三菱地所、ヤフー、フィリップス・ジャパンなど異業種との“仲間づくり”も進める。全方位の仲間づくりで見据える未来は、スマートシティだ。

都内で開催されたMONETサミットには、トヨタ自動車の豊田章男社長も姿を現した。写真左はモネ・テクノロジーズの宮川潤一社長兼CEO
都内で開催されたMONETサミットには、トヨタ自動車の豊田章男社長も姿を現した。写真左はモネ・テクノロジーズの宮川潤一社長兼CEO

 2019年3月28日、グランドハイアット東京で開かれた「MONETサミット」は、自治体関係者280人、連携企業320人の総勢600人に上る参加者の熱気であふれていた。会場には急遽(きゅうきょ)、トヨタ自動車の豊田章男社長も姿を現し、自動運転を見据えた次世代モビリティサービスを手掛けるモネ・テクノロジーズへのトヨタ本体の期待感の高さを印象付けた。では、MONETサミットではどのような「移動の未来」が語られたのか。

モネ・テクノロジーズが2023年の実用化を目指す、自動運転によるトヨタの次世代電気自動車「e-Pallete(イーパレット)」も、MONETサミット会場で展示された
モネ・テクノロジーズが2023年の実用化を目指す、自動運転によるトヨタの次世代電気自動車「e-Pallete(イーパレット)」も、MONETサミット会場で展示された

 この日のビッグニュースは2つある。まず、モネ・テクノロジーズと本田技研工業(ホンダ)、日野自動車が資本・業務提携したこと。日野のトラックやバスによる移動に関する車両データ、ホンダの乗用車などを使ったモビリティサービスから得られるデータを「MONETプラットフォーム」に取り入れ、相互活用することが狙いだ。

 また、モネ・テクノロジーズのシステムを使って運用されるオンデマンドバスなどで、今後ホンダや日野の車両が使われる可能性もあるという。会見で豊田社長が「自動車メーカーがオープンにつながる第一歩」と語ったように、今後他の自動車メーカーにもモネ・テクノロジーズのシステムへの参画を呼び掛けていく。これによりクルマの走行データ、車両ログをMONETプラットフォームへ一手に集め、交通渋滞の解消や自動運転の実用化などに役立てていく構想だ。

複数の自動車メーカーとの共創、“日本連合”の必要性を訴えた
複数の自動車メーカーとの共創、“日本連合”の必要性を訴えた

 そして2つ目が、異業種を含めた企業間連携を推進する「MONETコンソーシアム」の設立。想定されるメインの業種は、小売り、物流、医療、エンタメ、金融・保険、飲食、旅行・旅客、情報提供サービス、不動産、教育の10業種で、すでに東日本旅客鉄道(JR東日本)や三菱地所、フィリップス・ジャパンは具体的な連携イメージがある。その他、コカ・コーラ ボトラーズジャパン、サントリーホールディングス、ヤフーなど、多種多彩な計88社が集まった。

 ここでは移動の世界に閉じた話だけではなく、自動運転を活用したオンデマンド・モバイル自動販売機や移動型のバー、ヘルスケアサービスなど、「移動×サービス」で生まれる新たなビジネスモデルが検討されるという(関連記事「Beyond MaaS 移動の未来」)。19年中には、移動店舗や診療所、宅配代行といったサービスの実証実験、先行事業の展開を始める計画がある。

さまざまな業種の有力企業がMONETコンソーシアムに参画する
さまざまな業種の有力企業がMONETコンソーシアムに参画する

移動型ヘルスケアサービスも実現へ

 「インターネットではGAFA(Google、Amazon.com、Facebook、Apple)が絶大な影響力を持っているが、来るべくMaaSの世界では我々が中心的なプラットフォーマーになれるように成長していきたい」。今回の会見で、モネ・テクノロジーズの宮川潤一社長兼CEOはそう宣言した。

 モネ・テクノロジーズが構想するプラットフォームとは、下図のような構成だ。API連携で自動車や運輸・交通事業者から車両・移動データを集め、またソフトバンクの通信網から得られる人流データや人口分布データなどを掛け合わせて総合データベースを生成。それを基にオンデマンドバスの最適配車に役立てたり、将来的な自動運転サービスの実現、都市単位での交通の需給バランスを調整したりする計画だ。加えて、コンビニや宅配、医療といった異業種の「サービサー」と連携したモビリティサービスを生み出していく。

 同社は19年2月に横浜市や愛知県豊田市など、全国17の自治体との連携を発表し、地元のタクシー会社などにシステム提供する形でオンデマンドバスなどの実証実験を始めている。「当初3年で100カ所を目標としていたが、すでに150の自治体と包括提携に向けた話し合いが進んでいる」(宮川氏)という。

 モネ・テクノロジーズが自治体との連携を重視するのは、自動運転の実用化を“本丸”と捉えているためで、宮川氏も会見で「MaaSが爆発的に普及するには自動運転車の普及がカギ。自動運転車はAI(人工知能)のかたまりであり、賢いAIになるためには大量かつ質のいいデータが必要になる。ある日突然、自動運転車が出てきても社会に受け入れられることはなく、その素地づくりをこの数年でしっかりやりたい」と語った。現在、自治体との会話の中では、移動型のアンテナショップや、イベントや災害時に役立つ移動型トイレ、移動型の喫煙室など、自由な発想でモビリティを活用するアイデアが出てきているという。

 こうした自動運転を見据えた動きから、モネ・テクノロジーズはMaaSを構成する1つの要素である“クルマ側”の次世代サービス会社という印象が強かった。しかし今回明かされた構想では、既存の公共交通とシームレスに連携するMaaSそのもの、あるいはその先にあるスマートシティーへの意欲を明確にしたのが最も注目される点だ。

 例えば宮川氏がMaaS戦略のトップに挙げたのは、既存交通の高度化というテーマ。自動運転のオンデマンドバスによる従来の路線バスなどの効率化と共に、マルチモーダルな世界を目指しているという。実際、すでにモネ・テクノロジーズとJR東日本の間では、在来線や新幹線といった一次交通とオンデマンドバスなどを使った二次・三次交通との連携を目指した検討を始めている。先述したMONETコンソーシアムには、全日本空輸や日本航空、東京急行電鉄、富士急行といった交通事業者も名を連ねており、こうした連携が広がる可能性もありそうだ。

 また、QRコード決済のPayPayやトヨタファイナンス、各種ICカード・クレジットカードといった決済サービス、Yahoo!乗り換え案内などのルート検索・予約サービスと、MONETプラットフォームとの連携も想定されている。これにより既存の鉄道やバス、タクシー、自転車シェアなどのあらゆる移動サービスを一括予約・決済できるようにし、料金定額パッケージを実現することも視野に入る。こうして移動サービスを効率化していくことで、「渋滞解消や、高齢化で免許返納者が増えていく中で移動機会の創出に貢献していきたい」(宮川氏)という。

 一方、MONETコンソーシアムにおける異業種企業との取り組みの中では、フィリップス・ジャパンの構想が目を引いた。同社は、モネ・テクノロジーズと連携して19年中にハイエースを改造した車両でヘルスケアサービスを展開する計画だ。

 想定されるのは、口腔(こうくう)・睡眠・栄養などの健康アドバイスを受けられる移動型サービスや、患者の自宅やクリニック不足地帯に出向く移動型の簡易クリニック、介護サービスなどだ。薬剤師が乗車することで、移動型の薬局が実現する可能性もある。また、運用するヘルスケアモビリティにAED(自動体外式除細動器)を標準装備することも考えているという。

会場に展示されたフィリップスのヘルスケアモビリティのモックアップ。ハイエースの後部を想定したサイズ感という
会場に展示されたフィリップスのヘルスケアモビリティのモックアップ。ハイエースの後部を想定したサイズ感という
ヘルスケアモビリティの車内イメージ。ソファを倒すと診察台(ベッド)になる想定で、遠隔診断ができるテレビモニター、床面には体組成計も備える
ヘルスケアモビリティの車内イメージ。ソファを倒すと診察台(ベッド)になる想定で、遠隔診断ができるテレビモニター、床面には体組成計も備える
フィリップスのヘルスケアモビリティ構想。19年中のサービス開始を目指して、今後連携する自治体との話し合いを進める
フィリップスのヘルスケアモビリティ構想。19年中のサービス開始を目指して、今後連携する自治体との話し合いを進める

 このように今回見えてきたモネ・テクノロジーズのMaaS戦略は、フルラインアップと言っていいほど充実したものだ。これが“打ち上げ花火”で終わらず、既存の交通事業者や異業種との間でMONETプラットフォームを核とした協調が具体的にどこまで進むのか。今後も注視していく必要があるだろう。

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