三菱電機が高級トースター市場に初参入。2019年4月25日に発売する「三菱ブレッドオーブン」は、想定実売価格3万円前後。コンパクトで場所を取らず、食パンを耳まで軟らかくふっくらと焼き上げるのが特徴だ。人気のバルミューダ製品よりも高いため、魅力をしっかり打ち出せるかが鍵を握る。
ターゲットはパン好きだが、まだ「手探り状態」
三菱電機が販売している従来のトースターは、本体内の網にパンを乗せて、上下からヒーターで焼く。これに対し「三菱ブレッドオーブン(TO-ST1)」(以下、ブレッドオーブン)は、パンを密閉して水分や香り、うまみを逃がさないように焼く。これにより、普通のトースターならパサついてしまう耳の部分まで、しっとり軟らかく焼き上がる。普通の食パンが、高級食パンのような味わいになるという。同社ではこれを、作りたてのパンのような“生トースト”と表現している。製品名を「ブレッドオーブン」とし、「トースター」と呼ばない点からも、思いの強さがうかがえる。
開発の背景には、おいしい食パンに対するニーズの高まりがある。パン屋巡りを趣味にする人が増え、高級食パン専門店に行列もできている。「まだ手探りの状態だが、パン食が好きな人たち全般がターゲット」(三菱電機ホーム機器家電製品技術部部長の岩原明弘氏)という。
米消費の減少で炊飯器の売り上げが伸び悩んでいることも、高級トースターに踏み出した理由の1つ。普及品から高級モデルまで幅広くラインアップする炊飯器同様、ブレッドオーブンで高級トースター市場に食い込み、落ち込みをカバーする考えだ。
今回、岩原氏がこだわったのは、製品を置く場所だ。「コンパクトでデザインにも力を入れた。キッチンの奥ではなくテーブルに置いて、焼いたパンを目の前で取り出して、食べてほしい」(岩原氏)と話す。
ブレッドオーブンは密閉するため、焼いているパンの様子が見えず、焼ける香りもほとんどしない。だが焼き上がって蓋を開くと、湯気と共にパンの香りが周囲に一気に広がる。炊飯器の蓋を開ける瞬間にも似ており、それを新製品の魅力にしたい考えだ。
炊飯器で培った技術を応用
焼き色をはじめ、操作は前面ボタンで行う。ブレッドオーブンを開くと、小さなプレートがある。下にフラットヒーターがあり、プレート上にパンを乗せて蓋を閉じてスイッチを入れる。蓋にもフラットヒーターが仕込まれており、上下から加熱する。
蓋には炊飯器同様のパッキン状パーツが付いており、密閉することによって内部の熱、パンの水分や香りの成分などを逃がさず、蒸し焼き状態で仕上げる。一般のトースターには密閉機構がないため、パンの水分や香り成分が逃げてしまう。センサーで食パン両面の温度を測って加熱を細かく制御しており、焼きムラもできにくいという。
密閉機構やセンシングが強みだが、そこには同社が炊飯器で培った技術を投入している。断熱がしっかりしており、焼いている最中に本体に触れてもそれほど熱くないのも同様だ。
フレンチトーストで魅力を訴求
3万円前後という価格は、現在高級トースター市場で人気の高いバルミューダ「BALMUDA The Toaster」(実売価格2万4800円前後)を上回る。ただ食パンがおいしく焼けるだけでなく、何か新たな魅力を訴求できなければ追撃はかなわない。
強みとしてアピールするのが、フレンチトーストだ。溶いた卵と牛乳を混ぜた液をパンに染み込ませて焼くフレンチトーストは、フライパンで調理するのが一般的。焼いている間はフライパンの前を離れられず、ふんわりと焼き上げるのも難しい。
ブレッドオーブンなら、液を染み込ませたパンを置いてスイッチを入れるだけで、短時間で焼ける。軟らかく膨らんだ焼き上がりは魅力的。このフレンチトーストは、大きな強みになりそうだ。
ブレッドオーブンは家電量販店ではなく、ECサイトを中心に販売するとのこと。ふっくらとしたフレンチトーストの焼き上がりや、蓋を開く瞬間の香りの広がりといった“強み”は、どのように訴求するのか。
「実店舗で展示もするが、飲食店とのコラボレーショやホテルに置いてもらうなどして、製品に接してもらえる機会を増やす」(岩原氏)という。月産2000台の予定で、短期間でヒットを狙うのではなく、長いスパンで販売していきたい考えだ。
(写真/湯浅英夫)