交通不全の解消を狙って、日産自動車とDeNAが共同で開発を進める無人車両配車サービス「Easy Ride」。その特徴はスマホのアプリ内にのみ表示される“仮想停留所”に発着すること。2019年3月に、18年に続き2回目となる実証実験を横浜で4週間にわたって行った。新たに見つかった課題とは?

日産自動車とDeNAの無人運転車両配車サービス「Easy Ride」
日産自動車とDeNAの無人運転車両配車サービス「Easy Ride」

 世界のMaaSは、自動運転技術の開発フェーズから徐々に具体的なサービス提供にシフトしている。そんな中、日産自動車とDeNAは無人運転車両の配車サービス「Easy Ride」で協働することを2017年に発表した。

 Easy Rideがユニークなのは“仮想停留所”にある。そのイメージはゲーム「ポケモンGO」に出てくる「ポケストップ」に近い。仮想停留所には、そこに行っても目印がなく、スマホの専用アプリ内のみで停留所が表示される仕組みだ。

 利用者は、専用アプリで「迎えに来てほしい場所」ではなく「行きたい場所」を指定する。その後、最寄りの仮想停留所に移動。しばらくすると、自動運転の無人車両が来るので、乗車すると目的地に最も近い仮想停留所まで連れて行ってくれる。配車から支払いまで、スマホのアプリで完了する。さらに、遠隔管制システムで24時間監視しているので安全に利用できる。料金設定もタクシーより廉価に設定する計画だ。

アプリの画面。仮想停留所の「赤レンガ交通広場」に間もなく配車されるようだ
アプリの画面。仮想停留所の「赤レンガ交通広場」に間もなく配車されるようだ
24時間態勢で遠隔管制システムが稼働する。実証実験ではDeNA社員が担当したが、サービス開始時にはアウトソースも念頭に置いている
24時間態勢で遠隔管制システムが稼働する。実証実験ではDeNA社員が担当したが、サービス開始時にはアウトソースも念頭に置いている

開発の目的は交通不全の解消

 日産は自動運転技術と車両を、DeNAはアプリ開発と「mov」など既存の配車サービスで培った配車アルゴリズム、遠隔管制システムを提供。DeNAのオートモーティブ事業本部の町川高明シニアマネージャーは、「『Easy Ride』はタクシーの進化形。24時間365日無人のロボットビークルが稼働すればモビリティーの世界が大きく変わる。タクシーサービスの無人化を体験してもらいたい」と話す。

 その一方で、Easy Rideは既存の交通サービスの置換ではなく、あくまで地域交通を補うサービスとのこと。「子供から高齢者まで自由に好きなところへ移動できる」(町川氏)と話し、今や65歳以上の高齢者数が3500万人に上り、需要は十分期待できると見込んでいる。

 また、Easy Rideは日本の交通不全を解決する手段としての役割もあるようだ。DeNAによると、過疎地では廃止した鉄道やバスの路線の営業キロ数は1100キロメートル。一方、都市部の電車の平均混雑率は171%、渋滞による経済損失は年間12兆円に上るという(国土交通省「鉄軌道の廃止実績(平成5年以降)」「効果的な渋滞対策の推進」「主要路線の混雑率」による)。「交通不全は日本経済の本質的課題だ」と町川氏は指摘する。

 「Easy Rideは法定速度を超える設定はできないが、多くのクルマは法定速度を超えて走行している。ところが、(法定速度を超える)交通の流れに乗らず、法定速度で走る車両が増えれば、みなが一定の速度で走るようになる。すべてのクルマが同じような速度で走れば理論上渋滞は発生しない」と町川氏は持論を展開した。

経済先進国でありながら、いまだ交通課題は解決されていない
経済先進国でありながら、いまだ交通課題は解決されていない
DeNAのオートモーティブ事業本部の町川高明シニアマネージャー
DeNAのオートモーティブ事業本部の町川高明シニアマネージャー

地域経済の活性化も期待できる

 地域交通に組み込むことで、地域経済の活性化も期待できる。ルート上のスポットを紹介し、地域の魅力を伝えたり、ユーザーの関心に合わせてお薦めの目的地も案内したりする。さらに、クーポンを使った送客も視野に入れている。「地域経済とのウィンウィンを目指す」(町川氏)。他にも、訪日外国人のさらなる増加を見越して、多言語によるサービスにも対応する計画だ。

アプリでカテゴリ別に周辺のスポットがリストアップされる
アプリでカテゴリ別に周辺のスポットがリストアップされる
車内モニターでもお薦めスポットを紹介する
車内モニターでもお薦めスポットを紹介する

本格化に向けた都市部での実証実験

 20年代の早い時期に本格サービスの開始に向けて、18年から両社にゆかりが深い横浜で実証実験を実施。19年3月には、地域住民と横浜に勤務する人、約40組を対象に4週間にわたる大規模なモニター実験を行った。

 18年の実証実験との違いは3つある。1つ目はサービスを事前予約制から、より日常利用に近づけるためオンデマンドで配車ができるようにしたこと。

アプリを使って簡単に配車できる
アプリを使って簡単に配車できる

 2つ目は、乗降を無人化したこと。前回は停留所に看板を立て案内役のスタッフを配備したが、こちらも実際のサービスを想定して一切の目印と人員を廃止した。「仮想停留所にすることでコストが一切かからない」と、町川氏は利点を説明する。参加者はアプリ上に表示された仮想停留所まで移動し、車両の到着を待つ。

車両が到着したら2次元バーコードでドアを開ける
車両が到着したら2次元バーコードでドアを開ける
車内の「GOボタン」を押すとドアが閉まり発車する
車内の「GOボタン」を押すとドアが閉まり発車する
乗降地ポイントには目印が一切ない。路上駐車などがあれば最寄りのポイントまで自動検知して移動することもできる
乗降地ポイントには目印が一切ない。路上駐車などがあれば最寄りのポイントまで自動検知して移動することもできる

 3つ目は、エリアが大幅に拡大されたことだ。18年は日産の本社からワールドポーターズのみなとみらい地区までの往復4.5キロメートル、乗降地は4ポイントという小さな規模だった。今回は、関内地区周辺まで広げ、ルートは約28キロメートル、乗降ポイントも15カ所となった。エリア内を実際に周遊する観光バス「あかいくつ」の走行ルートとほぼ同じだ。山下公園や横浜中華街など主要な観光スポットも含み、行き交う人の数や交通量が格段にアップした。

 「これだけ人口密度の高い横浜中心部で、一般の方々に4週間日常的に使っていただくという大規模な自動運転サービスの実証実験は日本で初めて」と、町川氏は今回の実証実験の意義を語る。

好意的な反応と課題

 実験に参加したモニターからの反応は上々だったという。「乗り心地がかなり良かった」「ブレーキの踏み方には個性が出るがいい意味で個性がない」「未来にわたって日常の足として使いたい」という好意的な声が多く、モニターの1人は通勤で16回も利用したという。

2列目のモニターで映した運転席の様子。ハンドルには一切手を触れていない。実験のため乗員がいるが本格サービスでは無人になる
2列目のモニターで映した運転席の様子。ハンドルには一切手を触れていない。実験のため乗員がいるが本格サービスでは無人になる

 一方、予期せぬ課題も見つかった。「乗車中に居眠りする人がいた。今回は見守っていたところ到着時に目が覚めたが、実際のサービスでは泥酔した人なども想定しなければいけない。安全に乗客を降ろして初めてサービスが終わる。どうすれば起きてもらえるか、安全に降りてもらえるか。これは新たな課題だ」と町川氏。

 将来的には子供だけでも利用できるサービスを目指すEasy Ride。今後は段階を踏んで時間帯や場所などを限定した環境でスタートし、サービス仕様を最適化したり商業施設や病院など地域パートナーを開拓したりしていく計画だ。

(写真/稲垣 純也、写真提供/DeNA)

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