国際ユニヴァーサルデザイン協議会(IAUD)が初めて国外で開催した「第7回国際ユニヴァーサルデザイン会議2019 in バンコク」。ユニバーサルデザインに対する東南アジアからの高い関心に応えた。開会式には安倍晋三首相のビデオメッセージが流れ、日本とタイの友好関係を象徴する会議となった。

会場では日本語や英語、タイ語でそれぞれ同時翻訳や字幕があった。日本語の手話も行われた
会場では日本語や英語、タイ語でそれぞれ同時翻訳や字幕があった。日本語の手話も行われた

 同会議は2019年3月、バンコクにあるモンクット王工科大学ラートクラバン校で開催。「ユニヴァーサルデザインによる持続可能な発展」とのテーマを掲げ、パネルディスカッションやワークショップ、「IAUD 国際デザイン賞2018」の授賞式などを行った。

 狙いは、日本とタイの友好関係をユニバーサルデザインを通じて深めるためだ。モンクット王工科大学は、地域開発をテーマにした活動によって17年のIAUD国際デザイン賞をで受賞。タイにユニバーサルデザインを根付かせるため、日本や欧米の知見を取り入れたいと自国での開催を要望していた。人口の高齢化や観光ビジネスでのニーズなどから、ユニバーサルデザインの重要性を感じているからだ。こうした趣旨に日本政府も賛同。開会式には安倍晋三首相のメッセージがビデオで流れ、佐渡島志郎在タイ日本国大使の他、タイ側の要人も参加。両国の友好関係を象徴する会議となった。

開会式では、安倍晋三首相によるメッセージがビデオで流れた
開会式では、安倍晋三首相によるメッセージがビデオで流れた
ワークショップの様子。タイ人や車椅子の利用者も参加していた
ワークショップの様子。タイ人や車椅子の利用者も参加していた
パネルディスカッションなどに対し、会場からも積極的な質問が飛んだ。参加者の意識は高い
パネルディスカッションなどに対し、会場からも積極的な質問が飛んだ。参加者の意識は高い
バンコクのモンクット王工科大学ラートクラバン校のメインホールなどが会場になった
バンコクのモンクット王工科大学ラートクラバン校のメインホールなどが会場になった

タイの大学では授業に取り入れる

 会場には、インクルーシブデザインで知られる英国王立芸術大学院(RCA)名誉教授のロジャー・コールマン氏など、欧米からの参加者も多かった。さまざまな国からの講演者がいたが、ユニバーサルデザインの会議らしく、それぞれの言語で同時通訳や字幕表示の対応があり、日本語や英語、タイ語が飛び交った。日本語の手話もあった。会場を提供したモンクット王工科大学は、車椅子の利用者向けにトイレも改装。まさにユニバーサルデザインを実現していた。

 講演のテーマは、ユニバーサルデザインを生かしたイノベーションから地域開発まで、多岐にわたった。タイでは特に観光地でのユニバーサルデザインが急務で、まだ対応が遅れているという。これに対し世界の観光地で活用されているユニバーサルデザインが伝えられ、日本の観光地からもアドバイスがなされた。既にタイの建築系大学ではユニバーサルデザインのカリキュラムを取り入れているという。高齢者向けの住宅を自分たちで設計するなど、日本の学生よりもユニバーサルデザインに関する意識が高いのでは、という声も聞かれた。今回の会議の一環で行われたワークショップに参加するタイの大学生も多かった。日本や欧米の知見が今後、タイに生かされそうだ。

タイの建築系大学は合同で高齢者向けの住宅を設計
タイの建築系大学は合同で高齢者向けの住宅を設計
タイの観光地を調査した結果、まだユニバーサルデザインが遅れていることが分かった
タイの観光地を調査した結果、まだユニバーサルデザインが遅れていることが分かった
車椅子で利用できる観光船の例を欧州の専門家が紹介。船の外観を見ると周囲にスロープがあり、車椅子で直接に展望デッキに行くことができる
車椅子で利用できる観光船の例を欧州の専門家が紹介。船の外観を見ると周囲にスロープがあり、車椅子で直接に展望デッキに行くことができる
【左】開催を推進したタイのモンクット王工科大学建築学部長のアンティカ・サワスリ氏 【右】タイのタマサート大学UDセンターのチョムケット・サワンチャウレン氏は、タイのバリアフリーの現状を語った
【左】開催を推進したタイのモンクット王工科大学建築学部長のアンティカ・サワスリ氏 【右】タイのタマサート大学UDセンターのチョムケット・サワンチャウレン氏は、タイのバリアフリーの現状を語った
「IAUD 国際デザイン賞 2018」の審査委員長も務めたRCA名誉教授のロジャー・コールマン氏
「IAUD 国際デザイン賞 2018」の審査委員長も務めたRCA名誉教授のロジャー・コールマン氏
「IAUD国際デザイン賞2018」の受賞者や審査委員。国内外からエントリーがあり、大賞が1件、金賞が11件、銀賞は4件が選ばれた。海外からのエントリーでは、台湾省庁による「ユニバーサルデザイン住宅空間認証マーク」の採用を推進してきた台湾の団体に金賞が送られた
「IAUD国際デザイン賞2018」の受賞者や審査委員。国内外からエントリーがあり、大賞が1件、金賞が11件、銀賞は4件が選ばれた。海外からのエントリーでは、台湾省庁による「ユニバーサルデザイン住宅空間認証マーク」の採用を推進してきた台湾の団体に金賞が送られた
大賞は富士通と富士通デザインによる「災害対策本部から住民まで一貫したユニバーサルな総合防災ソリューション」が受賞
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クラリオンとタチエスは、「InfoSeat」と呼ぶ運転支援システムで金賞を獲得
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資生堂はシニア女性のニーズと好みを満たすようにデザインした「プリオール」で金賞に
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商品を展示するコーナーもあった。写真はユニバーサルファッション協会の「衣のUDプロジェクト」が開発した「UDジャケット」で、災害用としての用途も狙っている
商品を展示するコーナーもあった。写真はユニバーサルファッション協会の「衣のUDプロジェクト」が開発した「UDジャケット」で、災害用としての用途も狙っている
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