毎年4月に伊ミラノで開催される「ミラノ国際家具見本市」。市内全域で同時開催される「ミラノデザインウィーク」と併せ、家具およびデザイン関連としては世界最大級の規模を誇るイベントだ。2019年も多くの日本企業、デザイナーが参加する予定で、開催直前の今、今年の見どころを紹介する。
ミラノ国際家具見本市(以下、ミラノサローネ)のロー・フィエラミラノ本会場(以下、本会場)には昨年、188の国と地域から約43万人が来場し、前年比26%増を記録している。58回目の開催を迎える19年の会期は4月9日から14日まで。20万5000平方メートルを超える展示空間に2350以上の企業やデザイナー(内、海外から34%)が出展する。今回は隔年で「エウロルーチェ(照明)」と「Workplace3.0」の見本市が開催される年でもある。
本会場に新カテゴリー誕生
開催に先駆けた2月、現地の記者会見で新しい取り組みが発表された。ミラノサローネの方針をまとめたマニフェストには「インジェヌイティ(創意工夫)」というキーワードが加わり、イタリアに創造的革新の礎を築いた芸術家レオナルド・ダ・ヴィンチの没後500周年を記念するイベントとも連動させる。本会場内でダ・ヴィンチにまつわるインスタレーションを行う他、市内に残る史跡を活用する特別展示「アクア(水)」をミラノ市と共催する計画だ。
本会場では「S.Project」という展示エリアも新設する。会場内の1万4000平方メートルを占有し、世界トップブランドの中から企業向けコントラクト事業で大きく伸びている66社を選抜して、それぞれ個別のブースで構成。米エメコやデンマークのフリッツハンセンといった出展常連企業に加え、市内のショールームでのみ新作を発表していたB&Bイタリア社なども再出展する。ファブリック、音響機器、アウトドア家具など領域を超えた企業間の相乗効果も狙いの1つだけに、インテリアデザインの動向をいち早く反映する場となりそうだ。S.Projectには日本企業では唯一、マルニ木工が参加する。13年に初めて単独出展をして以来、デザインと技術力で着実に評価を得てきた成果だろう。アートディレクターを務める深澤直人氏が、新作家具と共に今年もブースデザインを担う。
本会場に出展する日本企業は他に、カリモクニュースタンダードとリッツウェルの2社。連続3年目の単独出展となるカリモクニュースタンダードは、同時期にミラノ市内の小さなアパートにプライベートハウスを設けて、別の展示を行うという新鮮な手法を試みる。
日本企業が3社のみと少ない現状について、ミラノサローネのクラウディオ・ルーティ社長は、「日本の家具インテリア市場は強い立ち位置にあるので、悲観的に考えてはいない。出展に関しては主催側と同じ価値観を持っているかどうかが大切で、我々はいつでも前向きに捉えている」と話した。
とはいえ、日本人デザイナーの活躍は顕著だ。海外ブランドに指名されるデザイナーはもちろん、若手が自主的に出展するエリア「サローネサテリテ」への参加も多く、注目を集める。会期2日目に表彰される「サテリテアワード」でも、昨年はテキスタイルデザイナーの氷室友里氏が受賞し、その後の活動へ勢いをつけた。今年のサテリテ会場はホール22と24に併設され、会期中を通して入場無料で一般公開。会期初日にメーカーの開発担当者が訪れ、次世代の才能をスカウトする場にもなっている。
ミラノ市内で独自の展示も
一方でミラノサローネと同期間、市内でもさまざまな必見のイベントが行われる。それらを総称してミラノデザインウィークと呼ばれており、家具やインテリア関連のショールームで新作を発表する他、デザイナーとコラボレーションした特別展も多い。新製品の発表に限らず、理念やコンセプトを伝えるコミュニケーションのきっかけとなる役割が重視されている。
昨年に続き2度目の出展を果たすのはセイコーウオッチ。「グランドセイコー」のブランド向上を目指し、世界観をインスタレーションで表現する。プロデューサーを務めるTRUNK代表の桐山登士樹氏とCGディレクター阿部伸吾氏に、今回初めてwe+(林登志也氏、安藤北斗氏)が加わる。we+は「TOKYO MATERIAL」でも参加する。NBCメッシュテックの素材が持つ可能性に取り組んだデザイナー、倉本仁氏や吉田真也氏、YOY(小野直紀氏、山本侑樹氏)の作品と共に、マテリアルコネクション東京のプロデュースで展示される。
昨年に続き出展するソニーはロボティクスをテーマに、人との共生を考える場を創出。体験型の展示は、前回も再訪者が絶えないほど話題となった。
ミラノ中央駅の高架下旧倉庫を展示会場にするのは、AGCやヤマハデザイン研究所、TAKT PROJECT、大日本印刷。なかでもAGCは15年から継続した出展で素材と幅広い加工技術を披露してきた。今回はプロダクトデザイナーの鈴木啓太氏が三次元曲面成形とセラミックスの3Dプリンティング技術に向き合う。
11年ぶりの単独参加となるヤマハデザイン研究所にも期待が高まる。所員であるデザイナーたちが、楽器で培った経験から生まれる独特の没入感を展開。“パルス”をテーマに4作品を手掛ける。
TAKT PROJECTの吉泉聡氏の活躍は、ミラノでもすでに知られているが、大型個展は今回が初めて。新しい自主研究プロジェクトをインスタレーション形式で発表する。プロダクトだけでなく会場構成にも注目しておきたい。
初出展するハンドルメーカーのユニオンがコラボレーションする相手は、建築家の田根剛氏だ。ハンドルを1つずつ砂型で鋳造するプロセスを、膨大な資料とともに見せる。創業60年を迎えたユニオンの新たな一歩となるだろう。
会場を変えて4度目の出展となるのはニトムズのマスキングテープ「HARU」ブランドだ。クリエイティブディレクターSPREADとともに「Color Appreciation色を鑑賞する」と題してインスタレーションを実施する。コントラストが映える場は、発色の良さが個性のHARUでこそ実現できる空間といえる。
6年ぶりに参加する北海道旭川市のカンディハウスは、デザイナーの喜多俊之氏の新作「NUPRI」を市内のギャラリーで披露。同時に、地域の活性化などを目指すジャパンクリエイティブとしては、デザインユニットのロウエッジズと組んだ木製家具「Crust」を発表する。
新たな取り組みを発表する場は、ギャラリーや特設会場に限らない。毎年、大規模な個展を開いてきたnendoは今回、複合施設のテノハ ミラノを会場にインスタレーション「breeze of light」を行う。ダイキンとコラボレーションし、「空気」の視覚化によって違う「空気の感じ方」を探る展覧会だ。テノハのカフェレストランでは、フリッツハンセンの協力でnendoの家具デザインにも触れられる。
4年連続でポップアップストアを出店するのは、アッシュコンセプト。オリジナルブランド「+d」と同社がプロデュースする「soil」「hmny」「CORGA」の製品を7日間限定の店舗で販売する。約100点にも上る日本製品が実際に買える機会はミラノでも少ないため、常に購入客の絶えない人気を博してきた。こうしたショップの勢いや、その場でだけ体感できるインスタレーションが、ミラノデザインウィークの魅力を増幅させている。