大阪といえば道頓堀のグリコの看板やお笑いのイメージが強い。それだけでは語れない、“大阪らしさ”を表現したいという思いで開発された都市型ブティックホテル「THE BOLY OSAKA(ザ・ボリー・オオサカ)」が、2019年3月29日、大阪・北浜に開業する。こだわりのポイントに迫る。
ターゲットはアクティブ層と観光客
ザ・ボリー・オオサカは築約60年の古い建物を改築して造られた。東急プラザ銀座や有楽町マルイなどの空間デザインで知られる「インフィクス」が、企画デザインから運営までを手掛ける。同社にとって本格的なホテル事業は今回が初めて。建物は数年前に購入し、自社オフィスとして使用していたが、「ホテルとしてリノベーションし、新たな価値を加えることが今の時代に合っている」と、インフィクスの間宮吉彦代表取締役社長はホテル事業に参入した理由を明かす。
狙いは、これまであまり知られることのなかった大阪らしさの発信拠点を作ること。インバウンドによる海外からの観光客が急増し、ホテルの建設ラッシュと観光ブームに沸く大阪は、現在、宿泊料金の価格競争が激化している。
そこで空間デザイン会社ならではのデザインと、大阪人の目線を大切にした、大阪らしいホテルで他施設との差別化を図ろうというわけだ。ターゲットは日本や大阪に関心の高いアクティブ層と、ホテルでの体験にこだわる国内外の観光客。全14室のコンパクトなホテルながら、センスが良く、景観も楽しめるリノベーションホテルとして話題を呼びそうだ。
大阪・梅田から地下鉄御堂筋線で1駅目の淀屋橋駅から徒歩5分。中之島公会堂などの近代建築や、ビジネス拠点が集積する北浜の川沿いに「ザ・ボリー・オオサカ」はある。近年、水辺のにぎわいを取り戻すプロジェクトが進められ、川沿いを中心におしゃれなカフェやレストランが点在。大阪を代表するエリアの1つになっている。
ところが観光客が抱く大阪のイメージは道頓堀や新世界で、中之島や北浜の認知度は低い。河川の水運の発展と共に街が栄えてきたが、戦後、輸送の主体が陸運に変わり、水辺の交流が衰退してしまったのが大きな理由だ。
「界隈(かいわい)は大阪文化の発祥地。旦那衆が道楽で建てた建造物が今も残っている。土佐堀川には料亭や旅館が軒を連ね、小舟で遊びにいっていた。もともとあった大阪を刷新することで、これまで知られてこなかった大阪を発信していきたい」と間宮氏は話す。
とはいえ、当初はホテルに改築する構想ではなかったという。テナントビルとしては使いづらく、いずれは建て替えるつもりだった。ホテルとして開発する決断をしたのは、「あえて古いビルに泊まるという体験型の宿泊に価値観がある」(間宮氏)と考えたからだ。
例えば客室のコンクリートの梁(はり)や壁の一部は、古い躯体(くたい)をそのまま生かし、武骨な雰囲気。古びた床やエレベーターの入り口を縁取る石にも、昭和っぽさが感じられる。特定のスタイルに固執するのではなく、自身の感性でいろいろなものを組み合わせて、価値あるものに変えていくのが間宮流だ。
「トリュフビーチの突板(つきいた)を壁に使ったり、ヒョウ柄のベッドカバーなどパワフルで面白い大阪をあえて取り入れたのは、大阪らしさを求めて遊びにきた観光客のための演出。地味派手をセンス良く表現した」(間宮氏)
川辺の環境をデザインに取り込んでいるのも大きな特徴だ。川沿いのすべての部屋から中之島が一望でき、テラス付きの客室では外の風を感じながら特別な時間を過ごすことができる。川に面した客室には水を、反対側の道路に面した客室には光を取り入れたデザインが印象的。夜になると、客室の壁に水の揺らぎが映し出されるといった演出も心地良い。
生粋の大阪人がロゴやアメニティーを厳選
客室はテラス付きで最も広いリバービューレジデンスと南向きのキタハマレジデンス、リバービューダブル、リバービューツイン、コンパクトなキタハマアトリエの5タイプ。宿泊料金は1泊1室1万3000(税別)からで、都心のデザインホテルにしては手ごろな価格設定となっている。
大阪らしさの追求は、ロゴデザインやアメニティーでも徹底されている。すべて生粋の大阪人である企画運営スタッフたちの視点で厳選。アメニティーは自分たちの足で探し、ロゴデザインは気鋭のグラフィックデザイナー、高田唯氏に依頼した。
小ぎれいなデザインがまん延する世の中に、アンチテーゼを唱える高田氏の作品は、猥雑(わいざつ)性があり、アジアにもファンが多い。「ホテルとしてはリスキーともいえる三ツ星をロゴデザインに取り入れたデザインセンスが、大阪らしくていいと思った」と、ゼネラルマネージャーの間宮尊氏は話す。
スタッフユニホームはレディー・ガガも愛用する大阪のファッションブランド「ロギーケイ」に製作を依頼。アメニティーには大阪のホテルでは初めて「メゾン マルタン マルジェラ」のバスセットを導入した他、大阪を拠点に活動するデザインスタジオ「ドーグデザイン」の歯ブラシをアレンジして採用した。
今後は地下1階のギャラリーなどを使った音楽イベントや展示会も、積極的に展開していく。さらにホテル沿いに設けられた船着き場から、ユニバーサル・スタジオ・ジャパン(USJ)や大阪城へ送迎するクルーズサービスも計画中だ。
「かつての大阪を彷彿(ほうふつ)させるような、今の時代ならではのエンターテインメントなサービスを提供していきたい。シャンパンを飲みながらクルーズを楽しんでもらえたら」と間宮マネージャー。異業種のホテル市場への参入が相次ぐ中、大阪らしさとデザインに徹底的にこだわったザ・ボリー・オオサカの取り組みが注目される。
(写真/橋長初代)