2019年4月、洗濯洗剤の主力「アタック」を全面刷新し、新商品「アタックZERO」に一本化する花王。それに先駆け2月下旬、P&Gがこちらも主力「アリエール」で“スポーツ”を切り口にした商品を投入。どちらも過去最高の洗浄力を掲げ、頂上決戦の様相だ。洗濯洗剤の最強対決の行方やいかに。

アリエールジェル プラチナスポーツ(写真左)とアリエールジェルボール3D プラチナスポーツ(同右)
アリエールジェル プラチナスポーツ(写真左)とアリエールジェルボール3D プラチナスポーツ(同右)

 2019年春、洗濯洗剤市場で頂上決戦が始まる。花王は新開発洗浄基剤「バイオIOS」を配合し、花王史上最高の洗浄技術を実現した「アタックZERO」を4月に発売する。落ちにくい汚れ、生乾きのニオイ、洗剤残りのすべてを“ゼロ”にするという“ゼロ洗浄”のキャッチフレーズで、主力商品「アタック」をアタックZEROに1本化する。既存のアタックNeoシリーズは3月をもって廃止。まさに社運を懸けたリニューアルだ。

 対するプロクター・アンド・ギャンブル(P&G)ジャパンは、主力「アリエール」の上位商品となる「アリエールジェル プラチナスポーツ」を2月下旬に発売。手ごわいスポーツ時の汗や泥汚れ、しつこいニオイも落とす「アリエール史上最強の消臭洗浄力」を掲げる。CMキャラクターに“最強”のスポーツ選手である大坂なおみを起用し、こちらも気合の入れ方が半端ではない。

 そこで今回はライバル花王に先行して、自社の“史上最強”商品をラインアップに加えたP&Gに、開発の理由と勝算について聞いた。

スポーツ人口増加で関連ウエア市場も拡大

 アリエールジェル プラチナスポーツは、スポーツウエアなど合成繊維を使った衣類の落ちにくい油汚れや、頑固なニオイに効果があるという。これまで「スポーツ」と銘打った洗濯洗剤はなく、「ライバルはいない」とP&GジャパンブランドPRマネジャーの星川聡氏は言い切る。新製品は高機能をアピールするために“スポーツ”を前面に押し出しているが、スポーツウエアの素材としてよく使用されている合成繊維専用というわけではなく、綿などすべての繊維に対して強力な消臭洗浄力を発揮するという。ならばなぜ、あえて“スポーツ”を冠したのか。

 P&Gジャパンが着目したのは、近年のスポーツ人口の増加に伴う、スポーツファブリック市場の拡大だ。

成人のスポーツ人口は増加傾向にある
成人のスポーツ人口は増加傾向にある

 スポーツ庁の調査では、週1回以上運動をする成人は半数を超え、4人に1人は週3日以上もスポーツをしている状況だ(「体力・スポーツに関する世論調査<平成24年度まで>」および「東京オリンピック・パラリンピックに関する世論調査<平成27年度>」「スポーツの実施状況等に関する世論調査<平成28年度から>」)。またスポーツ用品市場も成長を続けており、16~17年でスポーツのために購入したアパレルの市場規模は2900億円に上るという(エヌピーディー・ジャパンによる調査)。

 特にスポーツウエアをファッションとして楽しむ「アスレジャー」市場の成長が著しい。その市場規模は、17年が8588億円で、東京五輪が開催される20年には8926億円に達すると見られている(矢野経済研究所による推計)。アパレルだけに限っても、4460億円に上る見込みだ。

進化するスポーツウエア、変わらない洗剤

 スポーツ熱が高まる裏で、洗濯洗剤とスポーツウエアとの“知られざる戦い”が繰り広げられていた。発端はスポーツウエアの機能性がアップしたこと。現在ほぼすべてのスポーツウエアに合成繊維が使われているが、速乾や消臭、保温といった効果を持つ機能性繊維は登場以来、洗濯洗剤の“強敵”となった。

 というのも機能性繊維を含む合成繊維は石油からできているため、皮脂などの油汚れと結合しやすく汚れが非常に落ちづらい。通常の洗濯では、汚れが衣類に残ることが多いという。その結果蓄積された皮脂汚れも、“ニオイの元”となって衣類にとどまることになるのだ。

 皮脂汚れの主な原因はズバリ、汗。「大量の汗を吸収するスポーツウエアは、他の衣類に比べて蓄積汚れが多くなりがちで、ニオイが気になりやすい」(星川氏)。実際に「洗濯をしても、スポーツウエアに残るニオイが気になる」という声が近年特に目立っていたという。

P&GジャパンブランドPRマネジャーの星川聡氏
P&GジャパンブランドPRマネジャーの星川聡氏
油由来の合成繊維は油汚れと結合しやすく、汚れが落ちにくい
油由来の合成繊維は油汚れと結合しやすく、汚れが落ちにくい

 しかし、スポーツウエアが変化する一方で、洗剤の基本構造はあまり変わらなかった。「進化したスポーツウエアに、既存の洗濯洗剤では対応できていなかった」と星川氏は打ち明ける。

皮脂汚れは目には見えない。紫外線を当てると汚れ残りが分かる
皮脂汚れは目には見えない。紫外線を当てると汚れ残りが分かる

 「実は日本人は世界でもニオイに敏感な国民」とP&Gジャパンファブリック&ホームケア担当の森朋子氏は言う。実際に、消臭をうたった商品の売れ行きは好調で、16年に柔軟剤「レノア」シリーズに強い消臭力を発揮する「レノア本格消臭」を投入。中でも「レノア本格消臭 スポーツ フレッシュシトラスブルーの香り」は、同シリーズで2番目の人気商品になった。ここでも消臭にうるさい日本人の“スポーツ効果”がはっきりと表れたのだ。

 森氏は、「柔軟剤で一気にシェアが1位になり、消臭需要に手応えを感じた。汗のニオイに特化した『レノア本格消臭 スポーツ』が好評だったため、洗剤にも“スポーツ”が必要だと考えた」と、アリエールジェル プラチナスポーツの開発の背景を語る。

 スポーツを押し出した洗剤は他メーカーには存在しない。星川氏も「ライバルはいない」と言い切る。

P&Gジャパンファブリック&ホームケア担当の森朋子氏
P&Gジャパンファブリック&ホームケア担当の森朋子氏

リニューアルではなく高付加価値商品として追加投入

 アリエールジェル プラチナスポーツは洗浄成分をこれまでのアリエールより強化し、消臭力も強くなった。星川氏は「通常のアリエールの高付加価値商品」と新製品の位置付けを説明する。モニター調査では、「普段の製品では余計なもののニオイが残っていたのでは、と気付いた」など、汗のニオイに対する効果を高く評価する声が多かった。

 同時に発売した「アリエールジェルボール3D プラチナスポーツ」は、特にくすみや黄ばみ、黒ずみなどの蓄積汚れに強いという。

 洗濯洗剤として必要な機能を進化させたにもかかわらず、刷新ではなく追加投入を選んだ。この点について星川氏は、「ほとんどの消費者は現在のアリエールで満足している。新製品はあくまで高付加価値商品。スポーツなど皮脂汚れのニオイを気にする人に向けて投入する」と、理由を説明する。2製品はターゲットが異なるため、ブランド内でパイの奪い合いにはならないと判断した。

 新製品は通常のアリエールより「価格が2~3割高くなる」(星川氏)。森氏によると、「家庭で洗濯洗剤を購入するのは主婦が多く、わずかの価格差にも敏感」なため、現状のアリエールの効果に満足しているユーザーが、価格上昇に反発するのを避けたい側面もあるという。

「汗のニオイが落ちた」と高い評価を得た
「汗のニオイが落ちた」と高い評価を得た

 新製品は詰め替え用の容器にも、洗剤を入れやすくする新技術を導入し、高付加価値を演出した。詰め替えパックの口に栓があり、本体の注ぎ口を押し込むと開栓する仕組みで、液ダレせずスムーズに詰め替えられるという。星川氏は「ここですよ」と詰め替え口を示しながら、「これによって洗剤の詰め替えという地味に面倒な作業の負荷を取り除いた」と胸を張る。これだけ便利なら他製品に転用してもよさそうなものだが、そこはプレミアム商品。この機構は今のところ「スポーツ」だけの専売特許だ。

洗剤を詰め替える際の面倒を省いたデザイン。詰め替えパックを逆さにして本体の注ぎ口にかぶせて押すと……
洗剤を詰め替える際の面倒を省いたデザイン。詰め替えパックを逆さにして本体の注ぎ口にかぶせて押すと……
注ぎ口の突起がパックの口を押し開けてこぼれることなく詰め替えられる
注ぎ口の突起がパックの口を押し開けてこぼれることなく詰め替えられる
開栓するまではキャップを外して逆さまにしても中の洗剤がこぼれない
開栓するまではキャップを外して逆さまにしても中の洗剤がこぼれない

 2000年に初めての液体洗剤で粉末洗剤の溶け残りを解消し、14年には洗濯洗剤で初めてのジェルボール型洗剤で革命的な利便性をもたらすなど、市場に変革を生み出してきたアリエール。19年春、初の「スポーツ用洗剤」でしつこいニオイに悩む人々の支持を得られるのか。くしくもライバル花王の大型新商品も、合成繊維の汚れに対する高い洗浄・消臭効果を掲げている。高機能化を競い合う洗濯洗剤の頂上決戦、軍配はどちらに上がるのか。次回は花王のリポートをお届けする。

(写真/酒井康治、写真提供/P&Gジャパン)