LINEが初のスマートディスプレー「Clova Desk(クローバ デスク)」を2019年3月19日に発売した。アマゾンとグーグルが圧倒的なシェアを誇るスマートスピーカー/スマートディスプレー市場で、LINEが競合製品を投入し続ける狙いは何か。開発責任者に聞いた。
コンセプトは「ホームサイネージ&コミュニケーション」
スマートフォンの次を担うデバイス(端末)として、AI(人工知能)アシスタントを搭載し、話しかけるだけで照明やテレビなどを操作できるスマートスピーカーが注目されている。2018年、これにモニター画面を搭載したスマートディスプレーがグーグルやフェイスブックなどから次々登場した。
日本向け市場でも、アマゾンが18年7月に円形ディスプレーの「Echo Spot」、同年12月に「Echo Show(第2世代)」を発売。そして19年3月19日、LINEがAIアシスタント「Clova(クローバ)」を備えたスマートディスプレー「Clova Desk(クローバ デスク)」を投入した。
3月12日の記者発表会で、壇上に立った同製品の開発責任者・LINE Clovaセンター スマートプロダクトチームの中村浩樹氏は言う。
「プロダクト(Clova Desk)のコンセプトは、ホームサイネージとコミュニケーションだ」
コンセプトの1つ「ホームサイネージ」は、家庭内の情報を操る“ハブ”的な役割といえる。Clova Deskに話しかけるだけで音楽を再生・停止したり、家の中にあるさまざまな家電を操作したりといった集合リモコンのような使い方に加え、天気や電車の運行情報、その日のスケジュールなどが確認できるというもの。
既にスマートスピーカーを家電リモコンとして使うのは、おなじみの用途だろう。そこにディスプレーが搭載され、ビジュアル情報の伝達力が増したのだから、使い勝手が向上しているのは想像に難くない。
さらにLINEが押し出そうとしているのは、もう1つの「コミュニケーション」のほうだ。
Clova Deskでは、従来のLINEのメッセージの送受信に加え、ディスプレー搭載によってスタンプのやりとりができるようになった。言うまでもなく、スタンプはLINEを使ったコミュニケーションの重要な要素。これなくしては「LINEらしさ」が発揮できないともいえる。さらにClova Deskはカメラを搭載しているので、ビデオ通話が可能となった。その際、画面に映った自分の顔にかわいいフィルターを施すこともできるので、コミュニケーションがいっそう愉快なものになる、という寸法だ。
Clova Deskによって、Clovaはこれまでの音声操作による家電リモコン、あるいは音楽を聴くためのワイヤレススピーカーから一歩踏み出し、ようやくLINE本来の強みであるコミュニケーションの役割を担える端末になったといえるだろう。
ほかにもAbemaTV(アベマティーヴィー)とのコラボレーションで、オリジナルの生放送コンテンツやニュースなどが視聴できたり、クックパッドとの連携によってレシピ情報を表示させたりできるようになった。バッテリー内蔵なので、キッチンに持っていって調理しながら動画を楽しんだり、レシピを確認したりといった使い方が可能だ。
スマホは飽和。次の転換点はもうすぐだ
ディスプレー搭載で、家庭内のポジションを上げたかに思えるClova Desk。確かにコミュニケーションを生かしたLINEらしいサービスも可能になった。しかし、先行するアマゾンやグーグルを脅かすほどの優位性はあまり感じられない。
これまでLINEは、AIアシスタント搭載製品として17年10月にスマートスピーカー「Clova WAVE」を皮切りに、かわいいキャラクターのスマートスピーカー「Clova Friends」、そのミニサイズ「Clova Friends mini」と、次々製品をリリースしてきた。そして「(AIアシスタントの)実際の普及には、音だけでは不十分」と中村氏が話すように、今回Clova Deskを発売した。
これまでのClova関連製品の売り上げについて中村氏に尋ねると、「販売台数は非公開」と前置きした上で、「スマートスピーカーやバーチャル(AI)アシスタントのマーケットの立ち上がり自体、われわれが当初想定していたよりも、スピードがゆっくりという印象」と語った。
市場の成長が想定より遅い中、多大なコストをかけてスマートスピーカーやスマートディスプレーの開発を続ける狙いは何か。それについて中村氏はこう説明する。
「3年から5年を見据えて、実際の事業化を考えている状況だ。今のスマートフォンの飽和状態を考えると、次の転換期はもうすぐ来る。そう考えたとき、スマートスピーカーというより、バーチャル(AI)アシスタントが次のパラダイムシフトの大きな中心になる」
そのパラダイムシフトを見据えながら、いち早く認知度とシェアを獲得するために「収益化よりも『ユーザーにどう使っていただけるのか、どういうニーズがあるのか』という観点で、サービスを展開している」と中村氏は明かす。
「(スマートディスプレーで新たに)創りたい市場は、家の中でスマホが使えない状況や時間。例えば、料理中でもLINEを使ってもらえるようにしたい。そこにわれわれの価値を提供する」(中村氏)
AIアシスタントが普及するタイミングに備えた布石
既にLINEは自動車内でのAIアシスタントの利用を想定し、車載器とClovaを連携した「Clova Auto」を18年6月に発表。まずはトヨタ自動車が、18年12月以降、車載器とスマホを連携するSmart Device Link(SDL)を備えた新型車で「LINE MUSIC」アプリを連携。2019年春に「Clova Auto」アプリが連携されれば、運転中でもLINEメッセージの送受信や無料通話ができたり、目的地の天気を確認したり、家の電気を消したりできるようになる。
「トヨタとのコラボレーションで『Clova Auto』をやって、スマートスピーカーだけでなくモバイルフォンでも、いろんなところでバーチャルアシスタントが使えたりするようになったとき、一気に普及のタイミングが来るだろう」と中村氏。
Clova Deskには、LINEになじみのない層への訴求効果も期待されている。
「LINEは高齢者に広がってはいるものの、20代や30代と必ずしも使い方は同じではない。そういった方でも音声は使いやすい。手元のスマホで操作しなくてもLINEが使える」(中村氏)
どうやら、LINEのスマートディスプレーには「LINE未経験者の利用シーンの創出」と「AIアシスタントが普及するタイミングに備えた布石」という2つの重要な狙いが込められているようだ。
(写真/酒井康治)