PwCコンサルティング(東京・千代田)は2019年3月6日、「PwC スポーツ産業調査 2018-岐路に立つスポーツ産業」を公開した。そこから、若いデジタルネイティブ世代を取り込むべく、従来のスポーツ産業が「eスポーツ」に学ぶべきものが見えてくる。
PwCコンサルティングが発表した「PwC スポーツ産業調査 2018-岐路に立つスポーツ産業」は、PwC スイスが世界42カ国470人のスポーツ産業の関係者を対象に実施した調査リポートに、日本と世界の比較および日本の若い消費者へのインタビュー分析などを加えたもの。同調査リポートでは、世界のスポーツ産業関係者たちが今後3~5年間における業界の成長率を年平均で7%と予想していること、収益増が見込まれるスポーツ分野の筆頭としてeスポーツを挙げていることなどが報告されている。
PwCの調査では、2022年までにeスポーツの市場規模が17年比で2倍になると予想している。また世界のスポーツ産業の関係者たちは、eスポーツを「無視できない存在」と考えている。その一方で「eスポーツはオリンピック競技に含まれるべきか」という問いについては、全世界で57%、日本で77.2%が「含まれるべきではない」と、日本のほうがeスポーツをオリンピック競技とすることに対し否定的であることが分かった。
この差についてPwCコンサルティングの菅原政規シニアマネージャーは、「日本のスポーツ産業から見たeスポーツは、別の領域のエンターテインメントだという意識がある。ただeスポーツが盛り上がっていることは知っていて、何か接点が持てないか考えている状態」だと見る。
eスポーツから学ぶべきはファンエンゲージメント
興味深いのは、世界のスポーツ産業関係者の3分の2以上が、業界にとっての脅威として「若い消費者層の行動変化」を挙げた点だ。リポートでは若い世代ほどモバイル端末でコンテンツを楽しむ傾向が強く、特定の時間にコンテンツを視聴しようと彼らに思わせるためには、非常に高いクオリティーとエンゲージメントが求められると結論づけている。“従来のやり方”では、若い世代を取り込めないということだ。
「例えばサッカーでは、Jリーグが公表している観戦者の平均年齢は40代が中心(18年)。グローバルでもゴルフ(PGAツアー)や野球(MLB)のテレビ放送は視聴者の平均年齢が上がっているというデータもある」(菅原氏)
逆に、eスポーツが若い世代に好まれる理由は何か。菅原氏は「調査結果にあるように、若い世代は複数の端末を使って複数の試合を同時に観戦したい、他の視聴者とのコミュニケーションを取りたいと考えている。競技時間が数時間に及ぶスポーツや、終了時間が読めないスポーツはあまり好まれない。その点で相性が良かったのがeスポーツ」だと話す。確かにeスポーツの場合、1回の対戦が短時間で決着し、決勝トーナメント自体も1日で完結する大会が多い。もはや1試合だけの“コンテンツ”に、何時間も若い世代を引きつけておくのは厳しいということだ。
今後の購買力の伸びを考えると、若い消費者層の行動を理解することは、スポーツ産業にとって最優先課題と言えるだろう。どのようにして若いファン層を取り込むかについて、スポーツ産業関係者がeスポーツの取り組みから学べることは多いようだ。
実際、同調査の回答者の73.8%は、ファンやゲーム愛好家の嗜好に合わせたプロモーション、コメントを通じたファンとの交流といった、「ファンやコミュニティとのエンゲージメント」について、多くを学べると考えている。次いで45.5%が「革新的な競技形式」、39.9%が「魅力的なコンテンツの創出」、38.4%が「世界中のオーディエンスへのアプローチ」となっており、リポートでは「これらは全て、ファンとのエンゲージメントやコミュニティの構築を促進する」と分析している。
またPwCがeスポーツを「本質的に、若くて可処分所得の多いデジタルネイティブのファンを引きつける」と捉えている点も注目だろう。ファンが高齢化している従来スポーツ産業の関係者が、なんとかeスポーツの“エッセンス”を取り入れたいと考えるのも当然と言える。
一方で、eスポーツ側ではビジネスモデルやエコシステムが未成熟であることなどの課題を抱えており、リーグ運営やガバナンス、マネタイズの方法について、逆に従来スポーツから学ぶべきだとの指摘もある。菅原氏によれば「JeSU(一般社団法人日本eスポーツ連合)はできたが、eスポーツはまだプロ野球やJリーグのように全体をまとめる強力な組織がなく、イベントなども個別に開催されている状態。リーグ運営という点では(グローバルで見ても日本国内で見ても)まだ初期の段階にある」とのこと。eスポーツを“収益を生むコンテンツ”に成熟させるためには、パートナー企業を巻き込むことを検討する必要があると、リポートも指摘している。