女性用スタイリング剤市場で24年連続首位をひた走る花王「リーゼ」。ロゴや香りなど、6年ぶりの大刷新は売り上げ前年割れが続くスタイリング市場を復活させる起爆剤となるか。10年周期で繰り返す「ヘアメークの法則」が刷新成否の鍵を握っている。
2011年以降、女性用スタイリング剤市場は前年割れが続いている。18年の市場全体の売り上げは、11年に比べ91%だった。
市場全体が冷え込む中、「長年業界をリードしてきた花王が再びヘアスタイリングを始めるきっかけを作らなければと考えた」(花王・ヘアケア事業部ブランドマネジャーの菊田ふみ子氏)ことが「リーゼ」大刷新のきっかけとなった。「ここ1~2年で10~20代の若い世代に髪のスタイリングを楽しむ人が増え始めている」と菊田氏は市場の復活に自信を見せる。
“華やかスタイル”期の再来を予想
女性用スタイリング剤が不調の理由は、近年のファッションやヘアメークにおけるナチュラル志向にある。華やかに飾り立てるのではなくシンプルさを追い求める人が増え、ヘアスタイルを形づくるワックスなどの「メークアップ」商品は売れなくなった。
しかし、花王は次のトレンドがナチュラルから一転して“華やかスタイル”になると予想する。「ヘアスタイルのトレンドは10年周期で繰り返す」(菊田氏)ことがその根拠だ。
例えば90年代は、ミディアムボブなどナチュラルスタイルが流行。リーゼからは今でも1番の人気商品という寝癖直し用の商品が登場した。そして2000~2010年は、巻き髪など華やかなスタイルが人気になり、簡単に形が作れるヘアワックスなどが登場した。
だが、11年に入ると先述の通り再びナチュラル志向に戻り、毛先が重めのボブスタイルがトレンドになった。形づくる「メークアップ商品」ではなく、オイルやミルクなどまとまりの良さやツヤ感が出せる「ベースメーク商品」が主役に躍り出た。
このように10年ごとにトレンドが変遷していることから、19年以降は“華やかスタイル”期の再来が予想される。花王の調査によると、ヘアアイロンの使用率が11年から17年にかけて13ポイント、まとめ髪の実施率が14ポイント上がっている。
「ヘアスタイルを変えて違う自分になりたい」「髪が傷んでも思い通りにしたい」という意見も年々増加している。「2020年の東京五輪・パラリンピックに向けて、より華やかなファッションやヘアスタイルを楽しむという傾向がみられる」と、菊田氏は分析する。
ヘアカラーのシェア占有率が3割に
3月4日に発表されたリーゼの大刷新では、“華やかスタイル”期の再来に合わせた戦略が明かされた。
まずはブランドコンセプト。これまでの「朝のキレイの近道」から「Happy New Me!」に変更し、ヘアスタイルを変えることで新しい自分に出会える楽しさを提案する。商品では、ロゴや香り、パッケージデザインを刷新するのに加えて、ヘアアイロン、ドライヤー、ケア&スタイリング、パーマ、まとめ髪用の5つの用途別にラインアップを再編した。
特にヘアアイロンユーザーの増加に合わせて、アイロン用の商品は品ぞろえを強化。その特徴は、一度にたくさんの毛を巻いても内外で温度差の出ない独自のポリマーを配合し、何回も巻き直す面倒を取り除いたことだ。
さらに“華やかスタイル”の中核を担う黒髪用ヘアカラーの「リーゼプリティア 泡カラー」は、ブランド名を「リーゼ 泡カラー」に変えてパッケージデザインも一新。実はナチュラル志向で人気が低迷していたヘアカラーだが、3~4年前くらいから人気が回復している。「髪を傷めてでもカラーリングを楽しみたいという人が増えている」(菊田氏)。
18年の春に花王ではヘアカラーのパッケージデザインをイラスト調ではなく、カラーの印象に合わせてファッションスナップのような写真に変えたところ、売り上げは前年を超え、シェアは3割に拡大した。今回のリニューアルでもカラーの印象を写真で提案する手法を踏襲しつつ、なりたいイメージに合わせて「ナチュラル series」と「デザイン series」の2つのラインに分けた。
19年秋以降は、これまであまり注力してこなかったヘアケアも視野に入れる。「香港や台湾などアジアでも展開するリーゼだが、ヘアケア商品の海外需要は時代を問わず高い。日本でも、ヘアケアはスタイリングの一部になっている」(菊田氏)。
新生リーゼは、女性の変身願望を刺激し日本のスタイリング剤市場を再び活気づけることができるのか。
(写真/中村 宏)