論理的思考と情、強いのは?

金谷 マネジメントといえば、階層ごとの役割分担についても描かれているのが印象的です。うちは2009年に営業代行事業をスタートしたのですが、そこでの私は猪突猛進の蒙武(もうぶ)のように先頭に立って突撃したり、「行け~!」と活を入れるのが役割でした。けれども、駐車場シェアリングサービスのakippaを始めてからは、大きく育てるために経営と執行の分離を考えるようになりました。「経営とは何だろう」と悩んでいた時期があったんです。その頃、『キングダム』で中華統一の思いを語る政を見てストンとふに落ちた。それで、経営メンバーに言ったのは、「俺は政のようにビジョンを打ち出す役割に徹する」というひと言。一気に私の意思が伝わりました。

山野 人材登用にも気づきがありますよね。特に、本能型と知略型の話。

金谷 はい。営業代理店の頃は別に戦略がなくてもとにかく推し進めればよかった。けれど、何百万人もが使うサービスをつくろうとすると、戦略眼を持った李牧(りぼく)や王翦(おうせん)のような将軍が必要になってきます。私は感性を重視する右脳派、『キングダム』でいう典型的な本能型なんですが、あえて経営の他のメンバーは理詰めで考える左脳優位の知略型で固めています。私が何か始めようと提案すると、他のメンバーは必ず調べ尽くして反対する。それを聞いてもなお私がいけると思うときは突破しますけどね。

久保田 それ、すごくバランスがいい。

山野 うちのメンバーも知略型が比較的多いんですが、知略だけで進めていけばうまくいくとは限らない。知略と本能的な感覚、状況に応じてそれぞれ大事なタイミングがあると思います。

金谷 今、論理的思考ができる知略型がもてはやされがちですよね。

山野 そんな中、今の時代にあえて、信のように感覚や情を大事にしなさい、という作者の原さんからのメッセージなんじゃないかと勝手に深読みしています。

久保田 呂不韋(りょふい)に忠義をもって仕えていた昌平君(しょうへいくん)が、「秦国がいい方向に進むなら」と最後に政に付いたのも、まさにこの情に揺さぶられたから。結局はエモさが人を動かすのだと思います。

金谷 人材登用の点でもう一つ共感したのが、飛信隊の副長である渕(えん)のあり方です。実はうちの元役員で古株の2人が、後から自分たちよりもマネジメントができる人が入ってきたので役員を辞めたいと言ってきたことがありました。「現場では負けない自信があるが、僕らが役員をしていると成長速度が遅れる」と、自らプレーヤーへの“降格”を申し出てきた。それって、渕(えん)の責任感と同じだなと。

久保田 渕(えん)は結果的に副長を続ける決心をしましたが、それまで相当悩んでいましたよね。華々しい働きはしないけれど、渕(えん)や尾平(びへい)のようにチーム創成期からいるメンバーってすごく大事。組織が大きくなればなるほど、リーダーのことを理解し、創成期を語れる人が現場にいるのは心強いです。

山野 組織にいてほしい存在といえば、騰(とう)ですね。私自身は、将軍の王騎(おうき)を目指すべきリーダーの一人だと思っているんですが、それを支える騰(とう)の存在はすごく大きい。王騎(おうき)が死んでからも「中華をまたにかけた大将軍を、傍らで支え続けた自負がある」と語り継いでくれる。あの場面は泣けます。あのような副将がいる組織は強いですね。

金谷 いわゆる番頭さんですね。ときどき、リーダー同等にすさまじく仕事ができる副長っていますから。そういう人がいれば組織に厚みが生まれます。

経営陣として、直感力を持つ本能型の金谷氏の周りに知略型メンバーを配置。互いを受け入れながら、経営のバランス化を図っている
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13巻131話
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「バリバリの営業代理店業の頃は、本能のままに隊を率いる武将・蒙武のようだった」と金谷氏
49巻531話
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akippaのサービスを始めてからは、李牧のような左脳型も重用

久保田 育成面から見ても、『キングダム』は役立つと思っているんです。戦い方を教えてほしいと頼みにきた信を、王騎(おうき)が崖から突き落とすシーンがあります。成長を促すためにはプレッシャーが必要だと思いますが、人それぞれ最適な負荷のかけ方は異なります。時には突き放すことが必要なことも。特にプライドが高くて絶対に俺がやってやるんだというタイプには、あえて口出しをせず、自分で何とかするしかないという環境に置くことが近道になることもありますね。

金谷 私、ちょっと恥ずかしいんですが、王騎(おうき)と同じようなことをしたことがあるんです。王騎(おうき)が、信を馬に乗せて「これが将軍の見る景色です」と教えるシーンがあるじゃないですか。あれがすごく好きで。会社にとって大きな岐路に立たされて踏ん張り時だった際に、とあるホテルの36階のレストランに経営メンバーを呼び出し、「目指しているところは世界やから、まずは上場を目指そう」と宣言したんです。

山野久保田 物理的に高い所に上ったっていうこと?

金谷 そうです(笑)。高い所にあるいい店に。でも、思いが伝わってメンバーの目つきが変わり始めたんですよ。

山野 確かに、トップの視座とはこういうものなのだと伝えるのは大事ですね。戦国時代じゃないから王騎(おうき)のように馬に乗せることはできないけれど、リーダーはこういう視界で物事を捉えているという情報をコーチング的に伝えるようにしています。例えば、1on1などを通じて「なんであのときあの話をしたと思う?」と尋ねるなど、学習の場を意識的につくっています。

社員の個性を見たうえで成長を促すことを意識。時には距離を置いて一人ではい上がるのを待つ王騎将軍のような手法を取ることも
社員の個性を見たうえで成長を促すことを意識。時には距離を置いて一人ではい上がるのを待つ王騎将軍のような手法を取ることも
10巻106話
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厳しくも優しい王騎将軍が信を崖から落とす名場面
40巻433話
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呂不韋の下を去る昌平君。人は金では動かず、志に打たれて動くことを象徴する