湖池屋のロングセラーブランド「スコーン」は、2019年2月にパッケージ、フレーバーなどを一新する全面リニューアルを実施した。それに合わせて、同社はあの“伝説のCM”から実に30年ぶりという大規模なプロモーションを展開。背景には、スマホに絡む「若者のスナック離れ」があるという。

湖池屋スコーンの32年ぶりのリニューアル。スナック離れが進んでいる若者の心を捉えるためにパッケージからスコーンの生地などが一新された。「スコーン」のロゴも、親しまれてきた横書きのデザインからインパクトのある縦書きのデザインに
湖池屋スコーンの32年ぶりのリニューアル。スナック離れが進んでいる若者の心を捉えるためにパッケージからスコーンの生地などが一新された。「スコーン」のロゴも、親しまれてきた横書きのデザインからインパクトのある縦書きのデザインに

ポテチ好調も「その他のスナック」市場は縮小傾向

 今回のスコーンの全面リニューアルでは、商品自体の味や見た目をガラリと変えたのに加え、プロモーションにも力を入れているのが特徴。「プロモーションの規模は、湖池屋のスコーン史上最大。32年ぶりのフルリニュアールで、パッケージだけでなくスコーンの生地も新しくした。1988年に当時CMプランナーだった佐藤雅彦氏が作った伝説のCM、『スコーン♪ スコーン♪ コイケヤスコーン♪』が今でも有名だが、あれ以来の大型プロモーションで、まさに社運を懸けている」と、湖池屋でスコーンのブランドを担当するマーケティング本部マーケティング部第2課の内田圭亮課長は、その意気込みを語る。

湖池屋マーケティング本部マーケティング部第2課の内田圭亮課長(写真:酒井康治)
湖池屋マーケティング本部マーケティング部第2課の内田圭亮課長(写真:酒井康治)

 “スコーン史上最大”のプロモーションとのことだが、「詳細な数字は明かせないが、スコーンブランドにとって30年前のCM以来、数億円規模のプロモーションであることは間違いない」(同社マーケティング本部マーケティング部広報課の小幡和哉課長)とのこと。それでは、その“一風変わった”プロモーションに至った背景と、その中身について見ていこう。

 湖池屋はプロモーションを展開するに当たり、スコーンブランドサイト上に「私立スコーン学園」という架空の学園を作った。学園を盛り上げるタレントには、人気個性派芸人の野性爆弾・くっきーと、“イケメンすぎるハーフ美少年”としてインスタグラムで話題となっている翔さんを起用。2人をアイコンとして、「スコ音BEATMAKER」「抱きスコーン」というエンターテインメント性あふれる仕掛けを打ち出している。ちなみに“学園長”は湖池屋の佐藤章社長だ。

 一見しただけで、コストと手間をかけた施策だとうかがえる。久々の主力商品の大刷新とはいえ、同社がここまで力を入れている裏には何があるのだろうか。

テレビCMなどに出演するタレントには、野性爆弾のくっきーと、“イケメンすぎるハーフ美少年”としてInstagramで話題の翔さんを起用
テレビCMなどに出演するタレントには、野性爆弾のくっきーと、“イケメンすぎるハーフ美少年”としてInstagramで話題の翔さんを起用

 その最大の理由について、内田課長は「“その他のスナック市場”がシュリンクしてきたから」と言う。

 湖池屋が関係するスナック市場は大きく2つに分けられる。まずは『ポテトチップス市場』。これは文字通りポテトチップスの販売市場だ。そしてもう1つが『その他のスナック市場』である。これはコーン、小麦、豆など、ポテトチップス以外のスナック全般の市場を表している。

 「ポテトチップスは2017年の『ポテチショック』(気候不良で北海道のジャガイモが被害を受け、一時的にポテトチップスが店頭から消えた現象)を契機に、人気が好転している。一方、スコーンが含まれるその他のスナック市場はシュリンクしており、売り上げも落ちてきている。湖池屋の売り上げの割合は、ポテトチップスが7割でその他のスナックが3割と、前者に大きく頼っている状況。そこで現在ご愛顧いただいているスコーンを起点に、その他のスナック市場を活性化したかった」(内田課長)

スナックを食べると手が汚れる……

2018年11月29日に行われた「私立 スコーン学園入学説明会」に、在校生代表としてスピーチするくっきー。迷言を連発して会場を盛り上げた
2018年11月29日に行われた「私立 スコーン学園入学説明会」に、在校生代表としてスピーチするくっきー。迷言を連発して会場を盛り上げた

 縮んでいくその他スナック市場――そこで湖池屋は調査を始めた。浮き彫りになってきたのは、スマートフォンとの“密接な関係”だった。

 「スコーンはもともと30~40代に高い人気を誇っている製品。われわれが持っているデータでも、30代の喫食率は男女ともに1位で、40代も2位となっている。この世代の共通点は『スコーン♪ スコーン♪ コイケヤスコーン♪』のCMを見てスコーンを知り、学生時代から慣れ親しんでくれていること」と内田課長。

 CMを見ていない若い世代になると、スコーンのことを知らない人も多い。「以前高校生にスコーンに関するアンケート調査をしたところ、スコーンを食べたことがない、存在を知らない人がほとんどだった」(内田課長)。

 若者の認知度不足の理由は、スコーンのCMを見ていないだけではなかった。スナック市場全体に“ある問題”が浮上したからだ。それが「若者のスナック離れ」である。

湖池屋による「スナック購入頻度増減1年前比較」アンケート調査結果。若い世代になるほどスナック離れが顕著なことが分かる
湖池屋による「スナック購入頻度増減1年前比較」アンケート調査結果。若い世代になるほどスナック離れが顕著なことが分かる

 湖池屋の調査結果によると、10代の約34%は1年前と比べてスナックの購入頻度が「減った・やや減った」と回答。20代前半は約22%、20代後半は約16%と、若年層になるほどスナック購入頻度が減っていることが明らかになった。

 「調査を進めると、若者のスナック離れが加速する理由も見えてきた。1つはコンビニなどでのホットスナックの充実。スナックに代わるライバルの出現によって、スナック離れが進んでいる。もう1つの理由は、スマートフォンの普及。さまざまなデータを見ると、世の中にスマートフォンが出てきてからスナック離れが進んでいるようだった。理由は『スナックを食べると手が汚れるからスマホ操作で困る』。実際スナック菓子に対する不満を調査すると、64%が『手が汚れる』と回答していた」(内田課長)

 そこで今回の大規模なプロモーションは、若い世代にスコーンの魅力を知ってもらうことに目標を定めた。ターゲットは高校生~20代前半に設定。InstagramやTikTok、Twitterなどを活用する、いわゆるデジタルネイティブ層だ。この世代にスコーンを知ってもらうため、CM露出に加えてウェブサイトやSNSを活用したプロモーション戦略にも力を入れている。

湖池屋マーケティング本部マーケティング部広報課の小幡和哉課長(写真:酒井康治)
湖池屋マーケティング本部マーケティング部広報課の小幡和哉課長(写真:酒井康治)

 「『スコーン、スコーン、コイケヤスコーン』のCM以来、スコーンは特に大きな施策を打たず、ブランド力を中心に売り上げを引っ張ってきた。その効果は『30年持った』ともいえるが、今後30年持つかというと大きな疑問だ。新しい手を打たないと時代の波に淘汰(とうた)されてしまう。これからの時代にも愛されるスナックを作り、私たちから魅力を発信するため、今回の若い世代に向けたプロモーションがスタートした」(マーケティング部広報課の小幡課長)

プロモーションの鍵は「ASMR」と「オタク」

スコーンのそしゃく音を「スコ音(おん)」と命名。このダジャレにも湖池屋らしさがにじみ出ている
スコーンのそしゃく音を「スコ音(おん)」と命名。このダジャレにも湖池屋らしさがにじみ出ている

 リニューアルと同時期にスタートした若者向けのプロモーション「スコ音BEATMAKER」が、現在注目を集めつつある。湖池屋はスコーンをかじる際に鳴る音を「スコ音」と命名し、そのスコ音だけで音楽作りが楽しめるWebサービス「スコ音BEATMAKER」を開発した。画面上に表示されるタイミングに合わせ、スコーンをかじって楽しむ“音ゲー”の要素を持ちながら、オリジナル音楽を制作できるサンプラーとしても活用できる。

 「スコ音BEATMAKER」は、最近急速に浸透している「ASMR」に着目して開発されたサービスだ。ASMRとは「Autonomous Sensory Meridian Response(自律感覚絶頂反応)」の略で、いわゆる人間の聴覚や視覚に対する刺激によるゾクゾク感や心地良さのこと。YouTubeにはこの反応を促すささやき声や、本のページをめくる音だけの快感動画が流行している。湖池屋はなぜ、このASMRに注目したのか。

 「若い人に刺さるプロモーションを作るため、クリエイティブチームと議論をしていた際、18年2月頃にASMRを見つけた。当時はブームの火も着いていなかったが、はやる可能性があるとにらんだ。これから世に広まって、多くの人が楽しむサービスの波に乗ってプロモーションを打ち出せたら、世間に広まる力はかなり強くなるだろうと。スコ音BEATMAKERの製作段階で、ASMRが多くのメディアに取り上げられたことも運が良かった」と内田課長は振り返る。

 ASMRをプロモーションに活用したのには、別の理由もあった。

 「その一方で、スコーンならではのプロモーションをやりたいと思っていた。ポテトチップスと違い、スコーンはクランチタイプのお菓子。かんだときの食べ応えとザクっとした音が特徴だ。そのスコーンならではの音と、この先はやるであろうASMRという“2つの文脈”を掛け合わせて、プロモーション効果を最大化できないかなと考えた。ASMRに着目して、『ただブームに乗っただけでしょ?』と捉えられたくなかった。『スコーンだからASMRを活用したのね』と、納得できる流れを作りたかった。スコ音(すこおん)という湖池屋特有のダジャレも入れられたのも良かった。オチ感があるというか……」(内田課長)

Web上で利用できる「スコ音BEATMAKER」。楽器と掛け合わせることで、オリジナルの楽曲を作れるなど、本格的にやり込めるサービスだ
Web上で利用できる「スコ音BEATMAKER」。楽器と掛け合わせることで、オリジナルの楽曲を作れるなど、本格的にやり込めるサービスだ

 さらにスコ音BEATMAKERで作成したスコ音ビートは、バンドの楽器と合わせたり、ダンスのBGMにしたり、好きな音楽と組み合わせて自分だけのオリジナルの楽曲を作れる。かなり本格的に使い込めるのだ。

 「SNSやWeb上には新しいものに敏感で、いち早くやり込んでくれる人がいる。いわゆる“オタク”の人々。プロモーションの狙いの一つは、彼らに注目してもらうこと。『ASMRを活用した面白いサービスがある!』と捉えてもらい、彼らが広めてくれて、そこから一般的な層に広まればいいなと。面白いものを求めている人にとっても、スコ音BEATMAKERはクオリティーが高く、楽しく遊べるサービスに仕上がっている」(内田課長)

 湖池屋らしさと最新のASMRを組み合わせた、「スコ音BEATMAKER」。多くの企業が若者に向けたマーケティングに悩む中、老舗の湖池屋が放った施策は示唆に富んでいるといえる。次回、湖池屋のプロモーションについて、さらに深く探っていく。