どうしたら10代、20代の若者に自社や商品のことを知ってもらえるのか。苦労している企業は多いだろう。そんな中 ダンスとSNSを組み合わせた学生向けのプロモーションで、成功しているイベントがある。年に1度開催される「Japan Dancers’ Championship」(JDC)だ。

大学ダンスサークルの大会「Japan Dancers’ Championship」。2019年の冠スポンサーはTikTokが務めた
大学ダンスサークルの大会「Japan Dancers’ Championship」。2019年の冠スポンサーはTikTokが務めた
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 JDCはイベント企画などを手掛けるVintomが主催する大学ダンスサークルの全国大会。5回目となった2019年は、全国から30のサークル、約3000人の大学生が出場した。大阪と東京で予選を実施し、勝ち上がった12サークルが本選で優勝を争った。

 近年、このイベントの協賛に手を挙げる大手企業が相次いでいる。17年は伊勢半のコスメブランド「ヒロインメイク」、18年はレインズインターナショナルが展開する焼き肉レストランチェーン「牛角」、19年は中国バイトダンスが運営するショートムービーアプリ「TikTok」が冠スポンサーを務めた。

全国から約3000人の大学生が出場。勝ち上がったチームによる本選は2月14日にZepp DiverCityで行われた
全国から約3000人の大学生が出場。勝ち上がったチームによる本選は2月14日にZepp DiverCityで行われた
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学生の競争心が生み出すSNSの拡散力

 協賛企業の狙いは、SNSを通じて大学生に自社や自社の商品、サービスの認知を向上させること。大学ダンスサークルの全国大会という一見ニッチなイベントに目を付けた背景にあるのは、大学生の間でのダンス人気の上昇だ。中学校の体育でのダンスの必修化や、EXILE、E-girlsといったダンスパフォーマンスを売りにするアーティストの登場などで、若い世代にとってダンスはより身近になっている。「大学の文化祭などでもダンスサークルは人気。一般にはあまり知られていないが、大学生の間ではダンスの人気は非常に高い」と、Vintomの愛甲準社長は話す。

 実際、大学のダンスサークルに所属する学生の数は年々増えているという。JDCに出場するダンスサークルには、部員数が200人を超えるサークルも珍しくない。協賛企業は彼らのSNSでの拡散力に注目している。

 そもそも、「JDC」がある程度拡散力を持ったキーワードになりつつある。JDCに出場する大学生には、大会に向けた練習の様子などを「#JDC」「#ダンス」といったハッシュタグを付けてSNSに投稿する人が多い。

 そこで、JDCを主催するVintomは、2019年の大会に向けて「#ガチダンス選手権」というキャンペーンを実施した。出場サークルには、本番までの期間中、それぞれのTikTokアカウントで「#ガチダンス選手権」というハッシュタグをつけたダンス動画の投稿を促した。一方、視聴したユーザーには、動画が良かったと思うサークルへの投票を呼びかけ。獲得票数が多かったサークルから順に、大会予選でパフォーマンスを披露できる順番を選べる権利を与えるとした。

 加えて、投稿者の中から3人に最高15万円の賞金がもらえる賞も用意した。こうした取り組みが大学生の競争心をあおり、結果、TikTokに投稿されたダンス動画の数は5000件以上、累計再生回数は2億9000万回を突破した。

 なお、18年に牛角が協賛した大会では、牛角が大会に合わせて大学生向けの割引キャンペーンを実施。その結果、SNSには「#JDC」と共に「#牛角大学生割」というハッシュタグを付けた投稿が急増した。さらに、本番の会場には「牛角×JDC」のコラボブースも設置。その写真に「#牛角肉の日 #JDC2018」というハッシュタグをつけてSNSに投稿した人の中から29名に食事券を、最も拡散に成功したサークルに「牛角カルビ1年分」をプレゼントするという企画も開催。本番当日だけで1000件以上の投稿が集まったという。

 このように短期間に投稿が集中することは、企業やブランドの浸透に一定の効果があると愛甲社長は話す。「(大学生にとっては)1万人のフォロワーの1投稿よりも、100人のフォロワーの100投稿の方が価値が高い」(愛甲社長)。JDCに出場する大学生は前述の通り3000人以上。しかも、ダンスの練習期間は2~3カ月と長期にわたる。その間、JDCやスポンサーにまつわる投稿がタイムラインに繰り返し表示されることで、大学生にブランドの“すり込み”ができるからだ。

 大学生が親近感を持つブランドイメージを構築できるメリットもある。これには現状、ダンスがマイナースポーツということも関係している。「サークルに所属する大学生は、大手企業が自分たちが参加するイベントの協賛になってくれたことに感謝したり、ダンスや学生への理解があるという企業イメージを持ったりして、親近感が増す」(愛甲社長)というのだ。

 19年の大会でもその効果はあったようだ。出場した大学生によると「若者に人気と言われるTikTokだが、所属サークルには今回の企画までTikTokを利用したことがなかった人が多かった」とのこと。だが、JDCを機にTikTokアプリをインストールし、大会が終わった後もサークルとして動画を投稿し続けているという。JDCへの協賛が大学生とTikTokの距離を近づけたと言えそうだ。

大事なのは「やらされてる感」を与えないこと

 一方で、「大学生に対して押し付けはダメ」と愛甲氏は警告する。自社の商品やサービスに関するSNSの投稿や拡散を増やしたいと考える企業は多いが、上手にやらないと大学生に「やらされ感」や「利用されてる感」を与えてしまい、かえってマイナスイメージを持たれてしまう。「予期せずネガティブキャンペーンにつながってしまうこともある」(愛甲社長)。

 やらされ感を与えずにSNS投稿を促すため、Vintomが実行したのが、学生の“JDC優勝に対する熱意”を組み込むこと。前述の「#ガチダンス選手権」キャンペーンにおいて、TikTokへの投稿の獲得票数でパフォーマンス順を選べる仕組みを取り入れたのがその例だ。

 ダンスの大会では、審査員の感覚的な評価で優勝が決まるため、パフォーマンス順は結果を左右する重要事項だという。少しでも有利な順番を選べるのなら、大学生は動画の投稿やその拡散にも全力を注ぐ。「シェアすれば〇〇がもらえる」「シェアした人から抽選で〇人にプレゼント」といったよくある特典よりも、ずっと強力なモチベーションになるというのだ。

 また、その前提として、学生にとってのJDCの価値を高めることも重要。JDCで優勝したいと思う気持ちが、投稿への原動力になるからだ。それには「分かりやすい演出や特典が効果的」と愛甲社長は話す。

 19年の大会では、渋谷駅の地下通路に各ダンスサークルの代表者を撮影した大型広告を30メートルにわたって掲載した。これは、「こんな大型の広告を出せるほどすごい大会なんだ」と学生に認識させるため。「そこを通った一般の人にJDCに興味を持ってもらおうといった意図はみじんもない」と愛甲社長は言い切る。同様の目的で、過去には優勝サークルが日本武道館の舞台で踊れるという特典を用意したり、本番のステージでレーザー光線を使った派手な演出を取り入れたりしているという。 「すべては大学生の気分を上げるためです」(愛甲社長)。

渋谷駅の地下通路に掲出した大型の広告
渋谷駅の地下通路に掲出した大型の広告
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 若い世代をターゲットにした商品やサービスを扱う企業にとって、SNSで話題を集めることは今や欠かせない戦略だ。一方で、どうすれば投稿してくれるのか、拡散してくれるのかは共通の課題になっている。「こちらの思いを押し付けるのではなく、大学生をどれだけ喜ばせるかがポイント」と愛甲社長。若者の好きなもの、関心のあるものを理解し、応援する姿勢が学生の共感を呼ぶようだ。

Vintomの愛甲準社長
Vintomの愛甲準社長
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(写真提供/Vintom)