ペットボトル入りコーヒー「クラフトボス」が好調なサントリー。缶コーヒーを飲まない男性若年層と女性層の支持で、発売2年で2700万ケースを出荷する急成長を遂げた。押され気味の感ありの缶コーヒーのBOSSシリーズだが、同社はショート缶強化の姿勢を貫く。核となるのがウェブ限定CMだ。
「飛ばされない」ウェブCM作りを強化
「ショート缶」と呼ばれる缶コーヒーの人気は下降傾向にあるが、いまだに市場の6割を占めている。そのショート缶市場でBOSSはシェアトップだ。売り上げを支えるのはヘビーユーザー。同社の調査によると、週5本以上BOSSのショート缶を購入していると回答したユーザーが、全体の約26%もいた。そこで同社はヘビーユーザーを飽きさせない味作りを重視し、新商品の投入や自社商品専用のコーヒー豆焙煎(ばいせん)工場を立ち上げるなど、ショート缶を強化してきた。
一方、サントリー食品インターナショナル ジャパン事業本部ブランド開発事業部の柳井慎一郎事業部長は、この堅調ぶりを2019年2月25日に行われたBOSSシリーズの戦略発表会で「ショート缶の市場が1割ほど減った中で、キャンペーンやエリア活動に力を入れた結果」と話す。
同社はロゴ入りジャケット「ボスジャン」など、ショート缶ユーザー向けのプレゼント企画に長年取り組んできた。また、「働く人の相棒」をテーマにしたCMも新作が発表されるたびに話題になっている。そんな中、同社が近年強化しているのがウェブCMだ。
サントリーが独自に計算した「YouTube視聴率」という数字がある。これは同社のCMをYouTube上での30秒以上の視聴回数を表示回数で割って計算したもの。要するに、広告を飛ばさずに見た人がどれだけいるかということだ。これによると、プロ野球のバッティングピッチャーを起用したバージョン、テレビCMの長尺バージョンなどが30~40%も見られており、「かなり高い水準」(同氏)となっている。
いつ誰に見られているか分からないテレビCMよりも、ターゲティングできるウェブCMのほうが狙った層に届きやすい。さらにドキュメンタリー形式で実在の団体や人物を起用するやり方なら、有名タレントを採用したテレビCMよりも費用が抑えられるだろう。1本当たりの製作費を抑えた分、続々とコンテンツを投入すれば、ユーザーが見飽きることもなく、飛ばされず最後までCMを見てもらえる可能性が高まる。同社は今年もショート缶のウェブ限定CMを次々公開している。
「BOSSブランドが好き」という女性の存在
こうしたキャンペーンや広告を強化する過程で、サントリーがもう1つ気付いたことがある。「缶コーヒーは好きではないが、BOSSというブランドが好き」という女性層の存在だ。「BOSSを実際に飲んではいないが、CMやキャンペーンなどのコミュニケーションが好きという声が寄せられている。その人たちに向けた商品が必要」(柳井事業部長)。そこで同社が投入するのが、BOSSシリーズ初の“紅茶”だ。
新商品の「クラフトボスTEA ノンシュガー」は無糖の紅茶で、紅茶特有の香りを残しながらも渋みを最小限に抑えている。すっきりした味わいで「食事との相性もいい」(サントリー)。だが、なぜよりによって“コーヒーブランド”から紅茶なのか。コーヒーの印象が強すぎて、逆に消費者から敬遠される恐れはないのだろうか。
サントリーのペットボトル入りコーヒー「クラフトボス」は、リキャップできる容器でいつでも好きなときに好きな場所で飲める「ちびだら飲み」を提唱し、若年男性層と女性層の支持を集めてきた。いわゆる「ショート缶に興味がない」層を取り込んだ形だ。また、これまでコーヒー以外の飲料、つまり茶や水、ジュースなどを飲んでいた層からの流入も多かった。
さらに同社が調査したところ、仕事中の飲料として無糖茶を選んでいる人が増えていることが分かった。そこでBOSSブランドの知名度とクラフトボスの売りである「すっきり感」のイメージ戦略で、無糖茶支持層を奪いにいこうと考えたわけだ。
クラフトボスTEA は19年3月19日に発売する予定。今後はテレビCMやキャンペーンの展開など、積極的なプロモーションを図っていく。