「くら寿司」が仕掛ける新メニューはハンバーガー。現在抱える421店舗は、数字の上ではハンバーガーチェーンの国内第4位に相当する。この店舗網と寿司以外のサイドメニューの充実で、ファミリー層を中心により広い客層を取り込もうともくろむ。魚の風味の効いた味も、既存チェーンとは一味違う。
2019年2月25日、東京・渋谷センター街に突如新しいハンバーガー店がオープンした。メニューは、「フィッシュ」と「ミート」(税込み各270円)のハンバーガー2種と、お米で作った炭酸飲料「シャリコーラ」だけ。
実はこの店、あの回転寿司チェーンの「無添くら寿司」を運営するくらコーポレーションが始めたハンバーガー専門店で、その名も渋谷「KURA BURGER」。19年3月3日までの期間限定で、3月1日から全国のくら寿司で発売する新しいメニュー「KURA BURGER」を知ってもらうためのアンテナショップという位置付けだ。
ラーメン、カレー、コーヒーなど、同社はこれまでも専門店の味に負けない、寿司店らしからぬサイドメニューをヒットさせてきた。その結果、サイドメニューの立ち位置も、寿司に加えて楽しむ脇役から、サイドメニューを目当てに来店する人もいる主役級のメニューへと変化してきたという。
「そして(次の)新たなサイドメニューとして、ファストフードの王様に挑戦します」――2月25日の新商品発表会で、くらコーポレーション副社長の田中信氏はそう宣言した。
回転寿司チェーン初というハンバーガーの発売に踏み切ったのはなぜか。1つはハンバーガー業界の伸びしろに対する期待がある。同社の推計によると、回転寿司の主要各社を合わせた市場規模は5262億円。一方、洋風ファストフード主要各社の合計は8157億円と、約1.5倍の開きがある。サイドメニューにハンバーガーを加えれば、売り上げの上積みが期待できるというわけだ。
14年から同社が進めている「天然魚プロジェクト」も、「5年を掛けた」(同氏)というハンバーガーの開発を後押しした。このプロジェクトでは、取れた国産魚を一船まるごと買い付けて即時輸送することで、新鮮な寿司ネタを1皿100円で提供するというリーズナブルな価格を実現してきた。
一方、課題もあった。一船買いをした場合、寿司ネタとして使える部位は全体のわずか40%とロスも多い。そこで2018年からは、「さかな100%プロジェクト」と銘打って、一船買いした国産天然魚のすべてを活用しようという取り組みを始めた。
さかな100%プロジェクトでは、寿司ネタとして使いにくいサイズや部位などを「ねり天」や「コロッケ」の材料として活用する試みを行ってきた。しかし、それでも使い切れない部分が出てしまう。今回発売されたハンバーガー(フィッシュ)のパテは、その使い切れない部分を有効活用する目的も大きい。
「さまざまな魚種を使うので、ミンチにしたときに味がブレないよう安定した味を出すためのスパイスの調合や、肉質がブレないための低温での作業工程の確立などにも苦労しました」と、同社製造本部商品開発部の松島由剛マネージャーは開発に費やした5年の歳月をそう語る。
ターゲットは「20~50代のファミリー層」(田中副社長)。無添加の国産天然魚で安心安全をうたい、シニア層にも食べやすいハンバーガーをアピールするという。ポテトと一緒にテークアウトするなどすれば、消費税引き上げ後も400円以内というリーズナブルな価格のランチとして楽しめそうだ。
わさびとガリを加え、寿司屋ならではアレンジで
新商品発表会で、ゲストの千鳥・ノブさんが「香川照之さんの最終回の演技みたい(に一番濃くてパンチがある)」と食レポした「フィッシュ」を、味見してみた。
具材となっているのは、フィッシュバーガーでよくある白身魚のフライではなく、ミンチにした国産天然魚をグリルし、バンズに挟む直前に油で揚げたというパテ。肉のハンバーガーに似た食感だが、かみしめるとスパイスや、テリヤキソースに引き立てられた魚肉の味わいがしっかり口の中に広がる。
ふんわりした合いひき肉のパテを使った「ミート」ともども、トッピングはサクサクした玉ねぎの天ぷらを使い、バンズも米粉と黒酢を使いもちもちした「シャリバンズ」と、寿司店らしい和の演出も。どちらも店内に置かれているわさびやガリを加えることで、新食感の“味変”を楽しむこともできる。
ただし、完食した後は寿司が食べられなくなるほどのボリューム。メイン商品である寿司の売り上げへの懸念より、グループで食事をする店に迷ったとき、「寿司でもハンバーガーでも、みんなが食べたいメニューが何でもある店を目指していく」と経営戦略本部 広報宣伝部 中山圭マネージャー。
目標販売数は1カ月100万食。店舗数だけなら“いきなり業界第4位”の大手ハンバーガーチェーンに匹敵するだけに、ただの新商品と片付けられない「KURA BURGER」の動向に注目したい。
(写真/酒井康治)