2019年2月25日に開催された携帯電話の総合見本市イベント「MWC 2019」に合わせて、スマートフォン大手各社が相次いで新機種を発表している。ディスプレーを折り畳めるなど、停滞感を打ち破る新機軸の機種が続々発表された。これらがスマートフォンのあり方を大きく変える存在となり得るのか。

 今年も、スペイン・バルセロナで携帯電話業界の世界最大の見本市イベント「MWC 2019」が実施された。毎年このイベントに合わせる形で、スマートフォン大手各社が相次いで新機種を発表しているのだが、今年の発表内容を見ると、ここ数年来の停滞感を打ち破る、変化に富んだ端末が多く登場した年だったといえるだろう。

画面を折り畳めるスマートフォンが注目

 その傾向を象徴しているのが、本体を2つに折り曲げることができる、折り畳みスタイルのスマートフォンが急増したことだ。日本でも過去にNTTドコモが「MEDIAS W」「M」と、2つの折り畳みスマートフォンを投入しているが、これらはいずれも2枚のディスプレーを組み合わせるスタイルのため、開いたときにディスプレーとディスプレーの間に継ぎ目が発生してしまっていた。

 今回発表されたのは、いずれも曲げられる特性を持つ有機ELをディスプレー素材に採用することで、1枚のディスプレーを直接折り曲げるスタイル。それが従来にない革新的なスマートフォンであるとして、大きな注目を集めているわけだ。

 その1つが、サムスン電子が19年2月20日(米国時間)に発表した「Galaxy Fold」である。これは外側に4.6インチ、内側に7.3インチのディスプレーを搭載しており、折り畳んだ状態では外側のディスプレーで操作し、本体を開くと内側の大画面ディスプレーが現れて大画面での操作が可能になる仕組みだ。

サムスン電子の「Galaxy Fold」。外側に4.6インチ、内側に7.3インチのディスプレーを搭載し、開くと大画面で利用できる仕組みだ
サムスン電子の「Galaxy Fold」。外側に4.6インチ、内側に7.3インチのディスプレーを搭載し、開くと大画面で利用できる仕組みだ

 またファーウェイ・テクノロジーズも、折り畳みスマートフォン「HUAWEI Mate X」を発表している。こちらはGalaxy Foldとは逆に、外側に8インチのディスプレーを備え、常にディスプレーが前面に来る仕組みだ。折り畳んだ状態では6.6インチと6.38インチの両面ディスプレーを備えたスマートフォンとして利用可能で、一方の側面にはカメラを備えていることから、撮影者と被撮影者が同時にプレビューを見ながら撮影できるなどの特徴を備えている。

ファーウェイ・テクノロジーズの「HUAWEI Mate X」。外側にある8インチディスプレーを折り曲げるスタイルで、畳んだ状態では6.38インチのスマートフォンとして使える
ファーウェイ・テクノロジーズの「HUAWEI Mate X」。外側にある8インチディスプレーを折り曲げるスタイルで、畳んだ状態では6.38インチのスマートフォンとして使える

5Gの本格展開に合わせ対応スマートフォンも発表

 折り畳みスマートフォンと同様、新技術の導入によって注目を集めているのが、次世代通信規格の「5G」を搭載したスマートフォンだ。日本では20年から商用サービスが予定されているが、既に米国が18年から商用サービスを開始している。19年は中国や韓国など、いくつかの国で商用サービス開始が予定されていることから、「5G元年」ともいわれている。

 そうした5Gサービスの開始に合わせる形で、スマートフォン大手各社が相次いで5Gのネットワークに対応したスマートフォンを発表している。先に触れたHUAWEI Mate Xも5G対応のスマートフォンと位置付けられている他、サムスン電子が「Galaxy S10 5G」、LGエレクトロニクスが「LG V50 ThinQ」といった5G対応スマートフォンを相次いで発表した。

LGエレクトロニクスの5G対応スマートフォン「LG V50 ThinQ」。専用のディスプレー付きケースを装着することで、2画面スマートフォンとしても使えるなどの特徴を備える
LGエレクトロニクスの5G対応スマートフォン「LG V50 ThinQ」。専用のディスプレー付きケースを装着することで、2画面スマートフォンとしても使えるなどの特徴を備える

 5Gは理論値で下り最大20Gbpsの高速大容量通信を実現するのに加え、ネットワーク遅延が小さく、1つの基地局に多数の機器を接続できるといった特徴を持つ。だが今回発表された5G対応スマートフォンのアピールポイントとなっていたのは、やはり動画やゲームなどが快適に楽しめる高速大容量通信のようで、既存のスマートフォンの5G対応版といった印象を受けるものが多い。

 だが中には、5Gの可能性を追求する機能を取り入れた意欲的な機種もいくつか見ることができた。例えばGalaxy S10 5Gには、前面と背面に写真や動画を撮影するカメラだけでなく、3D深度センサーも搭載されている。このセンサーを用いることで被写体との距離を測りやすくなり、本格的なAR(仮想現実)コンテンツを実現しやすくなっているのだ。

サムスン電子の5G対応スマートフォン「Galaxy S10 5G」。前面と背面に、カメラと共に3D深度センサーを搭載、本格的なARコンテンツを提供しやすくしている
サムスン電子の5G対応スマートフォン「Galaxy S10 5G」。前面と背面に、カメラと共に3D深度センサーを搭載、本格的なARコンテンツを提供しやすくしている

 ARや仮想現実(VR)を取り入れたコンテンツは、従来の動画やゲームなどのコンテンツと比べてデータ通信容量が大きくなりやすい。それだけに、大容量通信に強い5Gにこうした機能を乗せることで、新しいコンテンツ開発に結び付けようとしているわけだ。

現時点では技術先行、求められる利用スタイルの提案

 これら新技術を取り入れたスマートフォンからは、今後、スマートフォンの利用スタイルが大きく変わる可能性も見えてくる。特に折り畳みスマートフォンと高速通信5Gの普及は、必然的に大画面化とコンテンツのリッチ化を推し進める要因となるだろう。そうしたデバイスが広まることで、スマートフォン上で提供されるコンテンツやサービスのあり方が大きく変わる可能性も秘めているとは感じる。

 だが実際に各社の発表内容を見ると、現時点ではあくまで技術力を示すことが優先されているようで、現状のスマートフォンやタブレットで提供されるサービスを便利にすること以上の提案ができていないというのが気になる。例えば折り畳みスマートフォンは、いずれも開いた状態では正方形に近いディスプレイ比率となるため、その形状を生かせるのは現状、地図サービスやWebサイトの閲覧など、ディスプレイ比率に依存しないアプリやサービスに限定されてしまう。

 一方で、最も大画面が生きるはずの映像コンテンツは、画面比率が横長や縦長のものが多いため、折り畳みスマートフォンのポテンシャルを生かしにくいという弱点も持ち合わせている。映像を楽しむという視点にこだわるならば、ソニーモバイルコミュニケーションズの「Xperia 1」のように、ディスプレイをあえて映画と同じ21:9という比率に合わせるという提案もあっただけに、利活用の提案という意味ではまだこなれていない印象を受けてしまったのは事実である。

ソニーモバイルコミュニケーションズが19年2月25日に発表した「Xperia 1」。21:9比率の4K有機ELディスプレーを世界初搭載し、映像を視聴することに強くこだわっている
ソニーモバイルコミュニケーションズが19年2月25日に発表した「Xperia 1」。21:9比率の4K有機ELディスプレーを世界初搭載し、映像を視聴することに強くこだわっている

 かつてのiPhoneもそうであったように、テクノロジーのインパクトだけで販売を伸ばし続けるのは難しい。テクノロジーを生かすサービスやコンテンツをいかにそろえられるかが、新しい概念を持つスマートフォンの普及には大きく影響してくるだろう。一方でサービスやコンテンツを手掛ける側としては、そうしたデバイスを生かした提案ができることが、新たなビジネスチャンスを生み出すことにつながるともいえそうだ。

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