化粧品業界で、“美容テック”とも呼べるイノベーションが起きている。IoTやデータを活用したパーソナライズ市場が生まれつつあるのだ。そんななか、「スマートミラー」の開発が各社で始まっている。スマートミラーとは何か、ターゲットやビジネスモデルは? その可能性を探る。

カメラ内蔵の大型ミラー「スノービューティーミラー」(パナソニック)。顔に合わせたメークをAR(拡張現実)で表示し、メークアップの参考にできる
カメラ内蔵の大型ミラー「スノービューティーミラー」(パナソニック)。顔に合わせたメークをAR(拡張現実)で表示し、メークアップの参考にできる

「スマートミラー」は何ができる?

 スマートミラーはセンサーやカメラで撮影された画像による肌解析を基に、適切なメークやスキンケアを提案する鏡(ミラー)だ。これまでは米国などのヘルスケアの現場で全身ミラーの投影画像による診察やリハビリなどに使われてきたが、それを美容に応用したものが海外で出てきている。

 これまで消費者はメークやスキンケアを自分の好みで行っていたが、スマートミラーはセンサーで取得したデータを基にメークやスキンケアの方法を指南する。ミラーの前に座るとカメラで顔を撮影し、肌表面のキメやしみ・シワだけでなく、肌内部の状態も読み取る、といった具合だ。国内では資生堂が販売促進目的で店舗に「デジタルカウンセリングミラー」を設置。肌解析の結果などの情報が鏡に表示され、カウンセリングのデータを自宅でも確認できる。

 パナソニックもBtoB向けの「スノービューティーミラー」を開発中。提携先企業に合わせた機能カスタムが可能で、化粧品カウンターでの設置や住宅展示場などでスマート家電の一部として洗面台に設置することなどが考えられるという。幅500mm×高さ700mmとはミラーはかなり大きい印象だが、「ミラーのサイズは自由に変更できる。ニーズに合わせた機能や性能を優先し考えている」(同社)そうだ。

パナソニックはデータを生かしたソリューションも視野

 パナソニックが画期的なのは、肌解析とそれによるアドバイスだけでなく、そのデータを生かした新たなソリューションの提供も視野に入れている点だ。同社はミラーの肌解析で得た情報を基に肌の悩みを解決する「メイクアップシート」も開発している(共に発売時期は未定)。

 メイクアップシートは、手術などで実際に使われる人工皮膚と同等の素材を用いた“セカンドスキン”のようなもので、メークや肌の悩みを隠すために肌に直接貼り付ける。このシートは同社のプリンティング技術を生かしており、ゆくゆくは美容成分を配合したスキンケアとメークの二層構造も実現したいという。パナソニック イノベーション戦略室 戦略企画部 Mプロジェクト リーダーの川口さち子氏は、「スマートミラーには独自のソリューション提供が欠かせない。今後は体重・心理・頭皮などによるヘルスケアナビゲーションも検討していきたい」と話す。

スノービューティーミラーは顔のしみを検出し、そのデータを基に目立つ箇所をきれいに隠すメイクアップシートが印刷される
スノービューティーミラーは顔のしみを検出し、そのデータを基に目立つ箇所をきれいに隠すメイクアップシートが印刷される

家庭用では声優を起用したものも

XYZプリンティングジャパンの「HiMirror Mini (ハイミラー ミニ)」(税別2万円前後)
XYZプリンティングジャパンの「HiMirror Mini (ハイミラー ミニ)」(税別2万円前後)

 さらにこれが家庭用になれば、店舗でしか受けられなかった肌解析が自宅でできるようになる。その人に合ったケア方法を家庭でアドバイスしてくれるのは画期的だ。海外では「HiMirror(ハイミラー)」(台湾XYZプリンティング社製)が既に一般消費者向けに商品化しており、美意識の高い女性が肌解析データを得るために使っているという。国内ではベンチャー企業のNovera(ノベラ)が化粧品大手のポーラと共同開発したスマートミラーを2019年内に発売予定(価格は税別6万9800円)。ノベラのミラーは肌解析機能やケア提案などだけでなく、声優を起用したコミュニケーション機能が特徴だ。「発売初日で200台以上を販売し、主に20代半ばから30代の女性に人気。プロの声優による声で美容をサポートしていく。美容のプロのノウハウを学習した独自開発のAIによって肌解析を行い、将来的にはニキビができる確率を出すなどの肌状態予測も視野に入れている」(ノベラ)という。

スマートミラー「novera(ノベラ)」(税別6万9800円)は2019年内に発売予定
スマートミラー「novera(ノベラ)」(税別6万9800円)は2019年内に発売予定

 ただ家庭用で高額な美容機器となると、それに見合った価値をどう作るかが鍵になる。さまざまな機能を持つスマートスピーカーが日本では一部の機能しか利用されていないように、スマートミラーも肌解析と美容アドバイスだけでは、幅広い層に継続的に使ってもらうのは難しいと予想される。パナソニックのメイクアップシートのような独自のソリューションが必要だろう。

 そのヒントになりそうなのが、美容業界でパーソナライズを切り口にした「カスタムメードコスメ」だ。年代や肌タイプといったおおまかなくくりではなく、刻々と変化する日々の肌状態や気分などに合わせ、数種類のラインアップの中から自分で美容液を選んで組み合わせるといったものだ。その代表例がディオールの「カプチュール ユース」で、化粧品大国であるフランスを中心に近年多く出てきている。革新的な手法ではないが、タイムリーに選べることが受けている。一方、ポーラやファンケルのように、カウンセリングや肌解析によってカスタマイズした美容液などを提供するケースもある。

 これらのカスタムメードコスメは上級者向けだが、スマートミラーを活用することでよりパーソナライズ化が進んでいくだろう。顧客データを蓄積することで製品開発やマーケティングなどに役立てることも可能だ。スマートミラーにより、精度の高い肌解析に基づいたカスタムメードコスメが提供できるようになるかもしれない。

国内化粧品ブランドのパーソナライズコスメのポジショニングマップ
国内化粧品ブランドのパーソナライズコスメのポジショニングマップ
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