ネットを通じて買い物をすることが当たり前になっているミレニアル世代以降の台頭で、リアル店舗の役割が大きく変わり始めた。リアル店舗にはネットショップでは経験できない「特別な体験」を求めている。こうした「UX世代」のニーズに応えるため、小売業界の急速なテーマパーク化が進んでいる。

2024年に、パリ郊外でオープン予定の「ヨーロッパシティー」のホテル
2024年に、パリ郊外でオープン予定の「ヨーロッパシティー」のホテル

 フランスで毎年開催される小売業向け展示会「MAPIC」では、まさにこの「UX世代」をいかに取り込んでいくのかがここ数年のテーマとなっている。例えば2018年末に開催された同会場では、そのさまざまな試みが世界中のデベロッパー各社から示されていた。その解決策は、世界の著名建築家とタッグを組んでその地域のランドマークとなるような強いイメージと風景を生み出す建築を造ること。そしてデジタル技術も駆使しながら「そこでしかできない体験」を創造することだ。

 24年、フランスのシャルル・ド・ゴール空港からほど近い場所に、総工費31億ユーロ、年間3000万人の来場者を見込む一大商業施設「ヨーロッパシティー」が完成する。このセンターがターゲットにするのがまさにUX世代だという。建築のマスタープランを作ったのはデンマークの建築家、ビャルケ・インゲルス氏。スキー場と一体となったスウェーデンのゴミ処理工場の設計や、幹線道路に浮遊させようという太陽光発電可能な巨大球体オブジェの建築プランなどを手掛け、多目的な施設を融合した革新的な建築を得意とする。

 3つ星から5つ星までの4つのホテルは、高台からパリの市街の町並みを見渡せ、ホテルと施設内にあるレストランは、施設内の農園で栽培された野菜を使う。遊園地や、スイミングから船による遊覧までを楽しめるウオーターパーク、映画館の地下には自前の映像コンテンツ制作スタジオを併設。このスタジオは、施設内の屋外シアターをはじめとした施設内で展開を予定しているプロジェクションマッピングや、科学館や美術館などの文化施設向けのコンテンツ制作、最新の映像技術を活用したスペクタクルなサーカスやライブの演出を「内製化」する目的も込められている。

 ショッピングセンターに入る各店舗とは、例えばバッグメーカーならバッグ作り体験など、ブランドの特徴を生かした「ワークショップ」を共同で企画するなど、買い物という行為そのものも娯楽化するような仕掛けを用意するという。食からコンテンツまでを「地産地消」し、この場だけでしか体験できないことを生み出そうとする試みだ。

 フランス・リヨンの郊外に18年5月、オープンしたアウトレットモール「ザ・ビレッジ」もまた、その土地のランドマークとなりそうな建物を軸に顧客を吸引して話題になっている施設。オープンからわずか10日で50万人を集客したことで話題を呼んだ。真っ白な切妻屋根の小屋が密集してつながる独特の建築は、イタリアの建築家、ジャンニ・ラナウロ氏が手掛けた。植木は熊やキリンなど、動物の形に丁寧に刈り込まれ、そこで写真を撮るインスタグラマーが後を絶たない。アウトレットの中心に配置されているのは、人工の湖。ここでは毎晩、噴水とプロジェクションマッピングを組み合わせた独自のショーが繰り広げられる。

 ザ・ビレッジを運営するのは、カンパニー・ド・ファルスブルグ。今後数年で、パリに10のショッピングセンタープロジェクトを一気に立ち上げる。藤本壮介氏や隈研吾氏、ステファノ・ボエリ氏などの著名建築家と共に、強くデザイン性を打ち出したプロジェクトを次々に立ち上げ、18年末のMAPICで最も印象的なアウトレットモールとして表彰を受けた。

 今やショッピングセンターには、その土地のランドマークを造れるようなデザイナーや建築家の力が欠かせなくなってきている。魅力的な建物や空間を造り、さらにそこにどんなコンテンツを載せていくのか。デザインの総合力が問われる時代となってきた。

フランス・リヨンの郊外に18年5月、オープンしたアウトレットモール「ザ・ビレッジ」
フランス・リヨンの郊外に18年5月、オープンしたアウトレットモール「ザ・ビレッジ」
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