「Maison & Objet(メゾン・エ・オブジェ)」は年に2回、1月と9月にパリで開催される、インテリアや雑貨のトレードフェア。世界各国から企業や自治体が出展し、日本からも多くの団体がブースを構えた。その中でも、ブランディングに積極的な日本の自治体のブースが目立った。
「Maison & Objet(メゾン・エ・オブジェ)」は2018年9月に大きく編成を変え、インテリアや建築材料などを扱う「メゾン」と、雑貨などが集まる「オブジェ」の2つのブースに分かれた。19年19年1月18~22日に開催されたフェアで、日本の自治体と中国のデザイナーに注目した。
和歌山県の紀州漆器のブランド「KISHU+」は、今年で出展2年目。TAKT PROJECTのディレクションにより「食器ではない漆器の使い方」として、漆器の照明器具を発表した。TAKT PROJECT代表の吉泉聡氏は「実は紀州漆器は量産品が多く、プラスチックを初めて取り入れた産地でもある。『伝統工芸』という、どこかステレオタイプな価値観を崩し、現代的なデザインとして捉え直したい。そこで『先端工芸』をコンセプトに据え、新しい技術をポジティブに取り入れることにした」と話す。18年は花瓶なども出展していたが、照明器具に注目が集まったため、19年は照明に絞って3作品を提案した。受注も好調に入ったという。
必要とされるデザイン提案
また、京都府や岐阜県、和歌山県など、自治体の出展も目立った。各地方の伝統工芸品や名産品をベースに、デザイナーとコラボレーションしたものが多かった。それらの中で遠目からも目を引いたのは、和歌山県のブースだ。ディレクションを担当したのは、デザイナーの上島弘祥氏。「膨大な数のブースがあるので、明快なアイデンティティーを印象付けるアイキャッチが必要だと考えた。そのため、熊野古道や那智の滝、高野山の朝霧など、和歌山の上質な自然と人間の技との融合をイメージしたインスタレーションを中央に配置した。その周りに商品をレイアウトしたのは、通路を歩きながらでも見て手に取れるように、という狙いがある」と、戦略的な設計について話す。
日本を含め、アジア地域からの出展ブースには、伝統工芸を前面に出したものが多い。しかし、欧州との取引を狙う場合は、まずは現代の世の中に求められている文脈を知ることが重要だろう。上記の2つのブースでは受注につながる例も多かったとのことだが、特に「日本らしさ」を前面に押し出していたわけではない。どのように欧州の家庭やホテルなどのインテリアになじむか。膨大な出展者がいる会場で、どのように目を引き付けるかなどが、重要なポイントだろう。
変わる中国のデザイン
メゾン・エ・オブジェには、各アワードの受賞者向けのブースもある。例えば、メゾン・エ・オブジェ自体が主催する「The Rising Talent Awards」は、毎年、1つ国を決めて、その国の若手のデザイナーを表彰し、受賞者に個人の展示ブースを与える。英国、イタリア、レバノンと続いて、今年は中国だった。6人の受賞者のうち、マリオ・ツァイ氏は、アルミ素材を中心としたソリッドな印象の照明器具やサイドテーブルなどを提案。「近年、中国のデザインは大きく変わろうとしている。多くの若手デザイナーたちが海外で学んだ経験を持ち、過去の中国のデザインに懐疑的である。人々にとっては、それが中国のデザインだろうと、欧米のデザインだろうと、関係ない。我々は伝統を押し出し過ぎるのではなく、現代のデザインに取り組む世代だ」(ツァイ氏)と話してくれた。
また、今年のDesigner of The Yearを受賞したドイツのセバスチャン・ヘルクナー氏もブースを展開。ヘルクナー氏のデザインプロセスと共に、代表作が展示された。