伊勢丹新宿店で、店頭で客の足型を測定し、靴の一部を3Dプリンターで造形するサービスが始まった。システムを開発したのは、デンマークの靴メーカー、ECCO(エコー)。測定から造形まで1時間で完了し、その場で手渡しできる。ネット通販などに押される百貨店にとり、集客の起爆剤になると期待される。
三越伊勢丹は、伊勢丹新宿店メンズ館で、3Dプリンターを活用した靴のカスタマイズサービス「QUANT-U(クアントゥー)カスタマイゼーション・プロジェクト」(以下、QUANT-U)を2019年2月20日に開始した。
地下1階の紳士靴売り場の一角に専用スペースを設けて、3Dプリンターや測定器などを設置し、19年3月26日までの期間限定でサービスを提供する。
QUANT-Uは、デンマークの靴メーカー、ECCO(エコー)によるサービスで、同社が測定・製造システムを開発した。靴の中敷きの下に入れるミッドソールを3Dプリンターによって造形する。
QUANT-Uでは、まず、ユーザーが3D足型測定器で足の形状をスキャンし、データ化する。次に、ユーザーはセンサーを搭載した靴を履いて、専用のトレッドミル(ランニングマシン)の上で歩く。これによって、歩行するユーザーの足の傾きや左右のバランス、負荷などのデータをリアルタイムに解析。これらのデータをクラウド上に送信し、AI(人工知能)によって、ユーザーにとって最適なミッドソールの3次元データを生成する。最後に3次元データを3Dプリンターに送り、ミッドソールを造形する。
3D足型測定は約15秒、歩行データの解析は約45秒とそれほど時間はかからない。測定から造形完了まで約1時間で終わるという。造形が終われば、後処理などは必要なく、そのまま靴と一緒にユーザーに手渡せる。価格は、靴が2万6000円、ミッドソールが2万5000円、計測費用が2万5000円の合計7万6000円(税別)。計測データは保管されるので、次回購入時には計測費用は不要になる。靴は、13種類の中から選択できる。
ECCOは、18年4月にオランダのアムステルダムにあるECCOコンセプトストアでQUANT-Uを公開し、注目を集めた。これまでは試験的に運用してきたが、商用サービスは伊勢丹が世界初となる。
国内主要都市への展開を目指す
百貨店は、インターネット通販や大型ショッピングモールなどに客を奪われ、苦戦を強いられている。日本百貨店協会によると、全国の百貨店売上高は、20年前には9兆円超だったが、16年以降は6兆円を割り込んでいる。ほぼ3分の2に縮小した計算だ。百貨店が生き残るには、店に客の足を運ばせる施策が欠かせない。
三越伊勢丹は、QUANT-Uを集客の起爆剤としてアピールする考えだ。同社紳士靴バイヤーの福田隆史氏は、「お客さまの来店を促すと同時に、深い関係を構築する方法として、一人ひとりに適した商品を提供できるパーソナライズサービスを強化している。QUANT-Uは、3Dプリンターで造形している様子を店頭で見せられるなどエンターテインメントの要素があり、これまでにない体験価値を提供できる」と語る。今回のQUANT-Uの売り場面積は約20平方メートル。これは同店で通常の期間限定売り場を設ける場合の4倍に相当するという。同社の期待の大きさがうかがえる。19年8月には、伊勢丹新宿店本館の婦人靴売り場に、集客の目玉としてQUANT-Uの売り場を常設することを計画している。
ECCOは、19年3月28日から4月23日まで松坂屋名古屋店でもQUANT-Uの売り場を開く。同サービスのニーズを検証しつつ改良を加え、導入店舗を拡大する考えだ。ECCOの日本法人、エコー・ジャパンの犬塚景子社長は、「技術改良によって、機器を小型化すればもっと小さなスペースでも出店できるようになる。造形時間ももっと短縮できるはず。今後、国内主要都市に1カ所ずつ展開していきたい」と語る。
(写真提供/エコー・ジャパン)