みずほ銀行は、QRコードを使ったスマートフォン向け決済サービス「J-Coin Pay」の提供を、2019年3月1日から開始する。「オープンな銀行系デジタル通貨のプラットフォーム」と位置付けて他の金融機関にも開放。三井住友信託銀行や全国の地方銀行など、約60の金融機関の参加が決まっている。

みずほフィナンシャルグループ執行役社長の坂井辰文氏(写真左)自らが会見に出席する意気込みを見せた
みずほフィナンシャルグループ執行役社長の坂井辰文氏(写真左)自らが会見に出席する意気込みを見せた
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 J-Coin Payは、銀行に預金口座を持つユーザーが、預金残高から必要な額を専用アプリにチャージして、店頭での決済や個人間の送金に使う形式を採る。参加するみずほ以外の各行については、3月25日から順次、J-Coin Payを提供し始める予定だ。

 メガバンク3行が提携して19年度中のサービス開始を目指して協議している「Bank Pay」(仮称)とは、別のサービスとして提供する。Bank Payは既存のデビットカードの決済インフラを利用するが、J-Coin Payは、中国などで利用されているQRコード決済に特化した決済インフラの仕組みを参考に、比較的低い投資額で、決済インフラを新たに構築して提供する。

 既に「LINE Pay」や「楽天ペイ」「d払い」「PayPay」など大手IT系のサービスが先行し、後発での参入になるが、みずほフィナンシャルグループの坂井辰文執行役社長は、「勝機は十分にあると思っている」と強調する。先行する各サービスとどこが異なるのか──。

クレジットカードより決済手数料を低く

 まず、J-Coin Payが利用できる小売店や飲食店は、J-Coin Payに参加する金融機関が自らの営業エリアの取引先を中心に開拓する。そのための武器は3つ。「長年の取引で培われた金融機関への信頼」(坂井社長)と、小売店や飲食店が支払う決済手数料を、3~5%程度とされるクレジットカードより低くし、1~2%程度に抑えること、それに海外の決済サービスとの提携で、増加傾向にあるインバウンド(訪日観光客)が母国で利用している決済手段を使って支払いできることだ。

 海外の決済サービスとの提携第1弾は、中国の中国銀聯が運営する「銀聯(ユニオンペイ)」と、アリババ集団傘下のアント・フィナンシャルサービスグループが運営する「支付宝(アリペイ)」で、「今後も増やしていく考え」(みずほフィナンシャルグループのデジタルイノベーション担当役員である山田大介専務執行役員)だ。

多くの小売店、飲食店などが導入を検討している
多くの小売店、飲食店などが導入を検討している
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 既にファミリーマートやビックカメラ、ヤマダ電機、大創産業(ダイソー)、すかいらーくホールディングス、ロイヤルホールディングスといった大手小売店や外食店が、J-Coin Payの導入を検討しているという。

先行各社と同じく、キャンペーンは展開予定

 J-Coin Payを普及させるには、加盟店の開拓と同時に、ユーザーにアプリをダウンロードしてもらい、利用してもらう必要がある。PayPayなど先行各社が展開する還元キャンペーンは、「あまり派手にならない規模で展開する予定」(山田氏)。だが、みずほ銀行が想定している普及のための最大の武器はキャンペーンではない。それは、銀行系ならではのサービス「送金手数料無料、口座からの出し入れ無料」だ。

 例えば、飲み会で割り勘をするときや、親が子に急な送金をするときなど、J-Coin Pay同士であれば手数料無料で送金できる。銀行口座からアプリにチャージするときはもちろん、アプリ内のJ-Coinの残高を銀行口座に戻して現金化する際も、手数料は無料だ。例えば、LINE Payなどはアプリ内の残高を銀行口座に戻す際に手数料が発生する。特に多様なキャッシュレス決済手段を併用する利用者にとっては、ハブとなる銀行口座に自由に出し入れできることのメリットは大きく、使い勝手は格段によい。

経費精算にもJ-Coin Payを提案

 送金手数料無料、口座からの出し入れ無料を武器に、「職域を使ったユーザー開拓」(山田氏)も進める。例えば、企業に対して、J-Coin Payを使って従業員が立て替えている経費精算サービスなどを提案する。従業員が持つJ-Coinアプリに対して企業が清算する経費を送金すれば、送金手数料は無料で済むため、企業にとって経費削減になる。そうして企業が自社従業員にJ-Coin Payアプリを持たせれば、それだけ普及が進むという計算だ。19年夏頃には、この経費精算サービスの提供を始める予定だ。

 さらに、個人の利用だけにとどまらず、法人間の送金需要の取り込みも目指す。LINE Pay(東京・新宿)など、利用者同士が送金できる登録制の送金業者(資金移動業者)が扱える送金額には、現在、1回100万円以下という規制があり、高額送金が当たり前の法人間の送金需要を取り込むのは難しい。しかし、J-Coin Payはみずほ銀行が自らプラットフォームを運営するため、送金可能額に制限はない。現在、高額送金業務を認可制で異業種にも開放する検討が政府内部で進んでいるが、実現するのは早くても21年半ばの見込み。それまでに、J-Coin Payで法人間の送金需要を取り込み、市場シェアを確保しようというわけだ。

 銀行にとっては、企業が従業員の口座に振り込む手数料や法人間の送金手数料を失うことにつながるが、「自行内で食い合いを恐れていたのでは、誰かが先にサービスを提供して銀行のビジネスを奪うだけ。ならば先に展開してビジネス拡大につなげる必要がある」と山田氏は言う。

 J-Coin Payのプラットフォームを利用する現在の金融機関の口座保有者を合計すると約5600万人。まずはこのユーザーを対象に、アプリの利用を進め、数年以内に30万店以上の加盟店と650万人以上のユーザー獲得を目指す。そのうえで、近い将来、ユーザーの決済データなどを蓄積・分析し、ユーザーの好みや行動に合わせた広告やクーポンを配信するといったデータ活用ビジネスを展開して、新たな収益に結びつけていく考えだ。

信金、信組の取り込みが1つのカギに

 もっとも、メルカリの「メルペイ」など新規参入が続き、激化が続くキャッシュレス決済の陣取り合戦にJ-Coin Payが勝利を収めるためには、課題がないわけではない。

 まずは加盟店の開拓について。全国の地銀を巻き込み、地場の中小小売店を開拓して普及を進めるという触れ込みだが、実際には、地銀ではなく信用金庫や信用組合のほうが、地域の中小小売店に深く食い込んでいる。きめ細かい加盟店の開拓には、多数の信用金庫や信用組合にプラットフォームに参加してもらう必要がある。信用金庫のまとめ役である信金中央金庫は、先行する1社、Origami(東京・港)と提携済みであり、このあたりをどうするか。

 もう1つは、ユーザーにJ-Coin Payを利用してもらうための施策だ。送金手数料無料、口座出し入れ無料はユーザーにとって確かに大きなメリットだが、それだけでは店頭で積極的に決済する動機にはなりにくい。先行各社が進めるような大規模キャンペーンか、それに代わる手立てを編み出す必要がありそうだ。

(写真/志田彩香)