保育園や児童相談所をつくる話が持ち上がると、地元で反対運動が起き、そのニュースがネットをざわつかせている。保育園の建設反対派としてテレビなどで映し出されるのは中高年男性が多い印象があるが、やはり反対の中心層は中高年男性で育児に理解がないからなのか? データを読み解いてみる。
保育園建設反対派は中高年男性のイメージだが…
「保育園落ちた日本死ね!」。2016年2月中旬、「はてな匿名ダイアリー」に投稿されたブログが一躍脚光を浴びた。女性の活躍推進を国がうたう一方で保育所の入園選考にもれた母親のやり場のない怒りが、同じ境遇にいる保護者からの共感を呼んだ。民進党の山尾志桜里議員(当時)がこのブログを取り上げ待機児童問題について安倍首相に質した。そして「匿名では本当かどうか分からない」という首相の回答に業を煮やした親たち数十人が、「保育園落ちたの私だ」という紙を掲げて国会前に集結し、抗議行動へと発展した。
一方、東京・杉並区をはじめ、保育園の建設計画が地域住民の反対で暗礁に乗り上げている。テレビのワイドショーが現地で住民の声を聞こうとマイクを向けると、「静かな暮らしをしたかったのに」「奥さん連中も集まってうるさくなる」などという声が上がる。声の主はたいてい、中高年の男性だ。地域住民への説明集会でも、反対意見を陳述するのはやはりこの層である。
傍から見ると、子育て世代と中高年の頑固おやじたちの対決構図に映る。が、本当にそうなのか?
電車内のベビーカーに厳しいのも女性
「保育園児の声を『騒音』と思うことに35%の人が同感である」──。15年9月に報じられた厚生労働省の委託調査の結果が、波紋を広げたことがあった。これは人口減少社会に対する意識調査として同年3月、厚労省が民間の調査会社に委託して、全国の15~79歳まで3000人を対象にアンケートを実施したものだ。
アンケートでは、「住宅地に立地する保育所について『子どもの声が騒音』であるという声があり、近隣住民からの苦情や立地反対、訴訟に発展するケースも生じていますが、このような考え方についてどう思いますか」という設問を立て、「全く同感できない」「あまり同感できない」「ある程度同感できる」「とても同感できる」の四択式で選ばせている。その結果、「ある程度同感できる」あるいは「とても同感できる」を選んだ人が35.1%、すなわち回答者3000人のうち不寛容派が1000人を超えたのだ。
この結果に、ネット上は荒れた。特に目についたのは、「子育てが関係なくなった中高年のわがまま」「団塊のジジイが日本を滅ぼす」など、子育てに理解のない層として中高年男性を仮想敵に設定した罵詈(ばり)雑言だった。
「犯人捜し本能」に気を付けよう
果たしてその矛先は正しいのだろうか。厚労省のサイトには、調査結果の詳細がアップされている(上図)。性別・年代別に見ると、「子どもの声は騒音」に同感する不寛容派が一番多いのは、40代女性で実に49.9%に上っている。一方、最も理解があるのは60~70代男性で、「全く同感できない」と「あまり同感できない」を合わせた寛容派が78.2%を占めている。
アンケートは選択式で、そう考えた具体的な理由までは分からない。想像するに、男性よりは女性の方が保育園の開園時間帯に在宅している人が多く、声や音が聞こえてくる生活をよりリアルにイメージしやすい分、ネガティブな反応が出てしまうのかもしれない。また40代は保育園世代の子育ては過ぎている人が多いため、自分の子育て中にすぐ隣近所にあったら便利だったであろう保育園が今さらできることを想像して、複雑な思いを抱いたかもしれない。そこらへんの想像力は、同世代男性よりも働きやすいと思われる。
同様にイメージと実態がずれる内容として、駅や電車で迷惑だと思う行為のランキングがある(上図)。日本民営鉄道協会が実施した14年度の調査では、「混雑した車内へのベビーカーを伴った乗車」が男性は8位(16.5%)だったのに対し、女性は3位(30.2%)だった。「女の敵は女」などと冷やかしたいのではない。ベビーカー乗車の多くがママ(女性)であることから、自分の経験、流儀、一家言あることに対して、人は見る目が厳しくなりがちということだろう。
ちなみに翌15年度の調査から、ベビーカーは選択肢から外れた。「ヘッドホンからの音もれ」や「ゴミ・空き缶等の放置」と並んでベビーカーを伴った乗車が選択肢にあること自体がおかしいと言えばおかしかった。懸命な判断だろう。
好評を博している書籍『ファクトフルネス』(日経BP社刊)で著者のハンス・ロスリング氏は、物事がうまくいかないときに誰かを見せしめとばかりに責めることを「犯人捜し本能」として戒め、「犯人ではなく、原因を探そう」と提唱している。誰かを責めると、絡み合った複数の原因やシステムに目が向かなくなるためだ。
保育園建設反対派とそれを糾弾する両者の対立も、この「犯人捜し本能」が当てはまる。これは拙著『だから数字にダマされる 「若者の○○離れ」「昔はよかった」の9割はウソ』の第2章「イメージでレッテルを貼るのはやめよう」p.70~74から抜粋した。
次回は、「150万人減少」といった大きな数字一つだけで結論を導いてしまうことの問題点を、若者の海外旅行者数を例に解説したい。