アマゾン・ドット・コムの「AWS」、マイクロソフトの「アジュール」に次ぐ、世界市場シェア3位のクラウドサービス「アリババクラウド」(米調査会社ガートナー調べ)を武器に、中国のアリババグループが、日本のクラウドサービス市場の開拓に向けて攻勢を強めている。

アリババクラウドは日本でカンファレンスを開催し、日本市場開拓の意欲を示した
アリババクラウドは日本でカンファレンスを開催し、日本市場開拓の意欲を示した

 アリババグループのクラウドコンピューティング事業部門であるアリババクラウドは、2019年1月29日、日本で2カ所目となるデータセンター(DC)を東京に開設した。25G(ギガヘルツ)という広帯域に対応したネットワークインフラなど最新技術を実装したDCの新設で、「アリババクラウド」が日本で扱えるデータ総量は従来の2倍以上になる。

アリババクラウドジャパンのユニーク・ソング カントリーマネージャー
アリババクラウドジャパンのユニーク・ソング カントリーマネージャー

 アリババクラウドは、「クラウド上に預かった顧客企業のデータは原則、当該国のDCで蓄積・管理し、顧客企業の了解がない限り、他国のDCには出さない」(アリババクラウドジャパンのユニーク・ソング カントリーマネージャー)方針。DC増設による日本で取り扱い可能なデータ総量の増加は、日本市場の本格的な開拓に向けての意気込みを示すものと言える。

 併せて、アリババクラウド独自の20~30人からなる営業部隊を、2019年の早い時期に日本に設ける。16年12月のサービス提供開始からこれまでは、アリババグループとソフトバンクの共同出資会社であるSBクラウド(東京・港)を中心に、三井物産やNEC、伊藤忠テクノソリューションズ(CTC)といったパートナー企業が、中国で「アリババクラウド」を既に利用している日本企業を主な対象に、日本市場でパブリッククラウドサービス「アリババクラウド」を販売してきた。今回のDC増設を契機に、今後はパートナー企業による営業に加えて、アリババクラウド自らも直販に力を入れ、中国で既に利用しているかどうかにかかわらず、幅広い業種の日本企業に「アリババクラウド」を売り込み、日本市場でのさらなる普及を目指す。

1秒当たり26万5000回の処理を楽々こなす

 競合するクラウドサービスと比較した際の「アリババクラウド」の強みはどこにあるのか──。

アリババグループの各種サービスを、アリババクラウドが技術的に支えている
アリババグループの各種サービスを、アリババクラウドが技術的に支えている

 まず、「アリババクラウド」上で顧客企業に提供される、中国で300以上、日本でも50以上のサービスメニュー(ソリューション)は、中国最大のBtoC向けECサイト「天猫(Tモール)」や「新小売(ニューリテール)」と総称されるリアルな小売り事業、それにスマートフォン決済アプリ「支付宝(アリペイ)」といったアリババグループの多くの事業部門で既に利用されており、安定稼働の実績がある。「アリババクラウド」の顧客企業は、「新しいサービスメニューを利用し始めた途端に不具合発生といった事態を懸念することなく、自社の事業に適したサービスメニューを選び、安心して利用できる」(ソング氏)というわけだ。

 また、大規模・高速なトランザクション処理に優れているのも、強みの1つだ。毎年11月11日(「独身の日」)に、Tモールなどアリババ傘下のECサイトで実施される巨大セールは、アリババクラウドの技術が下支えしている。例えば、2018年の独身の日は、1日の総売上高が楽天の年間取扱高に匹敵する3兆5000億円に、そしてピーク時の決済処理数が1秒当たり25万6000回にも及んだが、処理の遅れや誤りなどは発生しなかった。

 実際、このトランザクション処理に象徴される高い技術力と、既に19の国・地域に30以上のDCを設置してビジネスを展開しているグローバル性を評価され、アリババクラウドは、「クラウドサービス並びにECプラットフォームサービス」のカテゴリーで、五輪のトップスポンサーに選定された。18年の平昌冬季五輪から28年のロサンゼルス夏季五輪まで10年にわたって、五輪の公式クラウドサービスはアリババクラウドが担うことになっているのだ。

2018年9月、アリババ本社のある中国・杭州で、OBSはアリババクラウドとの提携を発表した
2018年9月、アリババ本社のある中国・杭州で、OBSはアリババクラウドとの提携を発表した

 五輪とパラリンピックの全試合と表彰式の放送を総括するオリンピック放送機構(OBS)と提携し、クラウドを活用した柔軟な動画配信サービスを構築することは、既に決まっている。加えて、街中に張り巡らしたカメラを通じてクルマの通行状況をリアルタイムで把握し、AI(人工知能)によって変化を予測して信号などを制御することで渋滞や事故を減らすシステムの採用を、開催都市に働きかけたりもしていく考えだ。「アリババクラウド」を日本で利用する顧客企業は、「こうした高い技術力に支えられたサービスを、コストパフォーマンス良く活用できる」(ソング氏)わけだ。

 さらにソング氏は、「日本と中国の間のデータトランザクションについては、競合他社に比べて優位がある。中国でのビジネスを拡大している日本企業や、中国を含むグローバル市場で活躍する日本企業にとっては、『アリババクラウド』はコストパフォーマンスが良いパブリッククラウドサービスとして選択肢の1つに入ると思っている」と自信を見せる。

約20の認証取得などコンプライアンス対策にも注力

 日本市場への攻勢を強めるアリババクラウドだが、米国をはじめ欧州や日本で、中国を代表する企業の1つである華為技術(ファーウェイ・テクノロジーズ)が事実上、排除されつつあるような“米中衝突”の影響が、同社にも及ぶ可能性はある。中国を代表する企業であるという事実そのものが、日本企業に「アリババクラウド」の採用をためらわせるかもしれないのだ。

 もっとも、ソング氏はこのような懸念に対して、楽観的な姿勢を崩さない。コンプライアンスに関して、かなり気を使っているからだ。「アリババクラウド」は「ISOシリーズ」をはじめ、中国だけでなく米国やドイツ、シンガポールといった主要国で、国ごと、産業ごとに安全性の証明として求められる各種の認証を、約20も取得済み。顧客企業が求めるコンプライアンスへの対応も、各国現地の法律にのっとるのが基本方針だ。米トランプ政権がファーウェイに対して疑念を示す、「顧客の意に反してデータを中国などに持ち出す」などの行為を実行するのは、事実上難しい。ソング氏は「こうした事実を説明すれば、多くの顧客はアリババクラウドの安全性について理解してくれる」と言う。

 今後は、製造業などグローバルで見て日本企業が優位を保つ分野で業界ごとにパートナー企業を募り、「当該企業の持つ各種のノウハウを軸に共同でサービスを開発し、そのサービスを、日本はもちろんグローバルに横展開していく」(ソング氏)ことを目指す考えだ。併せて、パブリッククラウドサービスにとどまらず、「開始時期は未定だが、日本市場でプライベートクラウドサービスも展開していく」という。

 アリババクラウドのもくろみが成功し、日本での収益を今以上に伸ばせるかどうか──。どのようなサービスメニューを担ぎ、どの業種を開拓しにかかるかという、新設する直販営業部隊の動きが、その試金石となりそうだ。

(写真/新関雅士)

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