東京急行電鉄と東日本旅客鉄道(JR東日本)、ジェイアール東日本企画が、「伊豆MaaS」の実証実験を2019年4月1日から始める。新たに導入する専用MaaSアプリは、日本初上陸となる独ダイムラー子会社のmoovel(ムーベル)が担う。また、割安なデジタルフリーパス、下田で運行を始めるAI(人工知能)オンデマンド乗り合い交通など、その全貌が明らかになった。

実証実験に合わせて導入される専用アプリ「Izuko(イズコ)」。ダイムラー傘下でモビリティサービスを展開するmoovelのプラットフォームを活用
実証実験に合わせて導入される専用アプリ「Izuko(イズコ)」。ダイムラー傘下でモビリティサービスを展開するmoovelのプラットフォームを活用

 実証実験に参加する交通事業者は、東急とJR東日本の他、伊豆急行鉄道・伊豆急東海タクシー(東急グループ)、伊豆箱根鉄道・伊豆箱根バス(西武グループ)、東海自動車(小田急グループ)といった地元の有力プレーヤーが勢ぞろい。下田のヒフミタクシー、栄協タクシーを加えて、9社が名を連ねる。展開エリアは、西伊豆を除いた広範囲に及び、第1弾の実証実験はJRの「静岡ディスティネーションキャンペーン」に合わせて4月1日~6月30日に実施。第2弾は9月1日~11月30日の期間で行う計画だ関連記事「【特報】東急電鉄もMaaS参戦! 19年春に実証実験スタート」)。

伊豆MaaSのサービスイメージ。観光支援で楽天も参加する
伊豆MaaSのサービスイメージ。観光支援で楽天も参加する

 今回の目玉の1つが、専用のMaaSアプリである「Izuko」。「powerd by moovel」として、マルチモーダルな統合プラットフォームを世界展開しているmoovelのシステムを日本で初めて導入している。今回の会見に合わせて来日したmoovelアジアパシフィック担当のChristoph Stadler(クリストフ・スタドラー)氏は、「相手先ブランド(ホワイトレーベル)によるMaaSアプリの展開は、世界で9つ目。日本でもIzukoの取り組みをきっかけに、マルチモーダルなMaaSアプリを実現するバックボーンとして、公共交通や自治体などを支援していきたい」と話す(クリストフ氏の一問一答は、3ページ目に掲載)。

 一方、東京急行電鉄の事業開発室プロジェクト推進部、森田創課長は「18年5月に実証実験の企画が持ち上がり、僅か8カ月で発表にこぎつけた。MaaSに必要な機能やノウハウがそろっているmoovelと、ひとまず組むことで早期実現が可能になった」と説明する。Izukoはmoovelのプラットフォームを軸に、複数の事業者のサービスを繋ぐことでコストを抑えながら短期間で開発した。

 注目のIzukoでできることは、検索→予約→決済という流れで、大きく3つある。まず、ルート検索については、経路検索ソフト「駅すぱあと」を展開するヴァル研究所のシステムとAPI連携。現在地から目的地を入力すると、所要時間が短いルートや料金が安いルートなど、複数のルートが提案される。伊豆エリア以外からのルート表示も可能で、対象エリアでは伊豆急(伊東―伊豆急下田)、伊豆箱根鉄道の駿豆線(三島―修善寺)、および伊豆箱根バス、東海バスとの乗り継ぎルートを提示する。

Izukoの主な機能一覧
Izukoの主な機能一覧
Izukoの画面イメージ。デジタルフリーパス(左)と、経路検索結果画面(右)(画像は開発中のもの)
Izukoの画面イメージ。デジタルフリーパス(左)と、経路検索結果画面(右)(画像は開発中のもの)

アプリ利用2万件、パス購入1万人を目標

 続いて、予約については下田エリアで展開されるAIオンデマンド乗り合い交通に対応。Izukoアプリ上でタブを切り替えて配車予約することが可能で、こちらは国内で多くの実証実験を手掛けている未来シェア(北海道函館市)のシステムと連携している。その他、アプリからの外部リンクだが、レンタルサイクル(伊豆ぽた、ソフトバンク系のハローサイクリング)と、レンタカー(JR東日本レンタリース)の予約も可能だ。

 決済についてはクレジットカードに対応し、2日間有効のデジタルフリーパスが2種類用意されている。「Izuko イースト」(3700円)は、伊豆急全線と伊東市内、下田駅周辺の路線バスが乗り放題になるチケット。もう1つの「Izuko ワイド」(4300円)は、伊豆箱根鉄道の駿豆線全線、修善寺駅、下田駅周辺の路線バス乗り放題に加え、東海バス(修善寺―河津)、伊豆急線(河津―下田―伊東)が、一方向のルートのみ乗り降り自由になる。

伊豆MaaSの展開エリア。「Izuko イースト」(3700円)と「Izuko ワイド」(4300円)の2種類のデジタルフリーパスを販売する
伊豆MaaSの展開エリア。「Izuko イースト」(3700円)と「Izuko ワイド」(4300円)の2種類のデジタルフリーパスを販売する

 例えば、伊豆急の伊東―下田間だけで往復3240円かかるので、今回のデジタルフリーパスは割安な設定といえる。アプリ上でチケットを購入した後は、各交通機関に乗る際にアプリ画面を見せるだけ。有効期間中はアプリ画面の下側にある鉄道のアニメーションが動く仕組みになっており、駅員などはそれを確認するという。

 また、Izukoアプリでは小室山リフトや下田海中水族館といった対象エリアにある観光施設の入場券が事前購入できるのも大きなポイント。どれも最安値で、もちろん、こちらも入場時にアプリ画面を見せるだけだ。さらに、対象の観光施設でデジタルフリーパスを提示すると割引を受けられるサービスも提供する。単なる経路検索アプリではなく、移動の先にある「目的」もMaaSアプリに取り込むことで、地域観光の推進につなげる狙いだ。

 先述したように、今回の実証実験では、新たな交通サービスとしてAIを活用したオンデマンド乗り合い交通も導入される。伊豆急下田駅の南側2㎞程度のエリアを対象に、8~9人乗りのジャンボタクシーが平日1台、休日2台稼働。20~30カ所のバーチャル停留所が設定されており、ユーザーがIzukoアプリで乗車場所、降車場所を選ぶと、近くにいる車両をリアルタイムでマッチングし、最適な走行ルートをAIで決定する仕組みだ。運行は伊豆東海タクシー、ヒフミタクシー、栄協タクシーの3社が務める。

 この乗り合い交通の対象エリアには、病院や銀行、スーパーなど日常使いの施設の他、幕末に下田の芸子として人気を博した唐人お吉ゆかりの料亭「安直楼」、ペリー艦隊来航記念碑といった観光スポットが点在している。しかし、旧市街地のため道幅が狭く、地元の人にとっても観光客にとっても、交通至便とはいえない状況だった。ここに「タクシー以上、バス未満」のフレキシブルに移動できる乗り合い交通を導入することで、街の回遊性を高め、活性化を図る狙いだ。

 AIを活用した乗り合いタクシーは第1弾の実証実験(4月1日~)では無料で提供し、第2弾(9月1日~)では対象エリアを拡大し、有料で運行する計画という。「Izukoアプリを通して大量輸送を担う鉄道やバスと連携し、ラストマイルをきめ細かく面でカバーする2次交通サービスとして定着させたい。それが、地域交通を持続可能なものにし、街のにぎわいを生み出す原動力になる」(東急の森田氏)と話す。

 今後Izukoアプリでは、第2弾の実証実験に合わせてホテルや旅館の予約連携を行い、Izuko専用の割安な宿泊セットプランなども打ち出す構え。対象エリアに西伊豆も加える計画だという。東急とJR東日本は、合計6カ月にわたる実証期間中、Izukoアプリのダウンロード数で2万、デジタルフリーパスの利用者数は1万人と、意欲的な目標を掲げる。「観光型MaaS」の壮大な実験を通して、地域の課題解決につながることを期待したい。

moovel担当者に直撃インタビュー

Interview moovelアジアパシフィック担当に聞いた!

 改めて、ダイムラーのなかでのmoovelの位置付けを教えてください

クリストフ・スタドラー氏(以下、スタドラー氏) 我々は、複数の交通サービスの検索、予約、決済ができる自社のMaaSアプリ「moovel」や、相手先ブランドによるホワイトレーベルのMaaSアプリを世界で展開しており、それを可能にするプラットフォームに強みを持つソフトウエア企業です。例えば、15年からサービスを展開しているドイツのシュツットガルトでは、ドイツ鉄道や地下鉄、バスといった公共交通に加え、ダイムラーのカーシェア「car2go」や、タクシー配車サービス「mytaxi」などをmoovelアプリから直接予約できるようにしています。

 よく誤解されるのですが、我々はダイムラーのカーシェアなどを普及させるために活動しているわけではなく、中立的なプラットフォームです。むしろ常に公共交通や自治体に寄り添うのが基本で、マルチモーダルなソリューションを実現したい交通事業者を下支えするのがミッションです。

 18年末時点で、moovelが関わるサービスのユーザーは世界で620万人に達しており、18年の決済トランザクションは2770万回に上ります。そのうちユーザーの大多数が、moovelアプリなどを通じて公共交通を利用しています。

 今回、日本市場に初参入しました。欧米の公共交通は官主体なのに対し、日本は民間主導で状況が大きく異なります。やりにくさはなかったですか?

スタドラー氏 まず、今回、東急とJR東日本という日本を代表する交通プレーヤーと実証実験でご一緒できることに感謝しています。もちろん国や地域によってサービスの在り方、考え方の違いはありますが、今回プロジェクトを進めるに当たって特別なハードルは感じませんでした。ドイツも公共交通のオープンデータ化がすごく進んでいるわけではありませんし、そもそもテクノロジーは文化や言語を超えられるものです。個々のマーケットの事情に合わせる作業は、難しいというより良いチャレンジだと受け止めています。

 他のホワイトレーベルのMaaSアプリと異なり、Izukoでは日本ならではの機能が盛り込まれていますか?

スタドラー氏 既にデジタルフリーパスを導入しているケースは多いのですが、Izukoのように観光施設の入場券をデジタル化したり、観光スポットの情報連携を組み込んだりするのは初めて。MaaSによって移動のシームレス化をし、さらにその先の「目的」となるアクティビティまでつなげていくのは、日本の観光MaaSならではの取り組みです。

 最後に、今後の日本での展開予定は?

スタドラー氏 確定したことは何もありません。ですが、日本の鉄道やバス、タクシー会社はもちろん、自治体などともディスカッションを重ねていきたいと考えています。

moovelのクリストフ・スタドラー氏
moovelのクリストフ・スタドラー氏