空いた駐車スペースが莫大な利益を生む?

30年初頭に10兆ドルという市場予測のうち、日本が占める割合はどの程度ですか?

キーニー氏 約3分の1に当たる3兆ドル超(約326兆円超)を占める最大市場は中国でしょう。米国は30年までに7000億ドル超(約76兆円超)と予想しています。日本はそれよりだいぶ少なく、中国の約10分の1程度でしょう。我々は、自動運転システムの向上には運転データの蓄積が重要な要素であることから、地域の特定プレーヤーが独占的な立場を握ると考えています。日本においては、トヨタ自動車がそれに当たる可能性があるでしょうか。

米国市場では、どんな企業が独占的になると考えていますか?

キーニー氏 ウェイモは自動運転タクシーサービスを開始するなど、テクノロジーの観点では先行しています。しかし、テスラはデータの観点から競争力があると考えています。なぜなら、テスラは車両の製造・販売をしているため、テストベースの車両から情報収集を行っている他社と異なり、顧客からデータを直接収集できています。本格的な自動運転サービスの開始は他社より遅れるかもしれませんが、これまで蓄積したデータを機械学習し、有効なアルゴリズムを見つけることができれば、他社を凌駕することができるのではないかと思います。

 現時点では自動運転サービスが普及していないため、ウーバーやリフトが配車サービスのメインプレーヤーとして君臨しています。しかし、自動運転が実用段階に入ると、その分野のテクノロジーで先行するウェイモやテスラが優位に立つと分析しています。

自動運転タクシーが普及すると、個人の生活はどう変わるのでしょうか?

キーニー氏 消費者メリットはどんどん大きくなると思います。先ほど述べたように、アーク社の推測では、米国においては自動運転タクシーを利用すると、マイカーを保有するより半分の支出で済むようになります。移動にかかる支出が減った分、他の分野での支出が増えたり、運転から解放されて浮いた時間を他のことに使えたりといったメリットがあります。

 例えば、自動運転タクシーに乗っている間に動画配信サービスの「Netflix」を視聴するなど、通信サービスのプロバイダーにとっても収入が増えることになるでしょう。また、自動運転タクシーのサービス形態としては、ハイブリッド型のビジネスオーナーシップモデルも考えられる。自動運転車両を所有する個人が自動運転サービス会社のネットワークに接続し、自分が使用していないときに車両を貸し出すスキームです。現状でクルマは1日平均で僅か1時間(4%)しか使われていないわけですから、残りの23時間で自動運転車両を資産として運用でき、購入に投じた多額の資金を回収できるようになれば良いですよね。

鉄道やバスといった既存の交通機関への影響はどうでしょうか?

キーニー氏 将来的に自動運転タクシーは、既存の鉄道やバスなどの公共交通と競争できるくらい安くなると思います。ただし、大量輸送が可能なバスや路面電車などの役割がなくなることはなく、むしろ中長距離の移動スピードの面で勝る公共交通は競争力を保つでしょう。駅から容易に移動できる新たなラストマイルの輸送手段として自動運転タクシーが普及することは、相対的に既存の大量輸送の交通機関の優位性を高めるはずです。

 また、自動運転タクシーの社会的なベネフィットとしては、普及によって交通事故率が80%削減され、健康や安全に対する改善が期待できると考えています。自動運転タクシーで救える命の数は、乳がんを撲滅するくらいの効果があるでしょう。

輸送手段別のマイル当たり価格
輸送手段別のマイル当たり価格
出典:アーク・インベストメント・マネジメント(ARK Investment Management)

自動運転タクシーの普及で、米国では30年に2億5000万台分の駐車場スペースが解放されるという予想も、リポートには盛り込まれています。

キーニー氏 その通りです。将来、駐車スペースという機能は必要なくなるかもしれません。しかし、例えば自治体が保有する駐車場を新たな収益を生むビジネスにも使うことも考えられます。米国では活用されていない駐車場がすでにあり、その土地をオフィスや商業施設に転用して収益化を図るビジネスが検討されています。また、個人の住宅保有者がガレージを改築して快適な寝室を作ったり、庭のスペースを拡張したり、さまざまな経済効果が考えられます。

 先ほど申し上げた通り、自動運転タクシーの普及は、自動車販売の面ではアゲインストな風であるため、恐ろしい経済ニュースのように聞こえるかもしれません。しかし、実態は異なるでしょう。我々は自動運転タクシーが35年までにGDP(国内総生産)を米国だけで2兆ドル(約218兆円)も押し上げると予想しています。

自動運転タクシーの導入に伴う米国GDP予想
自動運転タクシーの導入に伴う米国GDP予想
出典:アーク・インベストメント・マネジメント(ARK Investment Management)  http://www.eia.gov/outlooks/aeo/section_economic.cfm

 現在はマイカーを所有する個人が運転しても、運転という「労働」に対して対価は発生していません。それに対して、自動運転タクシーが実現した世界では、1マイル当たりの移動について対価が発生していくわけですから、GDPも押し上げる効果があると思います。加えて、移動時間が自由な時間に変わることによって車内エンターテインメントなどの追加サービスが生まれ、余った駐車スペースの再活用なども含めると、その経済インパクトは大きなものになるのです。これは米国に限らず、世界のトレンドでしょう。

(写真/高山透)