移動サービス革命「MaaS(モビリティ・アズ・ア・サービス)」をめぐる動きに新展開。2019年1月28日、JR東日本と小田急電鉄が、鉄道会社間の垣根を越えてMaaS分野での連携に向け、具体的な検討に入ることを発表した。国内の事業者ごとに乱立する気配だったMaaSプラットフォームに1つの強力な軸が生まれ、シームレスな連携が進みそうだ。

JR東日本と小田急はMaaSの推進に向けて協力関係を築く。他の鉄道会社などにも門戸を開き、“仲間づくり”を進める(写真:Shutterstock)
JR東日本と小田急はMaaSの推進に向けて協力関係を築く。他の鉄道会社などにも門戸を開き、“仲間づくり”を進める(写真:Shutterstock)

 「日本版MaaS」の実現に向けた具体的な一歩となる衝撃的な動きだ。今回の東日本旅客鉄道(JR東日本)と小田急電鉄の連携には、ユーザー視点でMaaSプラットフォームの協調領域を見出す狙いがあり、検索、予約、決済など、両社の交通手段をシームレスにつなぐサービスの創出を目指す。このような包括的な取り組みが大手鉄道会社の2社間で始まるのは日本で初めて。これまで個々の事業者でMaaSの検討が進み、ともすれば各社の囲い込み戦略によってMaaSプラットフォームが“乱立”する気配だった。しかし、JR東日本と小田急は「他の鉄道会社などとの連携も進めたい」としており、両社の取り組みを軸に集約が進み、より良い形で日本でのMaaS実現の動きが加速する。

MaaS時代の“障壁”をユーザー視点に立って見直す

 MaaSをめぐって両社は18年、それぞれ中長期での取り組みを表明し、実証実験に踏み込んだきた。小田急は18年4月、中期経営計画において「次世代モビリティを活用したネットワークの構築」を掲げ、グループが保有する多様な交通サービスや生活サービスをシームレスに連動させて1つのサービスとして提供する「小田急MaaSアプリ(仮称)」の構築を進めている。一方、JR東日本も18年7月、グループ経営ビジョン「変革2027」を発表。移動のための検索、手配、決済をユーザーにオールインワンで提供する「モビリティ・リンケージ・プラットフォーム」を構築し、あらゆる生活シーンで最適な移動手段を組み合わせて利用できるMaaSの提供へとかじを切っている。

 これまでも両社は、相互の公式アプリで連携を行ってきた。しかし、現状は相互にリンクを張る程度で、ユーザーがそれぞれの詳細情報を得たり、予約をしたりするには、両社のアプリをダウンロードしたうえで、いちいちアプリを切り替えて使う必要があった。今回の取り組みでは、交通のシームレス化を図るMaaS時代の“障壁”をユーザー視点に立って見直す。

 例えば、東北エリアに住む人が神奈川・箱根に旅行する場合。JR東日本の東北新幹線で東京駅に行き、JR中央線に乗り継いで新宿駅から小田急ロマンスカーを利用するルートを、相互のアプリで一括予約、決済できるサービスが想定される。もちろん、逆のルートもしかりだ。また、JR東日本や小田急を組み合わせて利用するいつもの通勤ルートで、大雪などによって乗り継ぐ予定の列車がストップしたり、大幅な遅延が発生したりした場合。混雑していても最短ルートを通るか、時間がかかっても空いているルートを通るか、正確な情報を基に複数の別ルートを相互のアプリで案内できるようにするイメージだ。

JR東日本と小田急の連携によるサービスイメージ。検索、予約、決済など、両社の交通手段をシームレスにつなぐ
JR東日本と小田急の連携によるサービスイメージ。検索、予約、決済など、両社の交通手段をシームレスにつなぐ
輸送障害が発生した場合に、リアルタイムの正確な情報を基に複数のう回経路を案内できるようになる可能性がある
輸送障害が発生した場合に、リアルタイムの正確な情報を基に複数のう回経路を案内できるようになる可能性がある

 これらを実現するには、例えば時刻表データの他、列車の位置情報や運行情報といったリアルタイムのデータ連携などが必要。今回のJR東日本と小田急の間では、具体的なサービスイメージからブレークダウンして、必要となるダイナミックなデータを取捨選択。互いに提供し合う枠組みづくりに向けて踏み込んだ議論が進むと見られる。検討が進む中で、相互利用を促すために「乗り継ぎポイント」を付与するなど、よりユーザー側にメリットがある施策の実現も期待できるだろう。

 こうした動きが民間主導で出てきたことは、日本のMaaSを取り巻く環境において非常に意義深いことだ。一言に公共交通といっても、欧米では国や自治体が保有している場合がほとんど。民間事業者が主体の日本とは、MaaS実現に必要とされるオープンデータをめぐる議論の出発点が決定的に異なる。一方で事業者間の利害を優先し過ぎると、何ら進展することはない。その点、JR東日本と小田急は「ユーザー視点」での話し合いから進めるとしており、複雑に絡み合ったMaaSのベースの議論に突破口を見いだせる可能性がある。

 両社は、2020年に開催される東京オリンピック・パラリンピックを視野に、連携サービスの提供を始める模様。他の鉄道事業者なども巻き込み、よりユーザーメリットのある形でMaaSが普及することに期待したい。

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