2018年は「eスポーツ元年」と言われたものの、本当に盛り上がっているのか疑問に持つ人も多いかもしれない。一方で、新たな広告ツールとして注目する企業もある。電機メーカーや飲料メーカー、メガバンクまでもがeスポーツイベントに出資し始めたのだ。その狙いは若者との接点構築だ。
2018年12月、Cygamesのスマートフォン/PC向けカードゲーム「Shadowverse」の世界一を決める大会「Shadowverse World Grand Prix 2018」が千葉・幕張メッセで開催された。日本、アジア、欧米での大会を勝ち抜いた選手24人が、100万ドル(約1億1000万円)という高額の優勝賞金を狙って戦いを繰り広げた。
この大会の協賛企業として、パソコンメーカーのマウスコンピューター、ゲーミングチェアブランドのDXRACERと共に名を連ねたのが、ソフトバンクとシャープ、大塚製薬だ。
シャープとソフトバンクは、会場内にブースを出展し、同月に発売したシャープの最新スマートフォン「AQUOS zero」を展示。来場者がAQUOS zeroを使って、Shadowverseの対戦プレーができるコーナーを用意していた。会場にいたシャープの担当者は、「AQUOS zeroの特徴は高性能でありながら軽いこと、充電しながら使っても熱くなったり性能が下がったりしないこと。ゲームを楽しむのに適した端末だが、それは使ってみないと実感できない。単なるスペックではなくユーザーの使い方を訴求するために、試用の場を設けた」と出展の目的を説明する。
大塚製薬は、会場入り口で「ポカリスエット ゼリー」の商品サンプルを無料配布。観戦しながら飲めるようにしていた。
CygamesでShadowverseのプロリーグ運営などを担当するCygames メディアプランナーの川上尚樹氏は、近年の大会運営を振り返り、「2018年以降、ゲームと直接関係ない企業がeスポーツに興味を示すようになった」と話す。日本で行われるeスポーツイベントのスポンサーと言うと、少し前まではパソコンメーカーやキーボード、マウスといった周辺機器メーカーなど、ゲームに関連する業界の企業が中心だったが、顔ぶれが少しずつ変わってきているという。
背景にあるのは「eスポーツ」の認知拡大だ。「“eスポーツ”という言葉が広く知られるようになるにつれて、これまで“リアル”なスポーツに協賛してきた企業などからeスポーツで何かやりたいと相談されるケースが増えている」(川上氏)。
これらの企業のターゲットは、eスポーツ会場に足を運んだり、ネット配信で試合を観戦したりする若年層だ。現在の10代、20代はテレビよりもネット配信動画を見ている人が多い。ゲーム実況はこうした世代に人気のコンテンツだ。彼らに自社やその商品・サービスを知ってもらいたい企業にとって、eスポーツはテレビCMに代わる新たなコミュニケーションツールになりうる。
中でも積極的なのは、飲料・食品メーカー。Shadowverseの大会を協賛した大塚製薬のほか、2018年1月に開催されたEVO Japan 2018に協賛した日清食品の「カップヌードル」なども代表例だ。
ドリンクや食品は価格も安く、若い人が購入しやすい。イベント会場などで配布されたサンプルを試し、気に入れば、すぐに買ってくれる可能性がある。eスポーツを支援することが、企業や製品のイメージアップや親近感向上にもつながるという期待もある。
三井住友銀行はeBASEBALLスポンサーに
意外なところでは、三井住友銀行(SMBC)もeスポーツに出資した。同社が冠スポンサーを務めたのは、日本野球機構(NPB)とコナミデジタルエンタテインメント(KONAMI)が2019年1月に共同開催した「eBASEBALL パワプロ・プロリーグ2018-19 SMBC e日本シリーズ」。KONAMIの野球ゲーム「実況パワフルプロ野球 2018」を使い、日本プロ野球12球団が持つeスポーツチームの中で日本一のチームを決める大会だった。
SMBCは2014年から“リアルな”プロ野球の日本シリーズでスポンサーを務めてきたが、eスポーツの大会を協賛するのは初めて。協賛に踏み切った理由について、同社は「少子高齢化やネット系金融機関の台頭などが進む中、将来のメイン顧客になる若年層と接点を構築したい。そのための1つの有力なコンテンツとして、eスポーツに魅力を感じている」(同社広報)と説明した。大会では、ゲーム中継に動画広告を入れる他、ゲーム会場内の掲示や選手が着用するユニホーム、さらにはゲーム内に登場する球場の看板などにも企業名を掲出し、観戦者にアピールした。今後の協賛予定は未定だが、eBASEBALLへの協賛を機に、他のeスポーツを含めた参画を検討していく考えだという。
チームを持つ企業も続々
今回取り上げたのは、eスポーツイベントへの協賛だが、チームや団体へのスポンサードにまで目を向けると、その例は枚挙にいとまがない。
2018年8月には、au(KDDI)、サントリー、ローソン、サードウェーブ、ビームス、インディード・ジャパンがプロゲーマーの認定や海外大会への選手派遣などを行う業界団体「日本eスポーツ連合」(JeSU)の公式スポンサーに参画。12月にはビックカメラが、19年1月にはわかさ生活が加わった。
また、おやつカンパニーや吉本興業、サッポロビールのようにeスポーツチームのオフィシャルパートナーになる企業や、JTBや福助のようにスポンサー契約を結ぶ形で支援する企業もある。
海外では、eスポーツは企業にとって既に有力な出資先だ。日本でもeスポーツの認知が高まるにつれ、同様の流れが生まれてきた。Cygamesの川上氏は「日本ではeスポーツはまだ立ち上がりの段階。だからこそ、今なら数十万~数百万という比較的手軽な金額で協賛できるのも魅力」と見る。若者との接点を模索する企業のeスポーツ参画が本格化しそうだ。
「Shadowverse World Grand Prix 2018」の予選対象地域には欧州も含まれたため、該当箇所を修正しました。[2019/1/30 19:00]