JR東日本とJR東日本スタートアップがベンチャー企業などと協業して新たな顧客サービスを実現しようとしている。「JR東日本スタートアッププログラム 2018」を開催し、駅や鉄道、JR東日本グループ事業の経営資源や情報資産を活用できる提案を募集した。

JR東日本スタートアッププログラム2018の審査発表会。PicoCELA(ピコセラ)がスタートアップ大賞に、最優秀賞は「AIを活用した駅や新幹線の流動予測」を提案したメトロエンジン、「新幹線自動改札での手荷物検査装置」を提案したANSeeN(アンシーン)が受賞した。地域循環モデルを提案したファーメンステーションには青森市長賞が贈られた
JR東日本スタートアッププログラム2018の審査発表会。PicoCELA(ピコセラ)がスタートアップ大賞に、最優秀賞は「AIを活用した駅や新幹線の流動予測」を提案したメトロエンジン、「新幹線自動改札での手荷物検査装置」を提案したANSeeN(アンシーン)が受賞した。地域循環モデルを提案したファーメンステーションには青森市長賞が贈られた

 「JR東日本スタートアッププログラム 2018」では、提案者に応じて、駅の構内などでテストマーケティングまで実施する「アクセラレーションコース」と、事業構想の具体化を支援する「インキュベーションコース」の2コースを用意。「アクセラレーションコース」は、既に自社の製品やサービス、プロトタイプを持ち、起業して10年以内の企業が対象。「インキュベーションコース」は、これから起業または起業して間もない企業向けが対象になる。JR東日本スタートアップはベンチャーキャピタル会社で、優秀な提案には資金の提供などビジネス支援にも応じている。

 同プログラムは17年に初開催し、今回は2回目。18年4月から募集し、約180件の提案があった。途中の書類審査を経て23件に絞り、審査発表会で提案者がプレゼンテーション。最も優れた提案を「スタートアップ大賞」に、さらにコース別に「最優秀賞」、全提案の中から「優秀賞」を選択した。大賞は「無線マルチホップ技術による屋外無線LAN環境構築」でPicoCELA(ピコセラ)が受賞。従来は設置が困難だった観光地にWi-Fi環境を構築し、データから顧客の行動傾向を把握するという提案だった。

新素材から地域活性化の提案も

 大賞以外にも、最終審査に残った23件の提案はさまざまだ。AI(人工知能)やIoT関連の新技術をアピールする他、素材やデザインを生かしたり地域の活性化につなげたりするサービスもある。

 例えば「再生可能素材『LIMEX』傘を活用したエキナカ傘シェアリング事業」を提案したのはTBMだ。石灰石を主原料とする再生可能素材「LIMEX」を自社開発しており、薄く加工できるというメリットを生かすことで、紙の名刺やプラスチックの食器の代替品としてアピールしている。今回はビニール傘の代替品として提案し、LIMEXを傘の布地に使用したプロトタイプを開発。傘の布地を回収・再生できる点と傘のシェアリング事業を組み合わせて提案した。傘の布地のように自在に開閉できる薄さになるよう、新しい加工技術を開発した。

 ファーメンステーションは「発酵技術を活用した地域循環モデルの構築」で注目を集めた。青森駅に隣接するシードル工房「A-Factory」のりんごの搾りかすを発酵・蒸留させ、エタノールと発酵かすを生成。エタノールは化粧品や雑貨などの原材料として利用し、発酵かすは家畜の飼料として提供するというもの。廃棄物ゼロの地域循環モデルの構築を目指す。

 プロのスタイリストがコーディネートしたファッションを月額制でレンタルできるサービスを展開するairCloset(エアークローゼット)は、「無人パーソナルスタイリング体験」を提案。プロのスタイリストと顧客がネットと連動したミラーを通し、遠隔でアドバイスを受けることができる。駅の構内にいながら、レンタルできるようになるわけだ。

 飲食店向けのキオスク端末などを開発しているShowcase Gig(ショーケースギグ)は「スマートフォンとキオスク端末を利用した無人オーダーカフェ」を発表した。Suica対応の商品注文端末を活用し、無人でオーダーできるカフェをデモンストレーション。スマホによる商品の事前予約サービスも組み合わせ、キャッシュレスで商品を受け取り、店舗オペレーションも軽減できるシステムを提案した。

 ユニークな提案には、はなはなの「スズメバチの仮想生息域を利用したシカ等の害獣対策」があった。野生動物にとってスズメバチは人間以上に脅威という。そこでスズメバチの羽音を活用し、鉄道事業のシカ対策を行うというものだ。

 18件の提案内容は、各地の駅構内などで順次、実証実験。今後の事業化につなげていく。

2018年12月3~9日にJR大宮駅西口のイベントスペースを「STARTUP_STATION」として、一部の提案内容を実証実験した
2018年12月3~9日にJR大宮駅西口のイベントスペースを「STARTUP_STATION」として、一部の提案内容を実証実験した
メトロエンジンによるAIを活用した年末年始の新幹線混雑予想をデジタルサイネージで表示
Showcase Gigのスマートフォンアプリとキオスク端末を利用した無人オーダーカフェ体験ブース
Showcase Gigのスマートフォンアプリとキオスク端末を利用した無人オーダーカフェ体験ブース
発酵技術を活用した地域循環モデルの構築を発表したファーメンステーションはりんごの搾りかすや生成した発酵かすを展示
発酵技術を活用した地域循環モデルの構築を発表したファーメンステーションはりんごの搾りかすや生成した発酵かすを展示
airClosetのIoTを活用した無人パーソナルスタイリング体験ブース
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多くの顧客が大宮駅構内の展示スペースを訪れており、「未来の駅サービス」を体験していた
多くの顧客が大宮駅構内の展示スペースを訪れており、「未来の駅サービス」を体験していた
JR東日本スタートアップの柴田裕社長は「予想以上に多くのお客さまが展示スペースに来場してくれた。JR東日本が“こんなこともやるの”と驚く人もいた。JR東日本だけでは難しいさまざまなサービスを今後とも推進していきたい」と話す
JR東日本スタートアップの柴田裕社長は「予想以上に多くのお客さまが展示スペースに来場してくれた。JR東日本が“こんなこともやるの”と驚く人もいた。JR東日本だけでは難しいさまざまなサービスを今後とも推進していきたい」と話す
はなはなの展示ではスズメバチの羽音を聞くことができる
はなはなの展示ではスズメバチの羽音を聞くことができる
TBMは再生可能素材「LIMEX」の傘やシェアリング用の機器を展示
TBMは再生可能素材「LIMEX」の傘やシェアリング用の機器を展示
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