MaaSはスマートシティの要になる

日高 ここからは、MaaSとの融合で他産業にどのようなインパクトがもたらされるのか。Beyond MaaSの世界について話を聞いていきたいと思います。

石村 現在はヘルスケアやエネルギー、スマートシティ、製造業、物流など、デジタルテクノロジーでいろいろな分野に変化が起こっているわけですが、私はその中心にMaaSがあるように思います。移動や交通はあらゆる分野と切っても切れない関係にあるからです。

 例えば、日本が誇るゲーム産業の技術としては、プレーヤーのモチベーションを向上せるさまざまな仕掛けがあります。また、実はゲームではかなり高度なアルゴリズムが使われているものもあり、こうした技術は非ゲームの領域にも転用できるものです。リアルタイムで人の流れをコントロールする際にもオンラインゲームの技術が使える可能性があります。日本のお家芸であるゲーム産業の知見が活用できる分野だと思います。

 12月からDeNAが0円タクシーを走らせるなど、広い意味でのMaaSを実践しています。ゲーム業界でも、ビジネスチャンスと見て参入する企業が増えるでしょう。

DeNAが展開するタクシー配車アプリ「MOV(モブ)」では、東京23区限定で乗客の利用料金が無料となる「0円タクシー」を運行。第1弾は日清食品とのコラボ(12月31日まで)
DeNAが展開するタクシー配車アプリ「MOV(モブ)」では、東京23区限定で乗客の利用料金が無料となる「0円タクシー」を運行。第1弾は日清食品とのコラボ(12月31日まで)

信朝 MaaSオペレーターの視点から見ると、AIが得意とするのは「巡回セールスマン問題」に答えを出すことです。いくつもの都市を移動するセールスマンが、すべての都市を最も効率よく、最小の移動コストで移動できる方法を求めるものです。

 個人から見るとコストと時間、集団で見ると社会コストを最適化するのにはどうしたらよいのかがAIの制約条件。この3つを満たして巡回セールスマン問題を解くことが、とても大きな課題になります。その際に、ゲーム開発で培ったアルゴリズムが参考になりそうです。

日高 移動の問題は各交通モード単独で考えるのではなく、広く都市として捉える必要もあります。須賀さんが取り組んでいるスマートシティについてお聞かせください。

須賀 MaaSの議論は、ついつい自動運転やドローンなどのアプリケーションレイヤーに集中しがちですが、MaaSを花開かせるためにも、その土台となるインフラや都市OSの整備が欠かせません。

 世界では、かつて日本で議論されていたスマートシティよりも非常に高い次元で、MaaSのような交通システムを含めた議論が行われています。その意味では、日本国内にはまだスマートシティと呼べる都市はありません。これは、自治体だけで成し得ることではないので、ビジネス特区などを作り、さまざまな企業と一緒に開発していく必要があります。

 今、世界のスマートシティで問題となっているのが、「ベンダーロックイン」です。あるベンダーが独占でシステムを構築してしまうと、街全体の空間データを一手に握ることになり、そのベンダーが倒産した場合には街ごとダメになる。それを避けるためには、システム互換性やインターオペラビリティー(相互運用性)に配慮したスマートシティにすることが重要。19年6月にはG20大阪サミットで日本が議長国を務めますし、1月に開催されるダボス会議などでも賛同する都市を募ってMaaS×スマートシティの議論を盛り上げていきたいと考えています。

出典: 世界経済フォーラム第四次産業革命日本センター
出典: 世界経済フォーラム第四次産業革命日本センター

日高 須賀さんは、ヘルスケア分野がご専門だと思いますが、スマートシティの文脈では、どのような議論が成されているのでしょうか。

須賀 「第四次産業革命×モビリティ」と「第四次産業革命×ヘルスケア」を議論すると、どちらともスマートシティの設計が死活的に重要という結論に至りました。ヘルスケア分野では、日本は高齢化社会に直面しているわけですが、認知症や生活習慣病などは薬で治らないため、病気にならないように健康維持するか、病気になっても進行を遅らせることが大切になります。

 しかし、従来は医療機関と介護施設にたまったヘルスケアデータを活用する議論しかありませんでした。重要なのは認知症予備軍の情報で、それを持っているのは自治体の国民健康保険課だったりするわけです。これをうまく使うためには、自治体のデータマネジメントシステムがよりインテリジェントになって、企業を含めてさまざまなプレーヤーがアクセスできる街ぐるみの環境づくりが必要だという議論になり、スマートシティに行き着きました。

日高 最後に、国内でのMaaSの取り組みがいよいよ本格化する19年に向けて、みなさんからメッセージをお願いします。

須賀 大企業の方々は、自分たちはイノベーションの担い手ではないと話す人が多い。しかし、大企業の中にこそ日本の社会構造としてはたくさんの人的、技術的なリソースがあります。その豊富なリソースを引き出し、新しい価値観を持ってMaaSが実現する未来を信じている人に使ってもらう。それも立派な大企業の社会的な役割ではないでしょうか。

 こうした合理的な判断を大企業がすることは、ベンチャー企業が栄えたり、市民生活が向上したり、MaaSの未来がより良くなるためにもとても大切なことだと思っています。大企業のみならず、政府や自治体が持っているデータリソースをAPIで引き出し、人材やビジネスフィールドも皆が持ち寄るような枠組みづくりに世界経済フォーラムが貢献したいですね。

石村 産業間の連携や接続が大切だと思っています。日本政策投資銀行内でもMaaSへの関心が高まっていて、鉄道、不動産、医療、ベンチャー企業など、さまざまな関係企業をもっとうまく接続していきたい。また、先ほどお話した「ゲーム×MaaS」の分野を盛り上げていきたいと考えておりますし、高齢者、地方の方にもMaaSの話を分かりやすく伝えていきたいと思います。

信朝 私はまず、企業の中のリソースをAPIとして引き出すためのコミュニティーづくりなどを盛り上げていきたいと思っています。また、MaaSにおいてはデータプラットフォームの構築に尽力したい。現状でもバス会社がグーグルのデータフォーマットを参考にしてオープンデータ化を進めていますが、日本ならではの規格の戦略も考えていきたいです。

渡邉 19年は、いよいよMaaS分野に投資をしたいと考えて、戦略を練っているところです。投資を受けたい方、会社を買いたい方、一緒に投資したい方など、お待ちしています。

『MaaS モビリティ革命の先にある全産業のゲームチェンジ』(日経BP社)
MaaS×スマートシティー、ゲーム… 19年は他産業との融合が進む(画像)
2030年、世界で100兆円以上に達すると予測されるモビリティサービスの超有望市場「MaaS(Mobility as a Service、マース)」。自動車メーカーだけではなく、鉄道やバス、タクシーといった公共交通、シェアリングビジネス、配車サービスをも巻き込む「『100年に一度』のゲームチェンジ」で生き残る秘策とは――。
交通サービス分野のパラダイムシフトにとどまらず、MaaSで実現する近未来のまちづくり、エネルギー業界から不動産・住宅、保険、観光、小売り・コンビニまで、MaaSの「先」にある全産業のビジネス変革を読み解く、日本で初めての本格的なMaaS解説書!

Amazon