地方路線の廃線はむしろチャンス?

日高 欧州では、MaaSオペレーターと公共交通事業者などが産官学でMaaSについて多様な議論をする「MaaSアライアンス」という組織があります。日本でも同様に、一般社団法人「JCoMaaS(Japan Consortium on MaaS、ジェイコマース)」という組織を12月に立ち上げました。どのような進め方をすれば、MaaSの社会実装が進むと思いますか?

須賀 私が所属する世界経済フォーラムの第四次産業革命日本センターは、米国外における初の海外提携センターとして、経済産業省および一般財団法人アジア・パシフィック・イニシアティブと提携して設立されました。日本政府としては企業からの提案を受けるだけではなく、一緒に考えて一緒に勉強していこうという姿勢です。

 そういう意味でMaaSは、交通やデータといったインフラの話が欠かせないので、官との連携が必須。JCoMaaSでも、官に要望するだけの組織ではなく、官と一緒に考えて進められる枠組みを持ってほしいと思います。世界経済フォーラムでは現在、3つのフォーカスエリアを定めており、モビリティはその中の1つ。JCoMaaSのような役割を担おうとしていた矢先だったので、応援したいと考えています。

日高 ありがとうございます。JCoMaaSは専門性を持つ必要があり、モビリティ部分に重点を置きますので、ぜひ連携して世界経済フォーラム第四次産業革命日本センターのスマートシティ構想の中でもよい役割が担えるようにしたいと思います。話は変わりますが、金融関係者から見て、MaaSのビジネスモデルの特徴はどう見えていますか。

日本政策投資銀行 石村尚也氏(以下、石村) MaaSのビジネスモデルはデジタルの部分と、鉄道やバスなどリアルな部分の2つに大きく分かれると思っています。デジタル側では、定額乗り放題のサブスクリプションモデルという考え方が可能となります。フィンランドには自動車産業がなく、MaaSアプリを展開するMaaSグローバルは政府とも協働しているので、動画配信サービスの「ネットフリックス」のような交通のサブスクモデルが可能となり、海外の自動車産業へお金を流さずに国内でお金を循環する仕組みが成り立ちます。

 一方、日本では自動車産業があるため、日本独自のモデルを考える必要がある。交通は手段にすぎず、手段の先には目的がありますから、それを接続して目的側で稼ぐ必要があるかと思います。日本の交通事業者の特徴は、不動産や商業施設などから収益を得ているところも多く、サブスクリプションモデルを取り入れるとすれば、運賃を固定して増えたユーザー数に対して出口となる移動の目的(商業など)を用意し、収益化する必要があるでしょう。

フィンランドのMaaSグローバルが展開するアプリ「Whim(ウィム)」の最上位プランでは、月額499ユーロ(約6万4000円、1ユーロ=128円換算)で1回5キロメートル以内までのタクシーも含めて、市内の公共交通が乗り放題に
フィンランドのMaaSグローバルが展開するアプリ「Whim(ウィム)」の最上位プランでは、月額499ユーロ(約6万4000円、1ユーロ=128円換算)で1回5キロメートル以内までのタクシーも含めて、市内の公共交通が乗り放題に

日高 渡邉さんは数々のスタートアップへ投資を行っていますが、投資家目線だとMaaSの市場性はどう見えますか。

グロービス・キャピタル・パートナーズの渡邉佑規氏(以下、渡邉) MaaS系のスタートアップ投資の問題は、大きく3つあると考えています。1つ目は、他国に比べて日本における移動や交通の課題が切実ではないことです。本来スタートアップ投資のアプローチは、切実な課題に対するソリューションの競争力があるかどうかを見ていくのですが、その点、日本では投資しづらいと感じています。2つ目は、MaaSのサプライチェーンが複雑かつ多層構造、ステークホルダーが多いこと。したがって投資をする際に、どこがボトルネックになっているのか見えづらい。3つ目はMaaSのサプライチェーンの中に既存の交通事業者のように歴史ある大企業が多く、合理的な判断がなされない傾向にあることです。MaaSに対するリテラシーを醸成すれば変わるかもしれませんが、変化を求めない企業も多いと思います。

須賀 日本の人口は確実に減っていくため、社会の構造的に鉄道やバスの廃線が増えています。ですので、それこそ撤退という判断をどこかでしなければ、企業、国の経済全体としても合理的ではなくなります。しかし、撤退の話が挙がっている地域では交通事業者を必死で引き留めている現状がある。一方で、新しいモビリティをつくろうとしている企業は潜在的な需要や欲求を探しています。ここに大きなミスマッチがあります。

 地方路線の廃線により、むしろ新しい市場ができるのではないか。新しい特区を作り、世界最先端の地域を人為的に作れるのではないか。世界的に見ても異例のスピードで急速に人口が減っている日本だからこそ、チャレンジできる領域のはずです。

石村 スタートアップが解決できる問題と、国や大企業が解決できる問題があります。鉄道などの公共インフラはスタートアップには難しく、そこを大企業が担っています。大企業では組織が大きいため、下の人がいくら考えても実行に移すまでに何年もかかってしまうことが多い。また、東京と地方に分けると温度感が大きく異なっていて、「デジタルはいらない」という地方の方も多いでしょう。

 このような状況を打破するには、日本は黒船来航の時代から“外圧”が有効です。今後は、2020年の東京オリンピック・パラリンピック、2025年の大阪万博など、海外のスタンダードモデルがブレークスルーを起こしやすいイベントがあります。