ライブ配信プラットフォームを運営するSHOWROOM(東京・渋谷)の前田裕二社長は「日経クロストレンド EXPO 2018」で、高収益体質なメディア事業を生み出す秘訣を語った。何より「深さ」の追求が大事だと主張する。

SHOWROOMの前田裕二社長(左)とアジャイルメディア・ネットワーク取締役CMO(最高マーケティング責任者)の徳力基彦氏(右)
SHOWROOMの前田裕二社長(左)とアジャイルメディア・ネットワーク取締役CMO(最高マーケティング責任者)の徳力基彦氏(右)

 前田社長は2018年11月28日~29日にかけて開催された日経クロストレンド EXPO 2018のなかで、アジャイルメディア・ネットワーク(東京・港)取締役CMO(最高マーケティング責任者)の徳力基彦氏と対談。「SHOWROOM」を例えに、今後のメディア事業の在り方について意見を交わした。

 SHOWROOMは仮想ライブ空間の中で、誰でも無料でライブ配信や視聴ができるライブ配信プラットフォーム。動画の視聴者はバーチャルギフト(有料アイテム)を購入し、ライブ配信中に使うとその一部が演者の収益となる。

 SHOWROOMは国内の数ある動画配信プラットフォームのなかでも、特に高収益体質だ。米アプリ調査会社のアップアニーの発表によれば、国内では動画配信サービスの「Netflix」を抑え、動画配信アプリの収益ランキングで1位となった。ところが、同じ動画配信サービスでも収益源は全く別。Netflixをはじめとする他社サービスは、主に映画の視聴など利用者自身の目的のために料金を支払う。対して、SHOWROOMは視聴者が応援したい配信者のためにお金を使う、いわゆる「共感消費」のビジネスモデルが成り立っているところに特徴がある。

エンタメビジネスは“第三世代”へ

 共感消費が受け入れられる背景として、前田氏は音楽ビジネスを例に消費の変遷を挙げる。音楽ビジネスの基礎は「パッケージ販売モデル」だ。CD1枚1000円など、前もってコンテンツの価値を示して販売する。ところが、海賊版のまん延や、ネットを介した音楽配信サービスの登場で、パッケージを購入する消費者が減少しており、ビジネスモデルとして岐路を迎えている。

 ライブなどの「体験価値」も音楽ビジネスでは重要だ。パッケージ商品とは異なり、複製できない体験を価値として提供することで、ネット時代でもリアルの場での消費を促した。この体験価値によって、業界はCDの売り上げの落ち込みを補おうとしてきた。ただし、こちらも限界を迎えつつある。まずリアルである以上、会場の数や収容人数などキャパシティーに限りがある。

 そこに、第三世代として「直接支援モデル」が加わった。SHOWROOMやクラウドファンディングがその代表例。感動を与える側と、受け取る側が同じサービス上で出合う「共感価値」市場だ。ネットを舞台とすることでリアルの体験が抱えていたキャパシティの問題などのクリアにつながり、理論上は単価と客数の掛け算によって市場が無限大になる。

 また完成品が求められるパッケージ商品とは異なり、共感価値の場合は必ずしも完成度の高さは求められない。逆に不完全なものがヒットを生み出すことさえある。それを前田氏は、「人は人に感情移入する。(不完全だからこそ)裏側にあるストーリーを応援したくなる」と説明する。AKB48の投票企画「選抜総選挙」では、メンバー個人が持つストーリーやバックグラウンドが順位に大きく影響を及ぼすのが好例だと話す。

 前田氏の持論に徳力氏も同調する。「音楽ビジネスに限らず、商品においても同じ流れになってきている」(徳力氏)。従来はスペックの良しあしで勝てたが、今はOEM(相手先ブランドによる生産)を含め、いくらでも商品を作れてしまう時代だからこそ、スペックの違いよりも、商品に「共感できるストーリー」がないと人の心に響かないというのが徳力氏の考えだ。

 さらに、共感価値経済圏では、1つの商品が持つ価値も無限大になる。同じコンテンツでも人によって捉え方はまるで異なり、「どれだけ感動したかによって、価値が変動するからだ」と、前田氏は説明する。ある人にとっては1000円の価値しかないコンテンツでも、別の人にとっては深い体験となり10万円の価値を持つ可能性もある。従来は、認知の「広さ」がすなわちコンテンツの価値を示す指標だったが、SHOWROOMでは配信者と視聴者の関係性の「深さ」を併せて設計することが価値の高いコンテンツを生み出すことにつながる。

幅から深さの時代へ

 深さの追求は収益モデルも大きく変える。これまでのメディア事業は、動画の視聴率や再生回数、PV(ページビュー)など幅だけを見る傾向が強かった。ここに深さという縦軸が加わることで、「面積で考えるという発想になっていく」と前田氏は言う。たとえ、UU(ユニークユーザー)が100人でも、閲覧者全員に深い共感を与えられれば、1人が1万円分の価値を生むかもしれない。それなら、UUがたったの100人でも、売り上げは100万円だ。

メディア事業は「深さ」の追求で収益モデルが大きく変わると前田氏は言う
メディア事業は「深さ」の追求で収益モデルが大きく変わると前田氏は言う

 収益モデルを構築するうえでは、アプリのダウンロード数だけではなく、「どのくらい深いアクションをされたか」(前田氏)を注意深く見る必要がある。ライブ動画のようにスマートフォンで利用するサービスの場合、テレビにはなかったバッテリー問題やLINEなど他のコミュニケーションツールなどとの可処分時間の取り合いが激化している。そのなかで幅を取りに行くのは難しい。だからこそSHOWROOMは、深さで収益モデルを作っているのだという。

 こうした状況をみれば、従来のようにリーチ数が多ければ広告価値が上がるビジネス構造は変わり、ターゲットが絞られるものの熱量の高いコミュニティーに出稿するほうが効果的と考える広告主も現れるだろう。「クライアント側の理解が深まれば、新しい市場が形成されるはずだ」と前田氏は期待を寄せる。

タレントの著名度を表す4象限

 コンテンツの深さを追求することは、タレントやネット発の著名人にとって、世の中に浸透していくための新たな道筋を描くことができる。下図は前田氏がタレント著名度を「広さ」と「深さ」でマッピングしたものだ。

前田氏はタレントの著名度を「広さ」と「深さ」の4象限にマッピングして説明する
前田氏はタレントの著名度を「広さ」と「深さ」の4象限にマッピングして説明する

 横軸はファンの数、すなわち広さを示す。縦軸がファンとの交流頻度や密度を示しており、下にいくほど高密度となり深さを表す。まずD(左上)は、ファン数が少なく、ファンとのコミュニケーションやSNSの更新頻度も低い「タレント予備層」と言える。例えば、大手芸能事務所所属の新人などはここに位置する。C(右上)はファンとのコミュニケーションやSNSの更新頻度は低いが、ファンの総数が多い「トップタレント層」だ。

 一方、下段はネット発でトップタレント層を目指す人が多く位置する。A(左下)はファン数こそまだ多くないが、SNSや動画配信数が多い「インフルエンサー予備層」、B(右下)はファン数、交流の密度が共に高い「インフルエンサー層」と言えるだろう。人気「YouTuber」がその典型例だ。

 従来、タレント予備層に所属するタレントはメディアとの関係を築き、露出する機会を増やすぐらいしかトップタレント層への道を切り開く手段がなかった。だが、SNSやSHOWROOMの登場により、空き時間で動画を配信してファンとの交流を深め、まずインフルエンサー層を目指す。そしてそれにより耳目を集め、トップタレント層を目指すという新たなルートが開拓されたという。従来のアイドルは文字通り「偶像」である必要があったが、近年のアイドルは「身近さ」が熱量の高いファンを生み出している。SNSや動画配信プラットフォームの更新頻度を上げファンにとって身近な存在になることで、共感価値が生まれやすくなる。

 これはアイドルに限った話ではなく、「企業のマーケティングにおいても同様だ」と、徳力氏は付け加える。従来のマスマーケティングはテレビCMなどで大量の認知を取り、事業をスケールさせてきた。一方、18年の代表作となった映画「カメラを止めるな!」のように、公開直後は注目が低くとも、ネットで広がったクチコミが起点となり大ヒットを生み出すケースが増えている。映画を見たファンの間で「共感価値」が生まれ、その熱証がクチコミによって電波することでヒットにつながる。

 もっとも、誰もが成功するわけではない。「SHOWROOMではある一定の方式にのっとって更新を続ければ、100人のファンを作ることはできるが、実際そのファンと毎日親密なコミュニケーションを取り続けることは大変だ」(前田氏)。例えば、Instagramは独自の世界観を作り上げ、その世界観に共感したファンをいかに集められるかに成否がかかっている。一方で常に作り込まれた世界ばかりではいずれファンも疲弊してしまうし、必ずしもファンと密度の高い関係を築けるわけではない。

 時折、素の表情をのぞかせる「抜け感」を出すことで、ファンはより愛着を持ち、コミュニティーが広がっていくのだという。ブランドを表す「世界観」と、「抜け感」を「パラレルに、バランスよく組み合わせてコミュニケーションを取り続けることが重要だ」と両者は強調した。

(写真/新関雅士)