幅から深さの時代へ

 深さの追求は収益モデルも大きく変える。これまでのメディア事業は、動画の視聴率や再生回数、PV(ページビュー)など幅だけを見る傾向が強かった。ここに深さという縦軸が加わることで、「面積で考えるという発想になっていく」と前田氏は言う。たとえ、UU(ユニークユーザー)が100人でも、閲覧者全員に深い共感を与えられれば、1人が1万円分の価値を生むかもしれない。それなら、UUがたったの100人でも、売り上げは100万円だ。

メディア事業は「深さ」の追求で収益モデルが大きく変わると前田氏は言う
メディア事業は「深さ」の追求で収益モデルが大きく変わると前田氏は言う

 収益モデルを構築するうえでは、アプリのダウンロード数だけではなく、「どのくらい深いアクションをされたか」(前田氏)を注意深く見る必要がある。ライブ動画のようにスマートフォンで利用するサービスの場合、テレビにはなかったバッテリー問題やLINEなど他のコミュニケーションツールなどとの可処分時間の取り合いが激化している。そのなかで幅を取りに行くのは難しい。だからこそSHOWROOMは、深さで収益モデルを作っているのだという。

 こうした状況をみれば、従来のようにリーチ数が多ければ広告価値が上がるビジネス構造は変わり、ターゲットが絞られるものの熱量の高いコミュニティーに出稿するほうが効果的と考える広告主も現れるだろう。「クライアント側の理解が深まれば、新しい市場が形成されるはずだ」と前田氏は期待を寄せる。

タレントの著名度を表す4象限

 コンテンツの深さを追求することは、タレントやネット発の著名人にとって、世の中に浸透していくための新たな道筋を描くことができる。下図は前田氏がタレント著名度を「広さ」と「深さ」でマッピングしたものだ。

前田氏はタレントの著名度を「広さ」と「深さ」の4象限にマッピングして説明する
前田氏はタレントの著名度を「広さ」と「深さ」の4象限にマッピングして説明する

 横軸はファンの数、すなわち広さを示す。縦軸がファンとの交流頻度や密度を示しており、下にいくほど高密度となり深さを表す。まずD(左上)は、ファン数が少なく、ファンとのコミュニケーションやSNSの更新頻度も低い「タレント予備層」と言える。例えば、大手芸能事務所所属の新人などはここに位置する。C(右上)はファンとのコミュニケーションやSNSの更新頻度は低いが、ファンの総数が多い「トップタレント層」だ。

 一方、下段はネット発でトップタレント層を目指す人が多く位置する。A(左下)はファン数こそまだ多くないが、SNSや動画配信数が多い「インフルエンサー予備層」、B(右下)はファン数、交流の密度が共に高い「インフルエンサー層」と言えるだろう。人気「YouTuber」がその典型例だ。

 従来、タレント予備層に所属するタレントはメディアとの関係を築き、露出する機会を増やすぐらいしかトップタレント層への道を切り開く手段がなかった。だが、SNSやSHOWROOMの登場により、空き時間で動画を配信してファンとの交流を深め、まずインフルエンサー層を目指す。そしてそれにより耳目を集め、トップタレント層を目指すという新たなルートが開拓されたという。従来のアイドルは文字通り「偶像」である必要があったが、近年のアイドルは「身近さ」が熱量の高いファンを生み出している。SNSや動画配信プラットフォームの更新頻度を上げファンにとって身近な存在になることで、共感価値が生まれやすくなる。

 これはアイドルに限った話ではなく、「企業のマーケティングにおいても同様だ」と、徳力氏は付け加える。従来のマスマーケティングはテレビCMなどで大量の認知を取り、事業をスケールさせてきた。一方、18年の代表作となった映画「カメラを止めるな!」のように、公開直後は注目が低くとも、ネットで広がったクチコミが起点となり大ヒットを生み出すケースが増えている。映画を見たファンの間で「共感価値」が生まれ、その熱証がクチコミによって電波することでヒットにつながる。

 もっとも、誰もが成功するわけではない。「SHOWROOMではある一定の方式にのっとって更新を続ければ、100人のファンを作ることはできるが、実際そのファンと毎日親密なコミュニケーションを取り続けることは大変だ」(前田氏)。例えば、Instagramは独自の世界観を作り上げ、その世界観に共感したファンをいかに集められるかに成否がかかっている。一方で常に作り込まれた世界ばかりではいずれファンも疲弊してしまうし、必ずしもファンと密度の高い関係を築けるわけではない。

 時折、素の表情をのぞかせる「抜け感」を出すことで、ファンはより愛着を持ち、コミュニティーが広がっていくのだという。ブランドを表す「世界観」と、「抜け感」を「パラレルに、バランスよく組み合わせてコミュニケーションを取り続けることが重要だ」と両者は強調した。

(写真/新関雅士)