徒歩や自転車、電車、クルマなど、日々のあらゆる移動手段を自動で判別し、一定数たまると特典と交換可能な“マイル”を付与する斬新なアプリが米国で登場した。マルチモーダルな移動を支援するMaaS(モビリティ・アズ・ア・サービス)の概念にもマッチする仕組みで、注目が集まる。日本でのサービス展開に意欲を見せる、その実力とは?

米国のスタートアップ、Milesが展開するアプリ。移動手段を自動で判別し、商品やクーポンなどと交換できる“マイル”を付与する
米国のスタートアップ、Milesが展開するアプリ。移動手段を自動で判別し、商品やクーポンなどと交換できる“マイル”を付与する
[画像のクリックで拡大表示]

 飛行機に乗らなくても、徒歩や自転車、クルマ、電車などを使ったあらゆる移動が自動的に“マイル”に変わる。これまで無価値だった日常の移動、毎日の通勤にすら金銭的な価値をもたらす。そんな斬新なアプリ「Miles(マイルズ)」が、米国で2018年7月に登場した。提供するのは、シリコンバレーの中心都市であるサンノゼで16年に設立されたアプリと同名のスタートアップ、Miles。7月にポルシェグループから300万ドルの出資を受けており、サンフランシスコと東京に拠点を置くベンチャーキャピタル、Scrum Venturesの投資先の1つでもある。

 Milesがユニークな点は2つある。まず、いちいちアプリを立ち上げなくてもスマホのバックグラウンドで動作して、電車なのか、徒歩なのか、あらゆる移動手段をシームレスに自動判別し、記録してくれること。判別するのは、クルマ、カープール、ライドヘイリング、鉄道、バス、ボート、徒歩/ラン、自転車、飛行機の9区分。スマホ内蔵の加速度センサーやGPS、交通オープンデータなどの情報を基に、独自のアルゴリズムでAI(人工知能)がユーザーの移動手段を推測する仕組みで、もちろん事前に経路検索する必要はない。ライドヘイリングの米ウーバー・テクノロジーズやリフトは、アカウント接続することでほぼ確実に判別が可能。「手掛かりとなるデータが少ないバスによる移動でも、60~70%の確率で判定できる。もし間違えがある場合は修正リクエストを出してもらう」と、CEOのJigar Shah氏は話す。

徒歩は10マイル、電車は3マイルなどとアプリ側が移動手段を自動判定し、記録する仕組み
徒歩は10マイル、電車は3マイルなどとアプリ側が移動手段を自動判定し、記録する仕組み
[画像のクリックで拡大表示]

 もう1つのポイントが、移動手段ごとにマイルの付与率に差を付けていることだ。徒歩やランによる移動は1キロメートル当たり10マイル、自転車は5マイル、電車やバス、ボートは3マイル、ライドヘイリング、カープールは2マイル、クルマは1マイル、飛行機は0.1マイルという具合。これらが移動実績に応じて自動で記録される。既にお気づきかも知れないが、より環境負荷が低い移動手段に多くのインセンティブを付与しているのが特徴だ。Jigar Shah氏は「現代の都市は大気汚染や交通渋滞といった問題を抱えている。これまでは行政によって市街地から強制的にクルマを締め出したりしていたが、Milesは人々にインセンティブを与えることで、自然にクルマに代わる持続可能な移動手段への行動変容を促すもの」と説明する。

MaaSアプリのキラーコンテンツ?

 現在、米国で数万人いるMilesユーザーは平均で1カ月当たり120回移動し、2000マイルほどためているという。たまったマイルは、映画のチケットやレンタカー、コーヒーの無料チケット、ネット通販のギフトカードなどへの交換が可能。同社のホームページではキヤノンやコールハーン(シューズ)、ネイチャーボックス(菓子通販)、ホームシェフ(食材宅配サービス)、シルバーカー(アウディのレンタカー)など、20のブランドが並んでいる。Miles利用者への広告効果を期待できるため、こうした提携企業によってMilesユーザーに付与されるマイルの原資が賄われているようだ。また、Milesが収集する移動データ、それに基づく行動予測によって、食事やガソリンスタンドでの給油、鉄道での移動などのシーンに合わせたコミュニケーションが可能になる。

米国で展開するMilesに特典を提供するブランド
米国で展開するMilesに特典を提供するブランド
[画像のクリックで拡大表示]

 Milesは、サンフランシスコ近郊の都市であるコントラコスタと最初にパートナーシップを結んだ他、米国の西海岸の複数の都市と協力関係にある。都市にとっては、環境負荷の低い移動手段に誘導できるMilesは組みやすい相手だ。同社は日本への進出も検討しており、「自動車メーカーや交通事業者といったモビリティ関係の他、広告代理店などの強力なパートナーを探している」(Jigar Shah氏)。そうした提携企業とは、Milesユーザーから得る移動データを共有することで、事業メリットを生み出せるという。

 こうしたMilesの取り組みは、あらゆる移動手段をシームレスに統合するMaaSアプリを展開しようとしている企業にとって、非常に参考になるものだ。マルチモーダルの経路検索、予約、決済機能を実現して移動の自由度を上げたとしても、移動の「目的」がなければ人は動かない。その点、Milesの仕掛けは人が行動するきっかけの1つになり得る。また、決まったルートを通勤・通学で移動するだけの人にとって、MaaSアプリの利便性は日々実感しづらいものだが、それを変えるためにも、毎日の移動で勝手に特典がたまるMilesの仕組みは有効だろう。もちろん、都市にとっても環境に配慮した交通政策を推進するツールになり得る。

 現在、日本では東京急行電鉄が東急バスへの乗車(月5回以上)でポイントを付与したり、東急線で下車するごとにたまるポイントによって会員ランクが上がったりする仕組みを展開。NTTドコモもヘルスケアアプリ使い放題サービス「dヘルスケア」(月500円・税別)の1つとして毎日の歩数がdポイントになる仕掛けを用意しているが、マルチモーダルかつ公共性のあるMilesのようなサービスは存在していない。Milesは今後、日本でのMaaS実現に当たっても重要なプレーヤーになるだろう。