さまざまな交通手段を統合して次世代の移動サービスを生み出す「MaaS(モビリティ・アズ・ア・サービス)」の取り組みが国内で本格化してきた。いち早くMaaS参戦を表明していた小田急電鉄は、2019年中に複数の実証実験を進める構え。その展開エリア、外部パートナーとは?
18年4月、国内の私鉄でいち早くMaaSへの取り組みを表明した小田急電鉄が、19年に複数のMaaS実証実験を計画していることが分かった。同社経営戦略部モビリティ戦略プロジェクトチームの西村潤也氏が、12月6~8日に開催されたイベント「トランザム」(日本経済新聞社主催)のセッションに登壇。小田急版MaaSアプリの開発意向や想定する連携企業、展開エリアを明らかにした。
小田急は18年9月にも、神奈川県とグループの江ノ島電鉄、ソフトバンクグループのSBドライブの協力で江の島エリアを舞台に自動運転バスの実証実験、およびヴァル研究所と協力したMaaSアプリのトライアルを行っている。19年は小田急版MaaSの本格展開に向けてさらに知見を深めていく構えだ。
まず、小田急グループの考えるMaaSとは、「多様な移動手段(交通機関)とユーザーの移動の契機(商業施設、旅行など)を、デジタル技術を活用してシームレスに連携すること」(西村氏)という。マルチモーダルのアプリを開発するだけ、自動運転などの新交通を実現するだけではなく、移動需要そのものを増やしていく取り組みだ。そのために、小田急百貨店やスーパーマーケットの「Odakyu OX」などを展開する小田急商事、観光ホテルなどを運営する小田急リゾーツといった生活サービス軸のグループ企業との連携も積極的に進めていく。もちろん、鉄道の他、グループで3000台あまりに達するバスや、タクシーといった沿線の2次交通をほぼ“独占”している強みも生かす。
19年に計画されている実証実験の展開エリアは大きく2つ。新百合ヶ丘などの郊外エリアと、箱根や江ノ島といった沿線の観光エリアが候補となる。それに伴い、小田急グループの鉄道やバスの交通データを統合した新たなMaaSアプリをヴァル研究所の検察エンジンと連携して開発。そして、グループ外のモビリティ連携として、カーシェアリングは「レール&カーシェア」の取り組みで提携しているタイムズ24、サイクルシェアリングはドコモ・バイクシェア、ラストワンマイルの移動手段としては、次世代の電動車いすを開発するスタートアップ・WHILLとの取り組みを視野に入れている。
郊外エリアの実証実験では、商業施設との連携を具体化する構え。小田急線の最寄り駅から徒歩25分かかるような住宅地では高齢化が進んでおり、マイカーによる移動に困難が伴う。そこで例えば、休日はバス路線などを“無料化”。マイカーの代わりにバスを使って駅周辺の商業施設に行き、買い物をすることで、バスの料金分がキャッシュバックされる仕組みなどが想定される。マイカー移動が公共交通に置き換わることで駅前の渋滞が緩和され、移動のきっかけが生まれることで交流人口が増加することが見込まれる。
また、駅前の駐車場の空車率向上にも役立つ。その空車分をカーシェアリングの車両スペースに活用すれば、駐車場の料金収入が減る分を補えるし、駅前の大型マンションに住むファミリー層にとっても便利なサービスになるというわけだ。
一方、箱根や江ノ島といった沿線の観光地については、MaaSアプリによって鉄道からの2次交通をシームレスにつないで移動のストレスを緩和したり、慢性的な交通渋滞を回避できるような移動手段を設定したりすることが考えられる。さらには、グループのホテルや観光・商業施設と協力して割引施策を打つなどの連携もあるだろう。いずれも、マイカー移動から公共交通へのシフトを促すものだ。
MaaSの実証実験をめぐっては、19年春に東京急行電鉄も東日本旅客鉄道、ジェイアール東日本企画と伊豆エリアにおける観光型MaaSのテスト展開を計画している。小田急は、「ユーザーの利便性を考えれば、小田急だけで使えるMaaSアプリから一歩進む必要がある。今後取り組みを進めていく中で、他の鉄道会社やグループ外の商業施設などとも協力していきたい」(西村氏)と話す。19年は日本で社会実装が進む「MaaS元年」になりそうだ。