ソニー・ミュージックエンタテインメント(SME)は2018年11月、韓国のアニメ専門放送局・アニプラスと共同でアニメ・ゲームのイベント「Anime X Game Festival」(AGF)を開催した。世界的に人気が高い日本のアニメだが、韓国での公式イベントはこれが初。開催の背景と成功の理由を探った。

韓国で初めて開催された公式のアニメ・ゲームイベント「Anime X Game Festival」。2日間で延べ3万2000人以上が来場し、成功を収めた
韓国で初めて開催された公式のアニメ・ゲームイベント「Anime X Game Festival」。2日間で延べ3万2000人以上が来場し、成功を収めた
[画像のクリックで拡大表示]

 いまや世界中にファンを持つ日本のアニメコンテンツ。テレビ放送や動画配信サービスなどで視聴されたりキャラクターグッズが販売されたりしているのはもちろん、大規模なアニメ関連イベントも世界各地で催されている。

 例えば、アジア地域の「C3 AFA」(旧「Anime Fesitival Asia(AFA)」。2017年に「C3」と統合して改称)。東京のほか、シンガポール、インドネシア、タイ、香港で毎年開催され、日本からも人気アーティストや声優、クリエーターが参加する。米国の「Anime Expo」、欧州ではパリの「Japan Expo」などが有名だ。

 そんな中、日本アニメの人気が比較的低いとされてきたのが韓国だ。他国に比べ、ハイティーン以上に向けたアニメを放送するテレビ局などが少なく、大規模なアニメ関連イベントが開催されたこともない。これは、韓国では“子供の文化”と“大人の文化”の切り分けが明確で、アニメは子供のものというイメージがいまだ強いためだという。

キダルトの台頭で風向きに変化

 だが、そんな社会的空気もこの2~3年で変化してきた。アニメやゲームで育った20~30代が社会に進出し、経済力を付けたためだ。彼らは「キダルト」(“kid”と“adult”を組み合わせた造語)と呼ばれ、アニメやゲームなど子供の頃に好きだったものにお金を投資することに抵抗がない。グッズなどの購入にも積極的だ。SMEと韓国アニプラスが今回、AGFの開催を決めたのもこうした状況を見てのことだった。

 開催は11月3、4日の2日間。会場となった韓国・コヤン市のコンベンションセンター「KINTEX 第2展示場」のホール9は、日本の施設に例えるなら、千葉・幕張メッセのホール7、8といったところだ。ここにライブやトークショーを行うステージ、アニメやゲームとのコラボカフェ、27社、29のブースが並んだ。入場チケットは、一般1日券が2万ウォン(日本円で約2000円)、一般2日券は3万5000ウォン(同約3500円)と設定した(関連記事:「日本アニメに大熱狂 初開催で3万人来場した韓国イベントに潜入」))。

 「正直、開催前はどれくらいの人が来てくれるか分からなかった」と、SMEや出展企業の関係者は口をそろえる。SME取締役CFO兼 コーポレートEVPの今野敏博氏も「当初はまだ早すぎるんじゃないかという議論があった」と明かす。だが、いざ蓋を開ければ2日間で延べ3万2000人以上が来場。初開催のイベントとしては、関係者の予想を超える成功となった。

開場前には3500人もの人が行列を作った
開場前には3500人もの人が行列を作った
[画像のクリックで拡大表示]
ソニー・ミュージックエンタテインメント取締役CFO兼 コーポレートEVPの今野敏博氏
ソニー・ミュージックエンタテインメント取締役CFO兼 コーポレートEVPの今野敏博氏
[画像のクリックで拡大表示]

重視したのは「本物感」と「旬」

 前述のC3 AFAなど先行するアニメ関連イベントがある中、初めての開催となるAGFがまず意識したのは「本物感」だ。今野氏は「多くのコンテンツ/IPを保有しているソニーミュージックグループだからこそできるイベントにしたかった」と語る。

 その象徴がライブやトークショーで構成されたステージ。『ソードアート・オンライン アリシゼーション』『Fate/Grand Order』『劇場版 夏目友人帳~うつせみに結ぶ~』といった人気アニメ/ゲームのトークショーには、松岡禎丞、戸松遥、高垣彩陽、川澄綾子、鶴岡聡、井上和彦といった豪華声優陣が出演し、作品への思いを語ったり、各作品の名シーンをその場で演じる“生アフレコ”を披露したりした。また、ライブでは、May'n(メイン)、ASCA、halcaの3組がアニメのテーマソングを熱唱した。

 司会には、アニメイベントの出演やクリエイター、声優へのインタビューなど知られるニッポン放送の吉田尚記氏、お笑いコンビ・アメリカザリガニの平井善之氏を起用。「海外のファンも濃い話が好き。ここでしか聞けない話を聞き出せる人に司会をお願いしたかった」(アニプレックスライツ第1グループMD管理部部長 兼 SME海外事業推進グループアジアマーケティングルーム プロデューサーの佐々木宏氏)という。

『ソードアート・オンライン アリシゼーション』のステージでは松岡禎丞、戸松遥、高垣彩陽の3人が名シーンを実演
『ソードアート・オンライン アリシゼーション』のステージでは松岡禎丞、戸松遥、高垣彩陽の3人が名シーンを実演
[画像のクリックで拡大表示]
声優ユニットとして初の武道館単独ライブを行った人気声優ユニットのSphere(寿美菜子、高垣彩陽、戸松遥、豊崎愛生)。現在は音楽活動を休止中だが、トークで参加。会場を盛り上げた
声優ユニットとして初の武道館単独ライブを行った人気声優ユニットのSphere(寿美菜子、高垣彩陽、戸松遥、豊崎愛生)。現在は音楽活動を休止中だが、トークで参加。会場を盛り上げた
[画像のクリックで拡大表示]
アーティストがアニメのテーマソングを熱唱。写真はhalca
アーティストがアニメのテーマソングを熱唱。写真はhalca
[画像のクリックで拡大表示]

 「旬」もキーワードだ。ネットを介した情報発信が一般化した現在では、日本で放送しているアニメの情報が即座に海外に伝わるようになっている。例えば、今回SMEと共同でAGFを開催したアニプラスの場合、日本で放送されたアニメ作品を24時間または48時間以内に同社が運営するアニメ専門チャンネルで放送し、その1時間後にはVODで見られるようにしている。Netflixなどの動画配信サービスでは、新作のアニメ作品が世界同時配信されることも珍しくない。とはいえ、リアルイベントとなると話は別。日本に比べ、海外のほうが遅くなってしまうのが実情だ。

 だが、AGFでは10月から日本で放送が始まったアニメのイベントをステージの中心に据えた。その結果、『抱かれたい男1位に脅されています。』は日本でも話題の作品ながら、放送開始後の初めてのイベントがAGFということに。それ以外にも、AGF開催時点で放送開始から1カ月以内の作品や2019年に放送予定の作品もあった。

 こうしたAGFの姿勢は、来場者にとって「海外のアニメファンも、日本のアニメファンと同様に大切にしている」というメッセージになったようだ。会場で来場者に話を聞くと、「韓国でもこういうイベントを開催してくれてうれしい」「こんな大規模なイベントは日本に行かないと参加できないと思っていた」など、一様に感激を口にした。

 アニプラスのジョン・スンテクCEOは「日本のアニメはサブカルチャーであり、韓国では楽しんでいる人もそのことを隠しがち。AGFは堂々と楽しめる場の提供になった」とその意義を説明する。特にステージイベントとコラボカフェは“ここでしか味わえない”楽しみとして、AGFの強みになったと話す。

アニプラスのジョン・スンテクCEO。アニプラスは2009年開局のケーブルテレビチャンネル。VODの配信やマーチャンダイジング、アニメ映画の配給、特別上映や先行上映などのイベントも手掛ける
アニプラスのジョン・スンテクCEO。アニプラスは2009年開局のケーブルテレビチャンネル。VODの配信やマーチャンダイジング、アニメ映画の配給、特別上映や先行上映などのイベントも手掛ける
[画像のクリックで拡大表示]

初開催でも大入りの裏にSNSの拡散力

 イベントの内容に力を入れても、来場者が集まらなければ成果にはつながらない。では、初開催だったにもかかわらず、AGFに延べ3万2000人が来場したのはなぜか。威力を発揮したのは、SNSの拡散力だ。

 「AGFのターゲット層(20~30代)は、TwitterやFacebook、YouTubeといったSNSと親和性が非常に高い」(ジョンCEO)。特に近年は日本アニメのすそ野が広がり、ネットを介したファン同士の交流も活発だ。来場者からも「日本のアニメの情報はまとめサイトでチェックしている」(20代男性)、「アニメショップなどのTwitterをフォローしている」(20代女性)、「今回のイベントはTwitterで知った」(10代女性)という話を頻繁に聞いた。ファンにとって関心が高い情報は、素早く共有される土壌ができている。

 AGFの開催に当たっては、アニプラスや出展企業がSNSなどで情報を発信。それをアニメファンの情報収集拠点にもなっているアニメショップやまとめサイトなどが拡散し、さらにファンがリツイートしたりメンションし合ったりすることで、情報が広がっていったようだ。

フィギュアを販売する企業などもブースに出展
フィギュアを販売する企業などもブースに出展
[画像のクリックで拡大表示]
グッズを販売するブースにはどこも大行列ができた
グッズを販売するブースにはどこも大行列ができた
[画像のクリックで拡大表示]

 一方で、イベントを主催したSMEやアニプラスの工夫もある。その一つがオフィシャルサイトの多言語対応だ。「今回のAGFは韓国での開催だが、オフィシャルサイトは韓国語、英語、日本語の3カ国語で作った。海外のアニメイベントで3カ国語に対応するのは珍しいはず。初開催だからこそ、イベントの価値を高めたかった」(SME海外事業推進グループアジアマーケティングルーム シニアマネージャー 兼 経営企画グループ経営企画チームマネージャーの村田知樹氏)と語る。

 日本語に対応したことは、日本のアニメファンの呼び込みにもつながった。「公式な数ではないが、反応から推測するに日本からも300人くらい来場している」(ジョンCEO)。

 AGFの開催中、主催するSME、アニプラス、出展企業から聞いたのが、「こんなに人が来ると思わなかった」「物販用の商品が売り切れた」といううれしい悲鳴だ。また、インタビューした来場者たちからは「アニメファン同士で盛り上がれるのがとても楽しい」という声を何度も聞いた。AGFの意義と韓国におけるアニメビジネスの可能性を、企業、来場者の双方に印象づけた形だ。2019年の計画は未定だが、AGFの強みとなったステージを核に、まずは大型アニメイベントとしての定着を狙う。