家具店であり、書店でもある──。斬新な大型店が2018年12月7日、横浜に開業した。島忠(さいたま市)がTSUTAYA(東京・渋谷)と手を組んだ1号店で、「寛(くつろ)ぐ」「眠る」など、12のテーマで家具と本、雑貨を組み合わせた。ペットを連れて家具を選べる書店が、新境地を開くか。
港町横浜を代表する観光地みなとみらいから、山下公園を通り過ぎると、左手に「HOME’S」の看板が見えてくる。ホームセンターと家具の複合店舗「ホームズ新山下店」だ。全館リニューアルを終え、外壁に新たに加わったのが「TSUTAYA BOOKSTORE」の文字。家具フロアとして展開してきた2階の2500坪が、島忠とTSUTAYAのコラボ店舗として生まれ変わった。
「TSUTAYA BOOKSTORE ホームズ新山下店」は、家具と書店を組み合わせた新業態店としてオープンした。コンセプトは「ファーニチャー&ブックカフェ」。カフェを併設しているのはもちろん、家具と本、雑貨を、暮らしのシチュエーション別に編集して並べたのが新しい。
「家のように寛げる空間を」と、12種類のコンセプトルームを新設。例えば「寛ぐ」部屋は、「ヨコハマブルー」がテーマである。ブルーのデニム素材を加工したサイドボックスや鮮やかな青のインテリアを効果的に配し、「どっぷりと横浜に漬かりたい」ニーズに応えた。
「癒し」の部屋では、大胆に緑を取り入れた暮らしをイメージした。「眠る」部屋には家族で川の字になって横になれるベッドを置き、プロジェクターで天井に絵本を映し出す使い方を提案する。「育む」部屋では、リビング学習に対応し、低めのソファーを並べた。各部屋には、こうしたテーマに沿った家具の他、関連本や雑貨を配し、実際に暮らしたときのイメージが湧くように工夫されている。
家具店がコトを売るとは?
「島忠は18年で創業60周年を迎えた。家具、ホームセンター業界が苦境に立たたされるなか、新しく、何か変わった提案ができないか、とオープンしたのが今回の売り場だ」(島忠岡野恭明社長)。
島忠の業績は、足踏み状態が続いている。18年8月期の決算は、営業収益が1462億円と前期比で微減。営業利益は98億円で横ばいだったが、純利益は31.5%減の43億円にとどまった。10月には「中期経営計画2021」を発表。その中では、売上高と売上高に対する営業利益率がいずれも低下傾向にある事実が示された。原因として挙げられたのが、「集客力・収益力のある新業態を創り出せていない」という点である。現状を打開すべく、TSUTAYAとフランチャイズ加盟契約を結び、オープンしたのが今回の店舗だ。
「これまでは、家具売り場という考え方から、なかなか脱却できなかった。商品を売る、モノを売るという発想が強く、家具屋でコトを売るとは何だろうと考えたときに、ライフスタイルの提案に思い至った」(岡野氏)。しかし、ライフスタイルとひとくくりにしても、一人ひとり重視するポイントは違う。そこでさまざまなコンセプトルームを作るという発想が生まれた。
特にターゲットにしたのは、小さな子を持つ20~30代のニューファミリーだ。約20万冊の書籍のうち、実に約3万冊を児童書に割き、横浜市内最大級のキッズスペースを併設。芝生付きではだしになって読書ができる。広々としているため、絵本の読み聞かせにも最適だ。
さらに、ボーネルンドなど知育玩具の品ぞろえを拡充。小学校で20年にプログラミング教育が必修化されることを見据え、ボードゲームでプログラミングが学べるコーナーも設けた。12のコンセプトルームのうち、「作る」部屋では、親子で楽しめるワークショップも定期的に開催する。
ペットも連れて家具選び
店内入り口には、カフェ・カンパニー(東京・渋谷)の「WIRED KITCHEN with フタバフルーツパーラー」がある。ここで、コーヒーをテークアウトし、コンセプトルームのソファーに座りながら、家具や本、雑貨をゆっくりと選べる。ちなみに、カフェ内にある椅子などの家具も購入可能だ。
さらに専用のカートに乗せれば、ペットを連れて店内を歩ける。コーヒーを飲みながら、ペットと“散歩”して家具を選ぶという唯一無二の体験ができる。ベッドコーナーでは、横になるだけで体圧が測定できるという、現状で世界に1つだけのシモンズベッドも用意した。
「とにかく店に来てワクワク楽しんでもらえればいい。買ってほしいというよりは、自由にゆっくり寛いでいってください、というスタンス。リアル店舗が存在する意義を、しっかりと伝えたい」(岡野氏)。
TSUTAYA創業の原点に通じる
島忠とTSUTAYAの親会社カルチュア・コンビニエンス・クラブ(CCC)は、17年にTポイントの提携を始めた。コラボ店舗のオープンにより、両社の関係はまた一歩深まる。
家具を並べるのは、CCCにとっても新たな挑戦だが、CCCの増田宗昭社長兼CEO(最高経営責任者)は創業時から「新しい生活スタイルの情報を提供する拠点でありたい」との思いを、企画書につづっていたという。
1983年の創業から35年。「TSUTAYAの書籍・雑誌販売額は年間1400億円を超え、日本で一番本を売るチェーン店になった」(首都圏TSUTAYAの杉浦敬太社長)が、その原点には、今回のコラボ店のように、ライフスタイルの提案という軸があった。
先駆けとなったのは、2011年にオープンした東京・代官山の蔦屋書店だ。本、漫画、雑誌、文庫と売り場を明確に区切るのではなく、料理、旅行、クルマなどジャンル別に書棚を配置した。「スターバックス コーヒー」を併設し、店内でイベントを積極的に展開。こうした売り場づくりは台湾の「誠品生活」が先行していたが、日本ではまだ珍しく、斬新な書店として、瞬く間に世の耳目を集めた。新たなライフスタイル系書店として満を持して挑むのが、家具と融合した今回の店づくりといえる。
ホームセンターの場合は半径3キロが商圏とされるが、島忠の岡野社長は今回のコラボ店の商圏を、半径10~15キロと見る。首都高速道路沿いという立地を生かし、横浜近郊だけでなく、東京都内からも広域集客を図る計画だ。「今回と全く同じ形ではないにしても、ライフスタイルを提案する新しい店舗を、どんどん増やしていきたい」(岡野氏)。その先に、中期経営計画のゴールである営業収益1500億円・営業利益140億円が見えてくる。
モノからコトへ──家具売り場の大転換は吉と出るか。その成否は、島忠のみならず、日本の家具業界全体の未来をも占う。