日本のカルチャーを世界へ発信するYouTubeチャンネル「Archipel」はこのほど、注目度が高まる“VTuber現象”を作り手とファンの双方の視点で読み解く映像を配信。国内外から大きな反響を呼んだ。VTuberはなぜ支持されるのか、映像を制作したアレックス・ザバヴァ氏に寄稿してもらった。

ドキュメンタリー「Binary Skin」は注目を浴びる「バーチャルYouTuber」の実態を描いた
ドキュメンタリー「Binary Skin」は注目を浴びる「バーチャルYouTuber」の実態を描いた

 人間とキャラクターの境目に立つ「バーチャルYouTuber」(以下、VTuber)は多くの読者がすでにご存じだろう。チャンネル登録者数が230万人を超える「キズナアイ」を筆頭に、2016年より国内で人気は急上昇。そのクリエイターの数の成長が続き、現在は5000人を突破している。また、その影響はYouTubeにとどまらず、19年1月に「NHKバーチャルのど自慢」の放映が決まるなど、テレビやアニメーション、音楽、出版などのあらゆる媒体に波紋を呼んでいる。

 海外においても、VTuberが好奇心と注目を浴びており、そのムーブメントが英BBCで取り上げられるなど、より広いオーディエンスに拡散しつつあるようだ。

 新たな視点でその現象を追究すべく、バーチャルクリエイターのみならず、支える技術や企業、そしてメディアや視聴者の目線でVTuber現象を描いたドキュメンタリー「Binary Skin(バイナリー・スキン)」を筆者のチームが制作。その反応も分析しながら、VTuberの実態について言及したい。

 百聞は一見に如かず、詳細内容は映像をご覧あれ。

6億円の資金調達、新たな産業の可能性

 サンリオや花王など、国内でVTuberを活用している企業が相次いでいるなか、VTuberがブランドにとってのコミュニケーション手法、もしくは広報ツールとして利用されているケースが増えつつある。一方、VTuber運営やサポートに参入する企業も増えている。キズナアイをはじめ、多くのVTuberをサポートするActiv8(東京・渋谷)のような支援企業も事業の幅を広げている。同社は「生きる世界の選択肢を増やす」をミッションとして掲げ、代表の大坂武史氏は、VTuberが当たり前な存在になれると期待し、起業した。

 その事業の将来性へ期待も高まる。Activ8は18年8月に6億円の資金調達を果たした。出資元の1社が海外発の投資ファンドのメーカーズファンド(Makers Fund)である。同ファンド共同設立者であるジェイソン・チ(Jayson Chi)氏にVTuberビジネスに対する見解を尋ねたところ、「クリエイティブな表現とインタラクティブな取り組みとして、バーチャルアバターを利用することは現在のインタラクティブエンターテインメント産業におけるビジネスモデルと共通する点があると考えています。その結果、バーチャルYouTuber領域のキープレーヤーがスポンサー広告、有料会員制度、寄付、ゲーム関連の収益化などというさまざまなマネタイズ方法を試行錯誤しており、最終的にエンゲージメント力の高いコンテンツ、最適なビジネスモデル及びプラットフォーム型のビジネスのバランスを果たす企業が業界のリーダーになると確信しています」と話している。

 産業としての可能性を秘めるVTuberがもっぱらクリエイターに支えられているのは、他のコンテンツ産業と同様だ。さて、仮想な世界におけるクリエイティブには、どのようなポテンシャルがあるのだろうか。

トランスヒューマニズムを促す媒体

 技術もしくは科学の力で人間の能力を拡張する思想である「トランスヒューマニズム」。その言葉を世の中で初めて提唱したのが英国の学者のジュリアン・ハクスリー氏であり、彼は『すばらしい新世界』という代表的なSF小説の著者、オルダス・ハクスリーの兄でもある。

 VTuberに当てはめると、技術によって最も拡張されるのが「表現力」ではないだろうか。Binary Skinではキズナアイに取材し、登場してもらった。彼女はアバターを利用することによって自身のコンプレックスを乗り越え、表現力が高まると述べた。

 一方、VTuberの関連事業に今後100億円を投資するグリーのGREE VR Studio Labに 所属する白井暁彦博士は、今まで見た目や声にだまされ人間の本質を見ていなかった、と分析する。海外からVTuberを見た人は、技術を活用して表現力を引き出すことを実にポジティブな要素として捉えており、海外でも広がるべきだ、と声を上げる。Binary Skin公開から1カ月足らずで国内外から寄せられた200件以上のコメントにも、こうした声が多く見られた。

 VTuberが登場した当初はその名の通り、視聴者とコミュニケーションを意識したYouTuber的な要素が高かったクリエイターが、現在はゲーム、歌を披露するなど多様化。さらにはVTuber「鳩羽つぐ」のように、はかない雰囲気を持つ少女の生活の様子が断片的に流される、クリエイティブなストーリーテリングにまで広がっている。リアルな人が登場するYouTuberと異なり、バーチャルという媒体色はこうした多様な創造性を促進することに加えて、匿名性も大きな意味を持つ。

 「人はキャラクターの裏にいる人物ではなく、キャラクターそのものに魅力を感じている」

 映像のローカライズで海外のVTuberコミュニティーの拡大に貢献しているLoserbait氏はこう話す。意外に思うかもしれないが、VTuberの匿名性はクリエイター以上に視聴者にとって大事なものとなっており、キャラクターとの距離を縮めることに役立っている。

 さて、『すばらしい新世界』では、機械文明の発達の末に行き着いた“デストピア”な社会が描かれている。アバターに熱狂するVTuberファンの未来に同様の疑問を呈する声もあるが、私はバーチャルな世界とその住人の関係性は、人間社会の延長線の一つとして捉え、より可能性を開くものとして見ている。匿名性やアバターなどといったバーチャル世界が人間のポテンシャルを大きく引き出せるはずだ。今後も、ビジネス面とクリエイティブ面と共に、そのさらなる成長を期待していきたい。

 なお、Binary Skinでは、本記事で紹介した方以外にも、国内外のVR/AR/MR最新情報を伝えるメディア「Mogura VR」で副編集長を務める永井良友氏などにもご協力いただいた。