ソニーマーケティングがマーケティング業務のイノベーションに挑んでいる。改革以前と比べて、リターゲティング広告については半分のコストでCVR(成約率)が約3倍に高まり、ROAS(広告費用対効果)を約2倍に高めることに成功した。

 ソニーマーケティングが進めるマーケティングイノベーションのポイントは2つある。1つは、同社が「インサイトの逆算」と呼ぶ手法で顧客のスコアリングを精緻化し、優良顧客を発見しやすくしたこと。もう1つは商品・サービスの認知、興味関心、購入、そして継続購入(優良顧客化)へと至るカスタマージャーニーを「ループ」状の概念で捉えることで、マーケティングのあり方の見直しを進めたことだ。

 一連の改革を主導したカスタマーリレーション部マーケティングマネージャーの橋本好真氏によると、インサイトの逆算とは、「他者からは直接、把握できないインサイトを、個々の訪問者の(サイト上の)行動から推測する」ことを意味するという。

8つの行動をモニター

 「データをどれだけ集めても、個々のインサイト自体は捉えられないが、訪問者は自らのインサイトに従って(サイト上で)行動する。であれば、その行動をデータで捉えることにより、態度変容を示すインサイトを(ある程度)推測できるはず」(橋本氏)。こうした仮定に基づき、ティーリアム(東京・港)のデータ統合プラットフォーム「Tealium Universal Data Hub」を導入。訪問者のインサイト推測、スコアリングのPDCA(計画、実行、確認、行動のサイクル)を回して改革を進めた。

 ティーリアムのツールでスコアリングするために、ソニーマーケティングがモニターしている「ユーザー行動」は、8つある。

ソニーマーケティングがモニターしている8つの「ユーザー行動」
ソニーマーケティングがモニターしている8つの「ユーザー行動」
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 それは、(1)どこから流入してきたか(流入元)、(2)サイトにどれほど滞在していたか(滞在時間)、(3)どれだけ多くのページを閲覧したか(閲覧ページ数)、(4)どれだけ深い階層のページを見たか(閲覧階層)、(5)製品の機能を紹介する動画を閲覧したか(特定動画閲覧)、(6)機能やオプションを選ぶなどして購入価格をシミュレーションしたか(シミュレーション)、(7)商品比較、そして(8)絞り込みである。

購入に近いと推測できる行動に加点

 流入元については、例えば「検索連動型広告」から流入してきた訪問者群をひとくくりに評価するのではなく、検索ワードが漠然とした「広義のキーワード」か、個別の商品名などの「指名キーワード」か、さらに具体的な商品購入をイメージした「購入キーワード」なのかなどを区別。より購入に近い行動という観点で、広義よりも指名、指名よりも購入キーワードでの流入に、より多くの加点をしている。

 滞在時間にしても、サイト全体での延べ時間でスコアリングするだけでなく、どのページに何秒いたかによって、スコアを調整している。例えば総滞在時間が同じ60秒の人でも、「購入後のアフターサポート」のようなページを閲覧していれば、購入に対してより真剣に検討しているのだろうと推測。加点するといったイメージである。

 同様に、製品のオプションを選ぶことで算出する購入価格シミュレーションや商品比較なども、購入に対する意欲、意向が強いと判断できるアクションである。このように8つの観点でユーザーのサイト上の行動、態度変容をデータで把握することで、スコアリングの精緻化を進めている。

複数タッチポイントを経て顧客を徐々にロイヤル化する概念「ループ状のカスタマージャーニー」
複数タッチポイントを経て顧客を徐々にロイヤル化する概念「ループ状のカスタマージャーニー」
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 2つ目のポイントである「ループ状のカスタマージャーニー」とは、上図にあるように、バナー広告やリスティング広告などに接触してソニー製品を購入したカスタマーに対して、さらにサイトでパーソナライズしたコンテンツを提供したり、リターゲティングメールを送信したりする。こうしたプロセスを繰り返すことで複数回の購入へと誘い、最終的にソニーファン(優良顧客)になってもらおうという概念を示したものだ。

 ソニーマーケティングが導入したTealiumは、ユーザーのサイト上の行動を捉えてスコアリングする機能だけでなく、Google、Yahooをはじめとする広告プラットフォームへのネット広告の出稿、SalesForceなどのCRM(顧客関係管理)ツールとの連携、さらにウェブ・パーソナライゼーション・ツールなどにも事前に決めた施策をジッすするトリガーを送るなどして連携できる。

 このループの各ポイントで、ユーザーの行動データに基づいて捉えた態度変容に応じて、事前に決めたりナリオに基づくパーソナライズしたデジタル施策を実施することで、冒頭で紹介したような成果を挙げている。橋本氏は「ソニー製品を1回買って終わりの一見様(いちげんさま)にならないよう、さらに打ち手の最適化を進めていく」と語った。