さまざまな交通手段を統合して次世代の移動サービスを生み出す「MaaS(モビリティ・アズ・ア・サービス)」の日本での普及促進を目指す初の専門団体が、12月に設立されることが日経クロストレンドの取材により明らかになった。MaaSをめぐっては、10月にトヨタ自動車がソフトバンクと新会社を設立し、東日本旅客鉄道(JR東日本)、小田急電鉄なども取り組みを強化している。11月からはトヨタと西日本鉄道が、日本で初めて本格的なMaaSの実証実験を福岡エリアで始めた。産官学の連携をリードする新団体の設立を機に、「日本版MaaS」の実現に向けた動きが加速しそうだ。
日本初のMaaS普及促進団体である一般社団法人「JCoMaaS(Japan Consortium on MaaS、ジェイコマース)」は、2018年12月3日に始動する。
代表理事を務めるのは、都市交通政策の第一人者として知られる横浜国立大学理事・副学長の中村文彦教授。理事には、東京大学モビリティ・イノベーション連携研究機構長であり、生産技術研究所次世代モビリティ研究センターの須田義大教授を筆頭に、日本の成長戦略を議論する政府の未来投資会議(議長=安倍晋三首相)で初めてMaaSを紹介した計量計画研究所(IBS)の牧村和彦氏、情報通信分野に造詣の深い日本情報経済社会推進協会(JIPDEC)の坂下哲也氏、JR東日本のモビリティ戦略策定に従事し、11月に独立して新会社のMaaS Tech Japanを立ち上げた日高洋祐氏らが名を連ねる。
牧村氏と日高氏は、日経BP社が11月22日に発行した書籍『MaaS モビリティ革命の先にある全産業のゲームチェンジ』の著者であり、JCoMaaSには日本でのMaaS実現の旗振り役となる強力なメンバーがそろった形だ。
そもそもMaaSとは、改めて解説すると、あらゆる交通手段を統合し、その最適化を図ったうえで、マイカーと同等か、それ以上に快適な移動サービスを提供する新しい概念。日本では米ウーバーテクノロジーズに代表される配車サービスなどの単一のモビリティサービスを指してMaaSと呼ぶ向きもあるが、それはMaaSを構成する一要素でしかない。利用者視点に立って複数の交通サービスを組み合わせ、それらがスマホアプリ1つでルート検索から予約、決済まで完了し、シームレスな移動体験を実現する取り組みが、グローバルスタンダードで示すところのMaaSといえる。
それは同時に、シェアリングサービスや自動運転といった個別のモビリティサービスの発展、進化と同期するもの。それらが相まって交通手段の最適化が進展することで、都市の渋滞・環境問題や交通事故の解消、あるいは過疎化、高齢化が進む地方での“足”の確保など、社会的なインパクトも大きなものになる。JCoMaaS代表理事の中村文彦氏は、「複合的な本コンソーシアムで、産官学および多様な交通事業者、専門家、実務家の連携があれば、日本の現代および近未来の社会課題の解決に貢献できる、価値あるMaaSが実現できるのではないか」と、MaaSの社会実装に期待を寄せる。
産官学のMaaSエコシステムを構築
JCoMaaS設立の目的は、「日本国内でのMaaS関連の産官学での知見の共有を行い、移動や都市の改善、施策、技術革新につなげること。海外で実装が進む自動運転×ライドシェア×MaaSによる都市の高度化のなかで、日本でも国際競争力のあるMaaSを作り出すこと」にある。既に欧州では、約60の民間企業、省庁、自治体が参加する「MaaSアライアンス」が組織されており、官民でMaaSを強力に推進している(参考記事「『MaaSは公共交通の利用を促進する』先行する欧州の経験則」)。
JCoMaaSは“日本版MaaSアライアンス”ともいえる組織で、これから日本でMaaSの実現を目指す産官学のプレーヤーを会員として募り、専門的なワーキンググループやセミナーを通して議論を深めるなかで、ノウハウや知見を共有する場としての役割を担う。競合関係にある企業同士でも、標準化するとスムーズに社会実装が進められたり、早めに議論することでサービス連携を模索できたり、協調領域を見いだしながら産官学のエコシステムを構築し、より高いレベルのMaaS実現を目指す。企業間の競争ステージを上げることで、世界でも類を見ない最先端のMaaSを日本発で創出していく狙いだ。
JCoMaaS理事の須田義大氏は、「MaaSの社会実装には、自動車メーカーや鉄道、バス、タクシー、地域、各産業によるエコシステム構築が必要。それにより、自動運転技術やシェアリングなど新しい技術やサービスも効果を発揮しやすくなる。JCoMaaSが、そのエコシステム構築の一助になればと考えている」と話す。
専門ワーキンググループは、都市交通政策やモビリティ、情報通信、MaaSサービスデザイン、システムなどをテーマに月1回開催する計画。そこでの議論を取りまとめて会員向けにレポートし、海外事例なども適宜報告される。
JCoMaaSの会員は、自動車メーカーや鉄道会社、バス会社、タクシー会社といったモビリティ関連にとどまらず、地域交通の再構築を目指す自治体、シェアリングサービスやMaaS関連のシステム構築などを担うITプレーヤー、MaaS実現によってビジネスチャンスが生まれる不動産・住宅、エネルギー、観光、小売り、商社など、幅広い産業からの参加が見込まれる。既に大手鉄道会社や自動車会社、金融機関など、複数の有力企業が参加意向を示しているという。JCoMaaSは政府とも連携しながらMaaS実現に向けた環境整備を行う構えで、日本でMaaSビジネスを展開し、成功するための“近道”となりそうだ。
日時:2018年11月29日(木)
【第1部】12:30~13:10(満席)
【第2部】13:30~14:10
登壇者:牧村和彦氏(計量計画研究所)、日高洋祐氏(MaaS Tech Japan)
会場:東京国際フォーラム(東京・有楽町)
主催:日経BP社
企画:日経クロストレンド
受講料:無料(会場にて新刊『MaaS モビリティ革命の先にある全産業のゲームチェンジ』をお買い求めいただけます)
