デジタル戦略のコンサルや広告のSEO対策・実施を手掛けるプリンシプル(東京・千代田)は、2011年の創業から5期連続で増収増益を達成、18年9月期も増収増益を果たし好調だ。楠山健一郎社長は、経営ツールとしてロボットを活用している。社長自らロボット活用している理由を聞いた。

 プリンシプルは毎日、朝会を開く。楠山氏がロボットで朝会に参加するというので、その様子を見学させてもらった。大きなガラス窓から入る明るいオフィス内を、支柱型のロボットがうろうろしている。“頭”の部分はiPadがはめ込まれており、楠山氏の顔が映っている。ロボットの足に当たる部分はローラー型の可動部になっており、この“足”で自在に動き回る。任意の場所に移動しているので、あたかもそこに楠山氏がいるように感じられる。

朝会にロボットで参加する楠山氏(中央、スクリーン前に立つ男性の右側)。小型の可動式掲示板のような形だ。プリンシプルは15分程度の朝会を毎朝開催し、クレド(理念を短くまとめたもの)を唱和。グループごとに最近興味を引かれたことや気づいたことを話し、その後、全員の前で数人がプレゼンする
朝会にロボットで参加する楠山氏(中央、スクリーン前に立つ男性の右側)。小型の可動式掲示板のような形だ。プリンシプルは15分程度の朝会を毎朝開催し、クレド(理念を短くまとめたもの)を唱和。グループごとに最近興味を引かれたことや気づいたことを話し、その後、全員の前で数人がプレゼンする

 楠山氏は業務を海外へ拡大するため、普段は米シリコンバレーのオフィスに勤務している(今回は取材のため、来日時にロボット活用を再現してもらった)。ロボットに“乗り移った”楠山氏は、朝会だけではなく、複数人のミーティングや、社内で開くランチ会、夜の軽食会などに参加する。社内を“歩き回る”ことによって、気軽に社員に話しかける。ロボットはそうしたコミュニケーションに大きく役立っているという。

打ち合わせしていたメンバーに話しかける(左、植物の前)
打ち合わせしていたメンバーに話しかける(左、植物の前)

経営ツールとして使う

 楠山氏は、ロボットの活用を「マネジメントツール」とみている。直接社員に声をかけたり、社員の課題解決に手を貸したり、社長という自分の前で社員が発言しやすくしたりすることが「社員、ひいては会社のパフォーマンスに大きく連動する」。それが結果的にはプリンシプルの競争力アップに役立つと考えている。単なる思い付きやおもちゃとしてロボットを使っているわけではないのだ。

 指示なら、メールやチャットツールで済ませることは可能だ。画像を映すならウェブカムやテレビ電話でも打ち合わせできるし、用件は済ませられる。だが実際は、そうしたツールの利用シーンは会議室などの決まった場所に固定されてしまい、設定されたメンバーと同じ背景しか目に入らず、必要最低限のやり取りになりがち。終了すればその瞬間に画面は消され、コミュニケーションは終わる。

 その点、ロボットにはそうしたツール以上のメリットがある。楠山氏は「社内でうろうろするのは、無駄なように見える。だが社員に近寄り、声をかけ、会話できる。そこからアイデアが交換できればビジネスチャンスにつながるかもしれない。楽しそうといった感情も見える。得る情報が格段に多くなる」と話す。

社員からも自然な表情が見える

 感情が目に見える点も重要だ。楠山氏は「EQ」(感情指数、エモーショナルインテリジェンス・クオーシェント)という言葉を持ち出す。IQといわれる知識の高さと異なる“頭の良さ”のことで、自分の気持ちを知り、感情を適度に抑制したり、楽観的になったり、人に共感や協力ができる能力のことだ。マネジメントにEQを取り入れ、感情にも向き合うことで課題解決に結びつく場合があるとされている。

 従業員にとっても、うろうろする社長の自然な表情が見えることで良い影響が出ているという。ある従業員は「社長は(ロボットを使っていると)うれしそうな顔をしている。その表情自体が、社員に良い影響を与えるのではないか」と述べた。

デスクにいる従業員に「最近、仕事はどうですか」と気軽に話しかける楠山氏。笑みがこぼれる。座っている人の目の高さに合わせ、支柱の高さを変えられる
デスクにいる従業員に「最近、仕事はどうですか」と気軽に話しかける楠山氏。笑みがこぼれる。座っている人の目の高さに合わせ、支柱の高さを変えられる

海外売り上げ50%を目指す

 ロボット活用に至ったのには、楠山氏が経験した、会社の業績悪化にある。

 2011年からの創業ステージを経て業績が安定したとみて、楠山氏は16年に米シリコンバレーへと引っ越した。プリンシプルを米ナスダックへ上場するという大きな目標があるのと、念願だった「海外で働く」ことを実現するためだ。シリコンバレーを選んだのは、GoogleやAppleなど有名IT企業が集まっている、誰もがチャレンジでき、それを受け入れる土壌である、住みやすさや多様性に富んでいる、治安がいい、などが理由だ。

 だが渡米前に2000万円ほどだったプリンシプルの営業利益が一転、6期にはマイナス3000万円になる。初の赤字決算に驚いた楠山氏は、シリコンバレーから急きょ、日本に戻らざるを得なくなった。

プリンシプルの楠山健一郎社長。国際基督教大学を卒業後、シャープ、サイバーエージェント、トムソン・ロイターなどを経て、2011年プリンシプルを設立
プリンシプルの楠山健一郎社長。国際基督教大学を卒業後、シャープ、サイバーエージェント、トムソン・ロイターなどを経て、2011年プリンシプルを設立

 同氏は業績悪化の理由を「自分が渡米でいなくなったからというより、カバーに入った優秀な人物が私の代わりに社長業に専念せざるを得ないため現場に関わることができない。それで受注件数も減っていった」と分析する。他のポジションでも同様のことが起こった。業績の低迷は、それまでの組織体制が崩れてしまったことが要因だった。「属人的な50人までの組織」の弱さだと気づいた。

 それから楠山氏は、自分や特定の人がいなくても会社が不安定にならないよう、「仕組み化」に着手した。具体的には権限委譲して責任を与えたり、経営陣が考える会社のルールを明文化したりすることだった。それがないと社員は優先順位が付けられず、正しい行動に移れないと考えたのだ。

 メンバーと議論して、会社のミッションの他、3年後、10年後の目標、業界ポジションや勝ちパターン、働き方などをまとめた。例えば18年9月30日時点は従業員数60人から、海外拠点を増やし10年後はグループ売り上げ300億円、400人体制で海外売上比率50%を突破するという目標を持つ。明文化した後は、これらに沿って誰がどう取り組むのか決めた。

 仕組みは結果を生んだ。1年ほどで業績は、楠山氏が渡米する前のレベルに戻った。18年9月期は営業利益が1億円を超えたという。楠山氏が「もう生身の自分は日本にいなくてもいい」として18年5月に購入したのが、前述のロボットだった。

 現在、楠山氏は1カ月のうち、ほぼ1週間を日本、残りの3週間をシリコンバレーで過ごしている。もともと思い描いていた理想に近づいている働き方だと話す。

ロボット面接に驚く候補者

 プリンシプルは現在、積極的に人材採用する拡大期に入っているという。ただ従業員が増えると、社長は一人ひとりと対応できる時間や回数が減り、物理的、心理的に距離ができる。楠山氏は、何気ない会話でもロボット活用はその“距離”を埋める一助になり、適切だと感じている。

オフィスをめぐる。“足元”が下向きのカメラを通して見えるので、イスなどの障害物をよけられる
オフィスをめぐる。“足元”が下向きのカメラを通して見えるので、イスなどの障害物をよけられる

 楠山氏はロボットを採用面接にも利用している。会社のブランディングの一環として先進的な印象を持ってもらうためで、楠山氏自ら、米国からロボットを通じて面接相手に話しかける。「例外なく驚いてもらえる」という。

 プリンシプルでは、自律的に仕事できる人材を重要視して採用する。同社では週1日のリモートワーク制度があり、自ら働き方を管理する文化が醸成されているという。楠山氏自らがシリコンバレーに行ったように、従業員には、やりたい仕事に取り組み、住みたい場所へ行けるよう実現してもらいたいと考えている。そうすることで収益が上がれば、個人と会社がウィンウィンの状態になるからだ。そうした考えから、楠山氏は今後、海外拠点をどこに置くかは「社員が行きたい、働きたいところを考慮して決めたい」と話す。そのためにもコミュニケーションは重要であり、ロボット利用の着想につながったのだ。

 「社長ロボット」は職場にすっかりなじんだ。楠山氏は「今では会話が対面だったのか、ロボットだったのか忘れるほど」と笑う。

 利用しているロボットは、米ダブルロボティクスの「ダブル」。iPadをはめ込む上部とカメラキット、一脚のようなスティック、円筒形をしたモビリティ制御の台で構成する。iPhone/iPad、あるいはブラウザーのChromeがインストールされているPCのアプリから動かす。高さは120~150cmの間で自動調整できる。重さは約7kg。

 楠山氏はこのロボットのことを米国の雑誌で知ったという。同様のサービスを提供する2~3社を探してレビューを読み、比較した。ダブルロボティクスにデモを申し込んで実機を使ってみたところ、自らの分身が乗り移ったように感じられたという。ロボットの足に当たる部分がコンパクトで移動や操作がしやすく、狭い場所もあるオフィスで取り回ししやすいのも決め手だった。支柱を押しても倒れず、起き上がりこぼしのようにスッと立ち上がる。

 価格は最安値で3000ドル(iPadは利用者側で用意する必要がある)。ケースや保証などはオプションで、月額利用料はなく、買い切りになる。

 購入に当たっては、楠山氏はプリンシプルの他の経営陣に対し「道楽にならないよう、継続して使えるか、投資になるか」の点を説明したと話す。