社員からも自然な表情が見える

 感情が目に見える点も重要だ。楠山氏は「EQ」(感情指数、エモーショナルインテリジェンス・クオーシェント)という言葉を持ち出す。IQといわれる知識の高さと異なる“頭の良さ”のことで、自分の気持ちを知り、感情を適度に抑制したり、楽観的になったり、人に共感や協力ができる能力のことだ。マネジメントにEQを取り入れ、感情にも向き合うことで課題解決に結びつく場合があるとされている。

 従業員にとっても、うろうろする社長の自然な表情が見えることで良い影響が出ているという。ある従業員は「社長は(ロボットを使っていると)うれしそうな顔をしている。その表情自体が、社員に良い影響を与えるのではないか」と述べた。

デスクにいる従業員に「最近、仕事はどうですか」と気軽に話しかける楠山氏。笑みがこぼれる。座っている人の目の高さに合わせ、支柱の高さを変えられる
デスクにいる従業員に「最近、仕事はどうですか」と気軽に話しかける楠山氏。笑みがこぼれる。座っている人の目の高さに合わせ、支柱の高さを変えられる

海外売り上げ50%を目指す

 ロボット活用に至ったのには、楠山氏が経験した、会社の業績悪化にある。

 2011年からの創業ステージを経て業績が安定したとみて、楠山氏は16年に米シリコンバレーへと引っ越した。プリンシプルを米ナスダックへ上場するという大きな目標があるのと、念願だった「海外で働く」ことを実現するためだ。シリコンバレーを選んだのは、GoogleやAppleなど有名IT企業が集まっている、誰もがチャレンジでき、それを受け入れる土壌である、住みやすさや多様性に富んでいる、治安がいい、などが理由だ。

 だが渡米前に2000万円ほどだったプリンシプルの営業利益が一転、6期にはマイナス3000万円になる。初の赤字決算に驚いた楠山氏は、シリコンバレーから急きょ、日本に戻らざるを得なくなった。

プリンシプルの楠山健一郎社長。国際基督教大学を卒業後、シャープ、サイバーエージェント、トムソン・ロイターなどを経て、2011年プリンシプルを設立
プリンシプルの楠山健一郎社長。国際基督教大学を卒業後、シャープ、サイバーエージェント、トムソン・ロイターなどを経て、2011年プリンシプルを設立

 同氏は業績悪化の理由を「自分が渡米でいなくなったからというより、カバーに入った優秀な人物が私の代わりに社長業に専念せざるを得ないため現場に関わることができない。それで受注件数も減っていった」と分析する。他のポジションでも同様のことが起こった。業績の低迷は、それまでの組織体制が崩れてしまったことが要因だった。「属人的な50人までの組織」の弱さだと気づいた。

 それから楠山氏は、自分や特定の人がいなくても会社が不安定にならないよう、「仕組み化」に着手した。具体的には権限委譲して責任を与えたり、経営陣が考える会社のルールを明文化したりすることだった。それがないと社員は優先順位が付けられず、正しい行動に移れないと考えたのだ。

 メンバーと議論して、会社のミッションの他、3年後、10年後の目標、業界ポジションや勝ちパターン、働き方などをまとめた。例えば18年9月30日時点は従業員数60人から、海外拠点を増やし10年後はグループ売り上げ300億円、400人体制で海外売上比率50%を突破するという目標を持つ。明文化した後は、これらに沿って誰がどう取り組むのか決めた。

 仕組みは結果を生んだ。1年ほどで業績は、楠山氏が渡米する前のレベルに戻った。18年9月期は営業利益が1億円を超えたという。楠山氏が「もう生身の自分は日本にいなくてもいい」として18年5月に購入したのが、前述のロボットだった。

 現在、楠山氏は1カ月のうち、ほぼ1週間を日本、残りの3週間をシリコンバレーで過ごしている。もともと思い描いていた理想に近づいている働き方だと話す。