イッセイ ミヤケは2018年11月15日、ホリデーシーズン限定で手紙と一緒に贈るコサージュ「FLORIOGRAPHY」を発売した。昨年に続く第2弾で、今年はバリエーションを追加した。プロダクトの背景にある「ストーリー」を新しい価値として消費者に伝えていくデザインだ。

FLORIOGRAPHYは、17年11月に「一輪の花に言葉を添えて贈る」というコンセプトで誕生したギフト商品のシリーズ。商品名は、花言葉を意味する英語だ。第2弾となる今シーズンも、昨年同様、イッセイ ミヤケのデザイナー、宮前義之氏とTakramのマネージングパートナーでコンテクストデザイナーの渡邉康太郎氏が共同で開発した。
高温の蒸気を当てると、折り目が出現するテキスタイル「Steam Stretch」を使って架空の花をデザイン。包み紙はメッセージカードになっており、メッセージを書き出すきっかけになるようなキーワードがプリントされている。
同商品の特徴は、「いつもは言葉にできない思いを、花に託して贈る」という体験をデザインした点にある。贈り手が包み紙の内側にメッセージを書くという一手間を加えることで、商品は完成する。店頭に並んでいる商品は、いわば未完成の状態だ。
「昨シーズンの同シリーズは予想以上の反響だった」と宮前氏は語る。恋人や夫婦などのプレゼント用の他か、友達や家族、お世話になった方などに贈る用途での購入も少なくなかった。そこで今シーズンは、「一輪の花に言葉を添えて贈る」というコンセプトやパッケージなどの仕掛けは基本的に変えず、「花のデザインやアイテムの種類、色などを改良して、より多くの人に親しんでもらえるようにした」(宮前氏)。

例えば、花の形崩れを防ぐために、テキスタイルの糸を太くしたり、織り方を変えたりした。また、男性向けに贈るニーズを想定し、色数を増やした。渡邉氏は「色数を増やすことは、単に昨年と装いを変えるためだけではなく、受け止める感情の幅を広げる効果もある」と説明する。商品のカラーバリエーションを増やすことで、恋心や愛情はもちろん、友情や感謝など、多様な気持ちを込めることができる。

半透明の紙で読みたくなる心理を刺激
昨年の包み紙は、白一色だったが、今年は中身がうっすら透ける半透明の紙に変更した。その狙いは「次の行為にいざなうこと」(渡邉氏)にある。包み紙の内側に書かれたメッセージが、うっすら透けて見える。贈られた人は中身が気になり、それを開いて読んでみたくなる。そうした感情を引き出すために「内側にメッセージが書かれていることをさりげなく伝達することが大切。作り手である我々から商品を贈り手へ届け、それが受け取り手に渡る。この商品を通してうれしいサプライズがリレーされていく体験を目指した。自分のことを考えながら、ものや言葉を選んでくれた時間はうれしいもの。筆跡からも相手の気持ちが伝わる」と渡邉氏は話す。
ものが売れにくい時代になっている。プロダクトの性能や品質といった完成度が高いだけでは、消費者からの共感を得られない。「プロダクトの背景にあるストーリーを新しい価値として消費者に伝えていくことが作り手にとって重要になる。ものを通じて、新しいコミュニケーションを生み出すことは今後、ものづくりをするうえでのポイントになるはず」と宮前氏は語る。




(写真/陶山 勉)