ソフトウエアプログラマーとしてWindows95を世に出し、起業家、文筆家としても活躍する中島聡氏が2018年11月20日、AI(人工知能)の今後を語るトークイベントに登壇した。コンサルタントの松本徹三氏と対談形式で行われたもので、AIが成熟した時代の「人間の選択」がテーマ。若年層に行動してもらいたいという思いから中島氏が開催しているイベントで、今回が3回目。
松本氏はクアルコムやソフトバンクモバイルなどのIT企業の経営に携わり、現在はコンサルティングを手掛ける。
対談は、人間にとって政治的に理想のAIがどういうものか、AIがどのような進化をたどるのか、AIが世界を“統治”するなら、だれがそれを主導するのか──など多岐にわたった。松本氏は「(AIの開発は)時間との戦いだ。技術系の人は倫理や哲学を、文系の人は法制度などを考え、みなで取り組んでほしい」と話した。
この対談は、中島氏が8月に設立した一般社団法人「シンギュラリティ・ソサエティ」が主催した。

エンジニア、起業家
今すべきは「行動を起こすこと」
8月下旬に開催された初回は、中島氏と、「i-modeを世の中に送り出した人物」として知られる夏野剛氏が対談した。夏野氏は慶應義塾大学政策・メディア研究科特別招聘教授。中島氏と共に、同団体が運営するオンラインサロンでメンターを務める。
「自動運転車と街」「自動化と社会保障、教育」などを議論するなか、中島氏は「バス2.0」(乗り合いバスサービス)を提案した。例えば自治体が高齢者に(ボタンが1つだけの)Amazon Dash Buttonのようなデバイスを配り、病院へ行きたい高齢者がそれを一押しすると、人間が運転するバスがピックアップに来るというイメージだ。
2回目は10月、中島氏と若手の経済学者である井上智洋氏が、社会保障の1テーマであるベーシックインカム(所得にかかわらず一定の現金を支給すること)について議論した。賛否両論が多い政策だが、中島氏はベーシックインカムの導入で井上氏と意見が同じだった。低コストの経済政策のうえ、お金が回れば活力が生まれるからだ。
3回の対談に共通するのは、中島氏の「このままでは日本は“ゆでガエル”になる」という危機感だ。そして今すべきは「行動を起こすこと」。若い世代に自らが考え、シンギュラリティの未来を明るいものにしてほしいという期待をかける。自らを「NTTという(安定した)企業に入ったがすぐやめて、魅力的に映ったマイクロソフトに入社した、変わった人間。(NPOで)変わった人間を増やしたい」と話した。
第4弾は11月26日、著名エンジニアの増井雄一郎氏とエンジニアの未来に関して対談する。対談は今後も月1回程度、開催していく予定だ。
共感する仲間、若い世代が期待
シンギュラリティ・ソサエティのミッションはデジタルネーティブである若い世代に、社会課題の解決を自ら考え実現するのを支援することにある。
同団体が運営するオンラインサロンで、社会格差や少子化をはじめとするさまざまな課題の解決法を提起して、仲間と議論してもらう。そして随時開催するオフ会なども活用してコミュニティーを形成することを狙う。このなかで中島氏がビジネス設計や起業支援に関するアドバイスをしていく。将来的にシンギュラリティ・ソサエティでは、プロジェクトインキュベーションやハッカソンなど幅広い活動を予定する。
会員は、自身が問題意識として持っているテーマと、実際に取り組む計画などをサロンで活発に議論し始めた。
電機メーカーのエンジニアとして都内で勤務している酒井大輔氏(30代)は次世代の公共モビリティサービスとなる「バス2.0」向けの高齢者用専用デバイスとサービス案を発表した。「ITリテラシーの低い層が置き去りにされているが、それらの方々にもサービスを届ける方法はあるはず」と言う。一方、ミュンヘン在住のエンジニア、小泉正剛氏(同)は選挙民に対する政治家のコミュニケーション活動の方法に疑問を呈する。「情報伝達手段が街頭演説やビラ、ポスターで、100年前からあまり進化しておらず非効率。政治家の行動を可視化するサービスのプロトタイプを作成している」。
同団体への参加で「多角的な視点を得て、アイデアのコラボを楽しみたい」(酒井氏)、「社会課題に対する意識の高い人がいるため、共感する仲間を集められる」(小泉氏)と期待している。
オンラインサロンに入会するためには、議論したいテーマについての小論文の提出が必要。会員数は100人が目標で、現時点で既に74人が入会している。
日時 11月28日(水)~29日(木)
会場 東京国際フォーラム(東京・有楽町)
※中島氏の講演はすでに締め切っていますが、当日キャンセルのお席があれば聴講できる場合があります