国内最大級の人気を誇るアイドルグループ乃木坂46が今年12月、中国・上海のメルセデス・ベンツ・アリーナで初のアジアライブを敢行する。実現の立役者となったのが、日本のベンチャー企業・アクセスブライト(東京・千代田)だ。

 アクセスブライトは、「日本のIP(知的財産)を中国で展開する」を掲げ、2011年にゲームメーカー大手のセガ出身の柏口之宏氏が起業。日本のゲームのローカライズを皮切りに、日本のコンテンツを原作とした中国向けのスマホゲームの制作および配信を始めた。16年にはアニメーション映画『君の名は。』を配給し、中国における邦画歴代1位となる興行収入5.7億元(約94億円)をたたき出した。

 2017年からライブ事業にも進出。同7月より東野圭吾の小説を原作とした舞台『ナミヤ雑貨店の奇蹟』を上演(中国国内14カ所)し、5万人を動員。前出の乃木坂46の初海外公演まで手掛けるなど、日本で最旬のエンターテインメントの中国展開を軒並み成功に導いている。

 長きにわたりチャレンジが続いてきた日本のエンターテインメント作品の海外進出だが、特に中国は、海賊版の問題もあり成果を上げるのが難しいとされてきた。なぜ、アクセスブライトは、日本のメジャーコンテンツを立て続けに広められたのか。代表の柏口之宏氏にその秘訣を聞いた。

アクセスブライト柏口之宏代表取締役。セガ・チャイナを設立、初代董事兼総経理兼CEOに。2007年、独立しアクセスブライトを設立。現在、同社の本社は東京・大手町に、中国法人は上海にある(写真提供/波多野絵理)
アクセスブライト柏口之宏代表取締役。セガ・チャイナを設立、初代董事兼総経理兼CEOに。2007年、独立しアクセスブライトを設立。現在、同社の本社は東京・大手町に、中国法人は上海にある(写真提供/波多野絵理)
中国随一の規模を誇る上海メルセデス・ベンツ・アリーナ(最大1万8000人収容)で12月1日、海外初単独公演を行うことが決定した乃木坂46 (c)乃木坂46LLC
中国随一の規模を誇る上海メルセデス・ベンツ・アリーナ(最大1万8000人収容)で12月1日、海外初単独公演を行うことが決定した乃木坂46 (c)乃木坂46LLC

ゲームから学んだ「中国でビジネスを成功させる肝」

 アクセスブライトが、起業当初から中心に行っていたのがゲーム事業だ。最初の転機は08年頃。カプコンの「ストリートファイター」、ガンホー・オンライン・エンターテインメントらの「エミル・クロニクル・オンライン」と2つの大きなタイトルの中国におけるローカライズを成立させたのが始まりだった。

 「両作品とも1度は日中で契約が取り交わされたが、監修の段階で破談になって、日本人が経営する弊社にチャンスが回ってきたんです。その後、『クレヨンしんちゃん』や『ハローキティ』など、日本のキャラクターを原作として権利を借り受け、ゲーム自体は中国でゼロから開発するようになりました」(柏口氏、以下同)

 日中間のビジネスにおける「破談」は、なぜ起こるのか? 柏口氏は、ゲーム事業から学んだこととして、「まず、IP(キャラクターなどの知的財産)に対する考え方が、日本と中国とでは大きく違う点」だと明かす。

 「中国にとってIPは、2~3年でリクープ(投資を回収)するもの。高額なライセンス料を期間内に回収しなければなりません。一方、日本にとってIPは大切なブランドです。中国のゲームはマネタイズするため課金が基本なので、“敵を斬る”などアクションが主流。でも、日本側からしたら、キティちゃんや(クレヨン)しんちゃんが刀でモンスターを斬るとかは絶対にダメでしょう。絶対に出資分をリカバーしなければならない中国と、キャラクターイメージを守りたい日本、その意識の違いから、開発の途中で破談になるケースがとても多いのです」

しんちゃんに刀でなくピコピコハンマーを持たせる

 そこでアクセスブライトは、両者の間に立ち、日本の権利者側の意向をくみつつ、中国側に売れるための“改変”を提案していく。 「例えばクレヨンしんちゃんの場合は、木刀で殴るのはダメだったのですが、素手ではアイテム(課金)になりません。そこで“ピコピコハンマー”を提案。これなら日本人も理解できます。また、ゲームではモンスターが出てくるのですが、中国のゲーム用に日本で描き下ろしてもらいました」

 『クレヨンしんちゃん』『ハローキティ』『デート・ア・ライブ』とも日本から中国での独占ゲーム化権を得て、スマートフォン向けゲームを最初から中国で「ゼロスクラッチ」(一から開発)。現在、『デート・ア・ライブ』においてはサービス開始から1週間ほどで既に200万ダウンロードを突破しており、スマッシュヒットになっている。

「ハローキティ―ワールド2」。アクセスブライトが全世界向けにサンリオウェーブと共同開発、500万 DL を突破したスマホゲームの第2弾。日本でも10月15日から配信開始となった(c)'76, '96, '01, '05, '18 SANRIO E 著作(株)サンリオ
「ハローキティ―ワールド2」。アクセスブライトが全世界向けにサンリオウェーブと共同開発、500万 DL を突破したスマホゲームの第2弾。日本でも10月15日から配信開始となった(c)'76, '96, '01, '05, '18 SANRIO E 著作(株)サンリオ
「デート・ア・ライブ 約戦:精霊再臨」。ライトノベル原作で、アニメも人気の『デート・ア・ライブ』のスマホアプリ。KADOKAWAから許諾を受けた(c)2015 T・T/K/DALM・P
「デート・ア・ライブ 約戦:精霊再臨」。ライトノベル原作で、アニメも人気の『デート・ア・ライブ』のスマホアプリ。KADOKAWAから許諾を受けた(c)2015 T・T/K/DALM・P

アニメのIPから『君の名は。』配給へ

 ゲーム事業を通じて分かったことがもう1つある。「アニメのIPとしての強さ」だ。

 「日本のアニメは、海賊版DVDやネット配信により、中国本土、アジア全域で見られていました。中国では、日本と時差なく、(日本では一見認知度の低そうな)深夜放送の作品も含め、アニメのキャラクターはIPの価値が非常に高かったのです」

 14年2月にドワンゴの子会社であるMAGES.と提携し、ゲームから深夜にテレビアニメ化されコアファンをつかんでいた「STEINS;GATE」のモバイルゲームの中国内での独占配信権を獲得。14年8月のリリース当日、App Store有料アプリ11位、ゲーム有料アプリ6位と初動から好調な売れ行きを示した。

 アニメに関係するモバイルゲームで実績を残すなか、アクセスブライトは第2の転機を迎える。『君の名は。』の中国公開だ。

 15年11月、アクセスブライトは中国の映画製作&配給会社で急成長中の光線伝媒(エンライト・メディア)と、中国映画市場における映画の日中共同製作、配給に関する業務・資本提携契約を締結。同年11月、柏口氏は、エンライトと日本最大の映画会社・東宝の間で橋渡しを行うことになった。

 「中国の国産アニメで最大のヒット(興収約192億円)となった田暁鵬(ティエン・シャオポン)監督の『西遊記 ヒーロー・イズ・バック』について、東宝とエンライトで話し合いの場があったんです。そこでエンライトからの『日本のいいアニメはないか?』という問いに、東宝さんは『君の名は。』の名前を挙げました。

 当時、新海誠監督は、日本ではコアファンが知る人ぞ知るクリエイターでしたが、中国では既にとても人気がありました。そこでアクセスブライトが東宝とサブライセンス契約を結び、エンライトと契約。日本公開からわずか3カ月で公開することができたことも功を奏し、中国における邦画アニメ歴代1位となる興収(約94億円)を出すことができたんです」

『君の名は。』のヒットは“海賊版”にあり

 ここにも、中国で成功を収めるためのヒントがある。意外にも「海賊版マーケットが功を奏した」というのが1つ。

 「全アジア、ご多分に漏れず中国本国でも韓国のドラマやK-POPは大人気ですが、韓国は実は、あえて“海賊版を放置する戦略”を取っているんです。第1段階は海賊版や違法配信を見逃し、中国でバーッと広める。人気が出た第2段階で、IPでもうける。第3の段階でごそっとマネタイズする、という考え方。

 新海さんの作品も、かなりの数の海賊版や違法動画が出回っていたようですが、あの作家性、緻密さは、マネできるものではありません。定量化はできませんが、ファンを確実に増やし、『君の名は。』で一気にマネタイズできたのだと思います」

 もう1つ見えてきたのが、「3DやIMAXでかけられる作品かどうかの違い」だ。

 「中国には現在、日本の14倍にも及ぶ5万スクリーンありますが、実はこの半分が3D対応かIMAX対応なのです。日本では、3Dは高額だったり目が悪くなるなどといわれそれほど普及しませんでしたが、中国では平面(2D)の映像価値を見いだせない──つまり、『タブレットで、タダで見ればいい』と思っている節がある。『3Dならお金を払うけど』と。

 例えば『タイタニック』(1997年)は2014年に3D化され、中国では興収100億円を超える大ヒットとなりましたが、ハリウッド大作が軒並み100億円を突破する理由はそこにあります。『君の名は。』は3Dの劇場ではかけられなかったですが、これがもし3Dだったら、3DCG作品の『西遊記』が192億円だったことを考えれば、それぐらいの爆発力はあったかもしれません」